行方不明者
次の朝、ベラは外の騒ぎに起こされた。その騒ぎはだんだんと大きくなる。
何て言ってるかベラはやっと気づいた。
それは、
「ベラを出せ」と言う町の人々の声だった。
そしてトナが、
「何ですか! 朝から騒々しい!」
ドアを開け、思い切り叫んだ。
「ベラを出せ!」
一同は気持ち悪いくらいに声をそろえ言う
「だからなんなんですか!」
躍起になってまた怒鳴る。
「いいから、ベラを出せ!」
これでは何を言っても聞かない。トナは人々の顔を見た。憎しみと怒りがあらわになっている。どうして来たかなんて、言われなくても分かっている。だが、叫ばずにはいられない。
「お願いだトナ。ベラを出してくれ」トナのお父さんが前に出てきた。
「パパっ、これはどういう事! 話して」
「落ち着けトナ、言わなくても分かっているだろう?」
トナは黙って頷いた。だが、手のひらを強く握り締めた。
「今連れてくるわ」
「私ならここに居るよ」怒りをそのまま声にしている。
ベラが階段から降りてくる。その顔を見ると父親の顔が怒りに歪んだ。
「なんでいるんだ?」
「昨日の火事の事とお前の暴走のことだ」ベラを指差し言う。
「そうだ」後ろの人々が声を合わせていった。
「暴走? 何のこと?」ベラはとぼけた。あれを見てない人など、いるはずがないのを知っていてだ。
「とぼけるな! お前が暴走したせいで町がめちゃくちゃだ! 火事で助かった人は、家を失くし住む場所もない、家族を亡くした人だって大勢いる! 行方不明者だっている! どうしてくれるんだ!」
顔を真っ赤にしながら、叫ぶ。
「家を失くした人が居るなら残ってる家に住ませればいいそれで、また家を建てればいい! それにね……」トナが、続きを言おうとしたらベラに止められた。
「言うなよトナ。あの事は」その声は人のことを脅す声だった。
「何で私だと思うの? 個人的な理由じゃなくてちゃんとした理由で言って」聞かなくてもわかるけど、と心で呟く。
「お前が火をつけるのを大勢が見た。どうやったかは分からないが火を操ってな」
「見間違いじゃないの?」
「確かにオレは、見たんだ。お前が火を手から出して家に向かって火を出すところを」前に居た男が全員に聞こえるように声を張り上げる。
「オレも見た!」
「私も」
次々に見たと言う声がした。
返事をしようとベラが口を開くと同時に女の人の大声がした。
「人殺しっ!!!」
怖いくらいに憎しみのこもった声だ。
「キーチ?」
トナが女の人の名前を言った。
「サニーニャのお母さん!?」
驚きを隠せない、とても優しくしてくれたサニーニャの母が、とてもほんわかとしていてゆったりとした雰囲気のあの人が、こんなにも禍々しい殺気のようなモノをだすとは、思ったことはなかったからだ。
「あんたでしょっ!」
サニーニャのお母さんがトナのお父さんを押しのけベラの胸ぐらを掴んだ。その顔はやつれていて、目の周りが赤い。ずっと泣いていたのだろう。
ベラはその顔を見れなかった。
「何が?」
この家族に何もしてないし、何かしようとも思ったことはない。
「とぼけないでっ! あんたがサニーニャを、サニーニャを殺したんでしょ」
お母さんは泣き、体を激しくふるわせている。
「私が……」唇を噛み、続きを言う「サニーニャを殺すわけないでしょ、友達なのに」
「じゃあ、何で帰って来ないの?」
即答だった。
「……」悔しそうに唇を噛み締める。それを言われては何も言えない。頭が真っ白になった、何も考えられない。
「私は町中の人に聞いたのよ」胸ぐらにあった手を離し、絶叫する。
「でも、みんなわからないって言うのよ! そしたらこの人があんたに殺されたんじゃないかって」隣にいる男の人を指さす。
「他の人はあんたの近くに居たって言ってたのよ。どうして、どうして殺したの。サニーニャはあんたと友達になって喜んでたのに、病気だって前は治そうともしなかったのにあんたと会って、サニーニャは治そうとがんばってた。あんたは知ってたでしょう、サニーニャがもう永くないって、サニーニャから聞いたでしょう。なのに何で殺したの! 後2~3ヶ月よ、全然長くないじゃない。死んで欲しかったなら、待っててくれればよかったのに! なんで、なんで殺したのよっ! 返してよ、返してっ! あんたと会わなきゃサニーニャだってもっと生きてた! 返してよっ!」
お母さんは泣き崩れた。我慢していたものをぶちまけたのだ。
「あああああああああああああああああああああああ」ベラは、叫ぶと頭を抱え自分の部屋に走った。