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火水風土  作者: 田中 椿
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過去

 それは突然起きた、彼女の心をねじ曲げるようなことは。

 小学三年生の時、彼女は母親に突然殴られた。でも、彼女は黙って殴られた。泣きもせず、助けてとも乞いもしなかった。なぜなら友達に怪我をさせたから、もしかしたらその子は死んでしまうところだったのだ。悪いと反省していた、先生にも怒られたし、親に電話すると言われていたから、こうなるような気はしていた。だけど、殴り終わったあとに電話が鳴り、母親が受話器をとった。怖い顔をして戻ってくる。

「あんた、何したの!」

 と怒鳴った。彼女は理解出来なかった。

 さっき殴ってきたのは先生からの電話があったからなんじゃないの? なんで今頃そんなんこと聞くの、しかも電話が終わった後に。

 頭にはこんなことしか出てこなかった。頭の整理が出来ないうちに母親は、もう一度同じことを繰り返した。

「わ、私はただ怒っちゃっただけだよ」彼女の声は震える。無理もない今の母親は怖い、怒ってもこんな顔はしなかった。

「怒っただけで殺しそうになるの!」母親は怒鳴るとまた殴った。

 その一撃で彼女は気を失った。


 彼女が友達に怒った訳は、その子が彼女を化け物扱いしたからだ。

 彼女は友達に唯一の両親にも言えない悩みであって、秘密であったことを学校の近くの池で話してみた、それに見せてもみた。受け入れてくれると思っていた、自分が化け物だということを。だけど、違った。その子の反応はとても五年間友達だった反応ではなく、初めて会った化け物から逃げるようだった。その反応に、化け物だと自覚していた彼女も怒り狂った。肩まである綺麗なクリーム色の髪は水色に変わり、緑の目の色も水色に変わった。池の水を操り、その子に津波のような水を思い切りかけた。当然水圧で池に流され、彼女は上から水をかけ、自分も池に飛び込むと水中で友達の首を締めた。

 それを見ていた学校の友達が先生を呼び、みんなで駆けつけ、池から助けた。友達の方は息ができていない、すぐに人工呼吸をして病院に連れて行かれた。そして、サナが池から出ると池の水が無くなってしまった、みんなに秘密がばれてしまった。みんなは騒ぎ立てた、先生は場所を変え、怒り出した。

 そしてああなった。


 一時間か二時間たった後、サナは起きた。自分の部屋にいて殴られた跡が見えないよう服が長袖になっていた。隣の居間を見てみると、ヘルはソファに座り、何事もなかったかのようにルーンと話してる、それを見て、戻ったのかとサナは安心した。そして、話の輪に入り、驚くことを聞かされた。サナに姉弟が出来るのだ、ヘルは妊娠三ヶ月だと言う。その嬉しい知らせにさっきまでのことは全て忘れてしまった。

 そして次の日。学校に行くとみんな寄り付かない、挨拶しても無視される、机には化け物はもうここに来るな! と書いてあった。それから優しかった先生も無視するようになった。最悪の学校生活の始まりだった。でも、サナは挫けずに姉弟が出来ることを糧に毎日通った。

 それから、五ヶ月くらいたった時にまたヘルが殴るようになった。

 サナは何もしてないのに殴られた事に驚いたが、この前のようにすぐに元に戻ると思った。だが、考えてみると、止めることができるであろうルーンはしばらくほかのところに土地を見に行っている、しばらくは帰ってこない。そして、悟った。母はこれを待ってたんじゃないのか……、と。

 最悪の日々だった。学校へ行くと無視され、あの友達が退院したので、教科書を隠されたり、チラリと見ると近くの席の子にヒソヒソと悪口を言われたりと陰湿ないじめを受け、家へ帰ると妊娠してる母からの殴る、蹴るの繰り返しだった。助けてくれる人は誰もいない。とても死にたくなった。

 そして、ルーンが帰ってきた。それをはかったように赤ちゃんが生まれた。

 その赤ちゃんはサナの弟で、ルーンはとても喜んだ。だがその子はすぐに肺炎になり、一時間もしないうちにこの世から居なくなった。それが母には耐えられなかった。なぜなら、今回の赤ちゃんは男の子でないといけない、という思いに駆られていたからだ。それはルーンが女の子が欲しくないということからだった、サナは丸っきり望まれないで生まれてきた子ということだ。ルーンの方はサナが生まれてガッカリはしたが、今では関係なかった、でもヘルの方はルーンに嫌われたんじゃないか、もしかしたら捨てられるかもと過剰に反応していた。だから、妊娠したと知ったときは、やっと思い通りになると考え、サナに今までの怒りをぶつけたのだ。

 だけど、その希望の赤ちゃんが死んでしまった。ヘルはしばらく部屋にこもっていた、そして久しぶりに出てきた、と母を見ると目がうつろで生気がない、サナはその場で固まってしまった、母の背中を見ると自分の部屋に向かっている、どうしてだろうと

「ママ、どうしたの?」

 と声をかけてみた。すると驚くことを言われた。

「あんたがいるから幸せになれないのよ! だから、私は死ぬわ」

 それを聞いて、目的はベランダかと悟り、父を呼んだ。

 その間にヘルは飛び降りた。


 だが、死ねなかった。


 そのベランダは低かった。だから飛び降りても打ち所が悪くなければ骨折程度ですんだ。でも、ヘルは頭を打ったため記憶を失った。全てではなく、一部の赤ちゃんを妊娠してから、死のうとしたところまでだ、これが一番辛かったことだったんだろう。

 ヘルが入院してるときに、サナはヘルの部屋に忍び込み日記を見つけた。その日記はサナがいらない子であることが全て書いてあり、生まれてきたことの怒りも書いてあった全てなぐり書きだ。恨みが募ってきた。いつも優しかった母がこんなこと思っていたなんて、と。死のうとしてる時のは酷かった。だから破り、燃やした。


 人は信じられない、笑顔の裏で何を考えているのかわからない。あの子だって何があっても一生友達だって言ってたのに、結局裏切られた。パパだって私のこと生まれてこなければよかったのにって思ってるんでしょ、信じちゃダメだ。


 そしてスノアークスに住んだ日からサナは笑顔を絶やさない女の子になった。明るくていい子だ、皆がそう言う。

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