第12章 おまけの話
✽ おまけの話 1 (市井の子供と本屋の話)
「お前、その本はどうやって手に入れたんだ。万引きしたんじゃないのか」
「違いますよ、本屋のおじさん。
これは王立図書館で借りた本です。ここに登録番号と印が押されているでしょう? 」
「借りただと? お前、字なんて書けないだろう。嘘を付くな」
「おじさんは本屋のくせに王立図書館へ行ったことがないんですか?
字を書けない子供にはスペルが覚えられるように学習帳がプレゼントされるんですよ。
そして最初に本を借りる時には、図書館司書さんがちゃんと名前の書き方を教えてくれるんですよ。
僕もちゃんと自分の名前が書けますよ」
「す、すまん……」
✽ おまけの話 2 (看守とワルターの話)
「お前さあ、なんでよりによってルートン=ガルバン卿に逆らうと思ったんだ。
第二王子の親友で、国のお偉いさんにも重用されるくらいのお方をさ。
男爵すっ飛ばして、子爵とか伯爵とかの爵位を授けられるのも時間の問題だって、もっぱらの噂だぞ」
「そんな凄い人だなんて知らなかったんだよ。ただの地味な図書館司書だと思ってたんだ」
「地味か? かなり派手だろう。金髪碧眼の美形でさ」
「だけどオーラがないというか、存在感ないというか」
「お前、図書館へ行ったこともないんだろう。彼の仕事ぶりを見たらそんなことは言えなかったと思うぞ。
それに、そもそも人を雇おうとしてみんな断られたのだろう?
そこで普通気付くだろう。狙う相手がやばい相手なんだってことをさ。
お前は相当頭が悪いな」
「うっ!」
「お前、あの方の後を付けようとして、いつも邪魔されていただろう?
あれな、お前同様にストーカーしていた奴らなんだよ。
チョロチョロしていたお前が鬱陶しくて邪魔していたらしいぞ」
「えっ?」
「まあ、彼らはお前と違ってあの方を本当に崇拝するただの追っかけで、悪さをするつもりがなかったから見逃されていたんだが。
彼らに感謝するんだな。
そのまま付きまとって、人目の付かない場所で彼に危害を加えようとしていたら、お前、今頃息をしていなかったと思うぞ。伯爵家の護衛か王家の影に瞬殺されてさ。
今回人前でやらかして、むしろ運が良かったな」
「えっ!!」
✽ おまけの話 3 (ランドル=ガルバンと護衛の会話)
「今回は弟を守ってくれてありがとう」
「いえ、私は何もしていません」
「暴漢を捕らえて、騎士団に突き出してくれたよね?」
「ええ。ですが、実際にあの子爵令息を身動きの取れない状態にしたのは、コスナータ男爵令嬢とルートン様です。見事な連携プレイでした。
私のしたことといえば、ルートン様に縛り上げる紐を手渡したことと、騎士団に引き渡したくらいですね」
「そうだったのか?」
「彼は迷わず私に向かってロープを要求しましたから、私のことに気付いていたのではないですかね。
たとえばの話ですが、あのご令嬢と結婚されたら、ルートン様に護衛はいらなくなるかもしれませんね」
「それは経費節減になるかも……」
護衛はつい余計なことを言ってしまった。
この後、ガルバン伯爵家の護衛達は、誰がクビになるんだろう……とみんなハラハラドキドキしたとか。
もちろん、誰もリストラはされなかったが。
✽ おまけの話 4 (アルスト王子と影の会話)
「王家を守る影なのに、いつもルートンの護衛をさせてしまってすまないね。
ルートンにも礼を言わせたいんだけど、彼は気付いていないみたいでね」
「影としては気付かれたのでは困るので、感謝されない方がむしろ嬉しいですね。
というか、むしろこちらの方がルートン卿に感謝したいくらいですよ」
「なぜだい?」
「いつも予定なんて完全に無視して、自由気ままに行動する殿下を護衛するよりも、判で押したように寄り道などせず、屋敷と図書館の間を往復されるだけのルートン卿の護衛の方が、ず〜っと楽ですからね」
「……すまない……」
読んで下さってありがとうございました。