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火水風土  作者: 田中 椿
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死ぬまでにやりたい事

これはサニーニャ視点で書いたものです。


 私は、診察室の扉に寄りかかり、お母さんと先生の話してる事を聞いていた。

 最初は、何か異変は無いか、とか私の体調など周りの人の事を話していた。だが、話が終わり、しばらく沈黙が続いている。

「彼女もうかなり病気が悪化してますよ」先生が突然言った。それは衝撃的で、信じられるような事では無かった。でも、うすうす気付いてはいた、確かに悪化している。少し走るだけで息切れをするようになった。お母さんは、気付いていないようでよかった。

「えっ! でもかなり元気ですよ、ここに来る前とは大違いです」必死に訴えっているその声は泣きそうだ。

「私もびっくりです。あんなに元気なのに、病気は悪化してる。本当はもう前にお亡くなりになってもおかしくない状態なのに、本当にここまで生きれたのは奇跡ですよ」ここまで生きてこれたのが奇跡か、こんなに生きれて良かったよ、じゃあ。こんなに生きれたんだから今、死んでも後悔しないな。

「で、先生治るんでしょうか。先生はあの子のこと、治せるんでしょう」

「残念ながらあの子は、私にもほかの先生方にも治せないでしょう」とても沈んだ声で言っている。多分、先生は下を向きながら言っている。悲しいときはいつもそうしている先生だったから。すすり泣く声が聞こえる。

「嘘でしょう、あの子はただ死を待つしかないのですか」お母さんの初めて泣き声を聞いた。これまで、私の病気を聞いても泣かなかったのに。

「はい。そういうことになります」とても悔しそうな声だ。本当に私のこと考えてくれてたのか。

「本当に治せないんですか? どこに行っても?」

 お母さんは食い下がった。

「えぇ、でも私だって一流の医者として通っています。出来ることをして限界まで尽くします」さっきとは違って声が明るい。希望に満ちていると言うのかな?

「ありがとうございます。あの子は、いつ逝ってしまうかもしれないのですか?」

「私の予想なのでわかりませんが、長くて2、3ヶ月でしょう。でも、もっと生きれるかもしれません」明るかった声が急に沈んだ。

「そんなに短いんですか!」

 取り乱して声が裏返った。

「あくまで予想ですから、落ち着いて聞こえてしまいますよ」穏やかな声でお母さんをなだめる。

「そうですね、たかが予想ですよね。大丈夫です、もう落ち着きましたから。それじゃあ、これからはやりたいことをやらせてあげます。それでは……ありがとうございます」鼻をすすると、扉を開けた。すぐに私は座っていた椅子に座った。

「ねぇ、先生なんて言ってた? 嬉しい知らせ? 悪い知らせ?」

 お母さんは今にも泣きそうな顔で固まっている。

「お母さん!」

 お母さんの腕を揺らしながら叫んだ。我にかえったようで、

「えっ、何?」

 とおかしな顔で聞いてくる。

「だから、先生なんて言ってた?」

「あっ、うん。もうすぐで治るって。頑張りましょうね」笑顔で答えてくれた。でもその笑顔は引きつっている。固まってる時の顔は自分でわからなかったのかな? 泣きそうだったのに、それを見てから言われても全然説得力がない。だけど私を傷つけないための嘘だとわかってるから、私は知ってるなんて口が裂けても言えない。

「そっか、良かった。じゃあ行こうか」お母さんの手を取り、握りしめる。

「ねぇ、今日、何食べたい? なんでもいいわよ」前を見たまま言う。こんなこと言われたの初めてだ。

「いつもどうりでいいよ。でも、久々に焼き魚とか食べたいな」お母さんのほうを見るが、こっちを見ない。悲しくなってきた。

「そう、今から買いに行きましょうか。サニーニャ」

「うん」

 歩いている間に考える。お母さんは私を一人で育てた。お父さんは私と同じ病気で私が生まれる前に死んでしまったらしい。私が死んだら一人ぼっちだ。そしたらどうなるのかな? お母さんは私が病気と聞いたとき、ひどく落ち込んでいた。私も聞いたとき、どうせ死ぬと思って部屋にこもりきりで、迷惑を掛け続けた。でも、ベラに会って不思議と死にたくない気持ちになった。不安だ。私が居なくなったら自殺とかしちゃうんじゃないかって。

 そうか、死ぬまでの間にお母さんとの思い出をいっぱい作ろう。私も悔いの内容に生きよう。

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