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第1章 婚約破棄騒動第一幕

短めの連載です。

第6章まで10分ごとに更新します。

よろしくお願いします。


 引きこもり気味のルートン=ガルバン伯爵令息は、仕事以外では滅多に外へ出ることはない。

 夜会やイベントなどは、年に一、二回出ればいい方だ。

 ところが、そのわずか二回参加した外出先で、彼は同じ男女の修羅場に遭遇し、巻き込まれる羽目になった。


 

 一度目は一年前。

 上の姉の夫が突然熱を出したので、急遽パートナー役に駆り出されたとある伯爵家の夜会でのことだった。

 その主催者の遠縁に当たる子爵家の令息が、婚約者の令嬢に婚約破棄を突き付けたのだ。

 しかも、腕に婚約者ではないご令嬢にくっつけて。

 

「アイラ、お前みたいに愛想がないつまらない女とはもう側にいたくない。

 芝居や演奏会に誘っても断ってばかりだし、何を贈っても喜ばないし、身に着けようもしない。

 全く可愛げがない。

 それに比べて幼なじみのベラは僕がプレゼントを贈れば目を輝かして喜んでくれる。

 レストランで食事をすれば美味しい美味しいと感激してくれる。

 本当に素直で可愛い。

 僕が毎日勉学に励めるのはベラの愛情のおかげだ。

 それに比べてお前は僕のやる気を下げる駄目女だ。そんな女は僕の婚約者には相応しくない。

 だから婚約破棄だ!」

 

 何言ってんだ、こいつ。とルートンだけでなく、その場にいた者達が全員思ったことだろう。

 すると、婚約破棄と言われたご令嬢は、たまたますぐ近くにいたルートンに向かってこう言った。

 

「私はコスナータ男爵家の娘でアイラと申します。

 大変申し訳ないのですが、今ワルター=オルドス子爵令息が婚約破棄と発言したことの証人になってはいただけないでしょうか?

 後になって言った、言わないという水掛け論は避けたいものですから」

 

「えっ?」

 

 突然見も知らない令嬢にそう依頼をされたルートンは目を見張った。

 

「なぜ私に?

 今この場にいる皆さんが全て証人でしょう?」

 

「いいえ。彼と利害関係にある方が多いはずですから、必ずしも私のために証言して下さるとは限りません。

 でも、貴方はとても誠実そうな方のようにお見受けしますから」

 

 彼女はこんな修羅場だというのに、少し微笑んだように見えた。

 美しい青いラピスラズリ《瑠璃色》色の瞳を見た瞬間、なぜか既視感を覚えて、ルートンは頭を捻った。

 

(それにしても、この子大丈夫かな。証人に僕なんかを選んで)

 

 彼はこれまで、自分が誠実な人間だと思ったことは一度もなかった。

 なにせ、とても貴族令息とは思えないほど、ご気楽に好き勝手、自由気ままに生きてきたのだから。

 そう。それくらいの自覚は持っていた。

 

 どう見てもデビュタントを迎えたばかりの、まだ十五、六歳くらいにしか見えないご令嬢。

 彼女の両親と思える中年の男女は青ざめて震えている。おそらく婚約者の男の家の方が彼女の家より爵位が上だからなのだろう。


(役に立たないな。娘が理不尽にやり込められているのに)


 ルートンはそう思った。

 

(男の家の力がどれくらいなのかはわからない。しかし子爵家らしいし大丈夫だろう。

 仮に今回の主催者である伯爵家が関与してきたとしても、いざとなりゃあ幼なじみに頼めば、まあなんとかなるだろう)


 他力本願ではあったが、彼は彼女の頼みをきいてやることにした。

 鷹揚に頷いてやると、彼女はにこりと微笑んで、再び婚約者に向かい合った。

 

「たとえ可愛気や愛想がなく、お気に召さなかったとしても、今現在私は貴方様の婚約者です。

 それなのに私を無視して放置した挙句、別の方をエスコートし、ダンスをし、今こうして腕を組んでいるという状況は、不貞行為ですよね?

 しかも、学園でも普段からお二人は仲睦まじく、手を握るどころか、抱き合ってキスまでされていたそうですね? こちらも目撃者がたくさんいるとお聞きしています。

 このような状況で婚約を解消するとおっしゃるのなら、どう考えても貴方の有責ですよね?

 もちろん、解消しますよ。ただし、貴方とそのお隣の方にも慰謝料を請求させて頂きます」

 

 彼女の言い分は誰が聞いてももっともな話だった。

 でもまあ、奴らはそう思わないから、こんなに招待客がたくさんいる中でやらかしたのだろうが。

 阿呆面になっているあの二人は、巷で流行っている小説の真似事でもしたかったのだろうか?とルートンは思った。

 

 

 

 そして、そのパーティーから二週間後、ルートンの元に裁判所から通知が届いた。

 例のご令嬢が提出した婚約解消申請書に書かれた内容が事実かどうか、それを確認して欲しいとのことだった。

 てっきり証人として呼び出されるかと思っていたので、彼はそれを意外に思ったのだった。



続けて投稿します。

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