本
「ベラ起きて!」
ベラを揺らしながら言った。
「何? トナ」ベラは、眠たそうに言った。
「今日は掃除の日なんだからね。早く起きて着替えて」そう言いながらトナは自分の古着を渡した。それをベラは取り、パジャマを脱ぎながら、ご飯は? とぼそっと呟いた。それを聞き逃さなかったトナは、
「あぁ、用意するの忘れた。いっか掃除終わったらで」と陽気に答える。
「用意出来たよ。で、どこ掃除すんの?」
自分のベッドに座り、言う。
「あんたは、自分の部屋と書斎。私は庭と自分の部屋と一階やるから早く終わらせて来て、手伝ってね」雑巾をベラに投げながら言う。ベラが取ったのをチラッと見ると、部屋を出ていった。だが一言、言うのを忘れてすぐに戻って来た。顔をひょいと少しドアから出して、
「サボるんじゃないよ」と釘を刺した。
「はいはい」めんどくさそうに答えると自分の部屋を掃除し始めた。と、いってもベラの部屋は元々綺麗なので、掃除する所なんて無かった。
「次は、書斎か」ベラは、はぁとため息を吐く。
でも、少しわくわくしていた。書斎は階段をベラの部屋で挟んだ所にある。書斎なんてまだ数えるほどしか入ってない。
一回目はトナと、二回目は最悪だった。サニーニャと家で鬼ごっこしていて、ベラが書斎に入ったら本棚に当たって、本が全部落ちてしまった、その音を聞いたのかトナが駆けつけて来て怒られた時から、トナが居ない時だけ書斎に入るようにしてる。
でも、この頃はあまり入ってない。
「あっ本が増えた」
トナの本棚には太くて字が小さい本ばかり、その中で一番太くて古い本は、隣の大きな教会を建てた人から代々守ってきた物らしい。設計図やなんかが書いてあると噂だが、誰も開けた人はいない、いや、開けられた人がいない不思議な本なのだ。
ベラは好奇心でその本をとった、自分なら開けられるんじゃないかと思ったからだ。
本はベラが思った通り普通に開けられた。本の中は噂どうり、教会の設計図だ。
「何だ普通に開けられるじゃない」少し拍子ぬけしたような声で言った。自分なら開けられるとは思っていたものの、開けられなかったら無理矢理でも、と少し開けられない方に期待をしていた。
「そうかな?」知らない声が聞こえた。
「誰!」驚いて後ろのドアを見た。だが誰もいない。居てもここには住んでいない人だ、この声は聞いたことがない、きっとこういう声はハスキーボイスと言うのだろう。
その声がまた喋った。
「私はこの部屋に居るけど、体はないよ」ふははははっと笑った。ベラは透明人間? と思ってみたが馬鹿らしくて口に出すのは止めた。
「いいから誰なの?」
馬鹿にされてるみたいで嫌な気分になった。
「もう降参かい? 声の聞こえる所を見てるっていうのに。ふはっ、まぁいいや。私はお前が持ってる本だよ、ベラ」それを言われてみれば、声がするのはこの本だというのに気がついた。
「なんで私の名前を知ってるの? あなたの名前は?」
これは一番知りたいことだった。
「私はマーヴェラよ。まぁ、お前の名前を知ってたのは友達に教えてもらったからよ。嘘だけど」また、ふははははっと笑うとすぐに、「予言者だからよ」と本当のことを言った。ベラは少ししか話してないのに、マーヴェラの嘘だけどが口癖のようだ、と思った。
「それじゃあ、マーヴェラ。なんで喋ったの? 他の人には喋りかけなかったのに」
「いきなり呼び捨てかい?」
それを言った割にはきつい言い方じゃなく、別にどっちでもいいけど、というような声だ。それに気付いたベラはわざとらしく言う。
「じゃあ、マーヴェラさん?」
「いや、マーヴェラのほうがいいね、ふはっ」面白そうに言う。気付いてはいたけどその口ぶりに言わなきゃいいのに、と思った。本を机の上にそのまま置き、ほうきで床を掃く。
「ねぇ、さっきに質問の答えは?」
床を掃きながら聞いてみた、少し話をはぐらかされてるような気がしたからだ。
「最初は喋らないつもりだったよ」
声が変わった。真剣で、少し冷たい、さっきまでとは違う声だ。空気も違う、緊迫した空気になった。
「たまにね。この本を開けられる人がいるのよ、多分その人だと思ったから設計図になった。
でもね違った……お前はこの本の持ち主だ。何年も待ったかいがあったよ」最後は優しかった。空気がもとの空気に戻り、声もさっきの声に戻った。
その時、タイミングよくトナが階段の下から話しかけてくる。
「ベラー、まだなの?」
少し怒っているようだ。時計を見てみると掃除を始めてから1時間経っている。普通は元々綺麗なベラの部屋に、少し埃が目立つくらいの書斎を掃除するには30分あれば終わる、なのにそれを30分も過ぎてもまだ床を掃いただけだ。
「もう少しだよ。トナが思ってるより汚いんだよ!」
「どうせ、本でも読んでるんでしょ」さっきのベラの返事は軽く無視され、自分の意見を勝手に言う。それにイラッときて強く、読んでない! と言い返す。
「別にどっちでもいいけど、早く終らせてきて」
「はいはーい」と返事をするとトナはどこかへ行った様だ。
「うそつきだねぇ、ふふ」ベラは今顔が見えたらニタニタしてるな、と思った。
「嘘なんてついてないよ。私はマーヴェラと喋ってるんだ」勝ち誇ったような顔をして言う。
「まぁ、考えてみるとそうだね。ふはっ、でもそれは屁理屈っていうんだよ」こちらも対抗してなのか勝ち誇ったような声で言っている。あははっとベラが笑い、言う。
「もう掃除するからさよならね」勝手に本を閉じようとする。すると、マーヴェラがそれを止めた。
「ちょっと、私はここにいるけど意思がある、普通の本じゃないのよ。それにこれはお前のじゃないんだから勝手に自分の物のように扱わないでよ」
さっき言ったことと矛盾してることにベラは気が付かず、彼女は謝った。
「ごめんね。でも、もう終わりだから」
「それじゃあ、これだけは約束よ。毎日ここに来て」その声はとても真剣な声だが、さっきとは違う、冷たくなく逆に暖かい。
何故かベラは喋り方がが覚えてもいない母親のような感じだと思った。
「わかった。じゃあね」
そのあと、マーヴェラの声が聞こえなくなったので本をそっと閉じ、もとの場所に戻すと走ってお風呂場に行き、バケツに水をため書斎に戻ると雑巾で床と小さい窓を拭く。ここは本棚のおかげで小さいので早く終わり、雑巾を洗ってからバケツを風呂場に置いて、すぐにトナのいる庭に向かった。
「今頃来ても遅いわよ。もう下の階しかないよ」声が疲れきっている。
「じゃあ、トナより少し多くやるよ」
「よし、だったら私は台所をやるから、それ以外は全部お願いね」ニコッと笑い言う。
「えっ、あぁもういいや。わかったよ、やるよ」しょうがないと心の中で呟き家に入った。
最初は風呂場に行く。浴槽は綺麗なのだが周りが石鹸などで散らかってる。置き物くらい買ってくれ、とベラは思う。全部綺麗に端へ寄せる。
そんな感じで全ての掃除をする。居間なんかは、毎日掃除してるので意味がなかった。
掃除が終わったのは5時だった。それからご飯を食べたのは2時間後だ。お腹が空きすぎてあまり入らなっかった。そのあとはお風呂の中で寝てしまったので、すぐにでて寝ることにした。