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火水風土  作者: 田中 椿
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悪魔

 家に入ると思ったとおりにトナはカンカンだ。綺麗な顔が鬼のようになっている。

「何をしたの!」

 と、トナ。その声を聞いてイライラしてきた。何が! と怒鳴る。

「何がじゃないでしょ! 起きるとあんたは居なくて、帰ってくるとあんたはボロボロ、町は火事! あの火事はあんたが起こしたんでしょ! どうして使ったの?」

「どうしてか? 話すよ! でもトナは信じない! 絶対に」怒鳴り過ぎて頭が痛くなる。

「信じるから、話して」いつも優しい顔で言う。信じないと言う言葉に反応したのだ。

 それじゃあ、と決心して話し始める。

「事の始まりは、掃除の日。トナが何話してるのって聞いた時、私は本と話してた」トナの顔を見ると元の鬼の顔に戻っていた。

「ええ、信じてない。もっと現実味のあるいいわけをしなさい」

 いいわけじゃない! 怒鳴ると間をおき言う。

「これが現実なの。証拠ならあるよ、2階のトナの書斎。信じないなら行くよ!」

「わかったわ、行きましょうか」

 2階に行ってベラは、マーヴェラの居る本を取る。

「ベラ、それ、開けたの?」

 トナは恐る恐る聞いた。

「そうだけど?」何か問題とキョトンとして言う。

「どうやって……」

「それは後だよ。マーヴェラ起きて」

 本を床におき、自分たちも座る。

「あら、今日はお客さんもいるのねぇ?」

 すぐにハスキーボイスが聞こえた。

「うん、トナだよ」少し不機嫌な声で答える。

「あぁお前の育て親。こんばんわ、トナ」

 トナは固まっていた。本が喋ってるということが信じられない、現状が全然わからない。だから裏返った声でやっと口を聞いた。

「なんで、本が……喋ってる」

「私にも分からないわ。でも、喋ってる。分かった? 私は嘘なんてついてない」

「ごめんなさい」抱きつくと「私しか信じてあげられないのに」と今にも泣きそうな声で言う。彼女にとってベラを信じられなかったのはショックなことだ。怒りに任せてベラを信じることを止めた、とても自分を恥じた。

「大丈夫だよ、別に気にしてないから」優しくなだめる。すると、わざとらしく咳きをすると、

「いいところ悪いんだけどね。私もいるのよ」マーヴェラが言う。その声は嫉妬も入ってるようでとても複雑だ。

「あぁ、うん。ごめん」ばつが悪そうに二人は離れた。

「それでいい。それで、当たった?」

 いつも通りの何も気にしない声に戻った。

「当たった」下を向いて、素っ気なく答える。

「ヤッタね」

「なんで喜べるの! だいたい聞かなくてもわかるでしょ」ベラには驚きしか出てこない。

「当たったから喜ぶのよ。それに運命は変えられちゃうのよ」陽気に話すマーヴェラ。体があったら踊ってるんじゃないかと思うほどだ。ベラはふんっ、鼻を鳴らす。

「ねぇ、なんの話してるの?」トナが首をかしげ聞く。

「マーヴェラは予言者なの。今、当たった? って聞いたのは今日のこと。私がこうなるの知ってたのよ」疲れたような声で言う。

「そう、私は予言者よ」どうでも良さそうに言うと「ねぇ、今日の話してよ」と話を変える。

 眠そうにあくびをしながら頷くと話し始める。

「海へ朝早く行ったの」

「へぇ~、お前私のこと結局信じたの」意地悪く聞いてくる。

「信じてなかったわよ、まったくね。でも一応行くことにしたのよ」

「どうして、海に行ったのよ!」大声で聞いた。

「マーヴェラが教会に行くな! って言ったからよ。ここは隣だから、一番遠い海に行ったのよ」ベラは眠たくて頭が重いのに、これからいちいち説明しなくてはいけないのか、と思うと気が重くなってきた。

「話を戻すけど、悪魔が」トナの大きなえっ、と言う声に邪魔された。

「悪魔!?」

「そう、悪魔だよトナ。多分、今トナが想像したので大体合ってるよ」呆れて穏やかに言う。

「で、でも、悪魔よ? そんなのいるわけないでしょ!」

 トナは取り乱した。

「ふははははっ、お前も同じだねぇ、ベラも同じこと行ったのよぉ。まったく、すぐに受け入れてくれない、頭が硬すぎるのよね」最後の方から独り言の悪態になった。

「私も同じこと言ったのよ、全然信じなかった。でも考えてみてよ、私の服はボロボロでしょ、それに火事よ? 私がわざとやると思う? そりゃみんなのこと嫌いよ、大っ嫌い。でも皆を殺そうとか、傷つけようとか考えた事ないわ」トナの目を見て説得する。しばらくの静寂。そして、

「えぇ、そうね。現に本も話してるしね、ごめんなさい。続きを話して」トナはやっと冷静になり、言った。

「うん。しばらく悪魔なんて来なかった。だからあんたに文句を言おうと思ったの」そう言って本を指す。

「でも、しばらくは行かなかった。で、立ち上がったら来たわ。黒いのと白いの。白いのは天使に似てた、黒いのは丸っきり悪魔だね」

「そいつらには一応名前があるのよ。黒いのがデビル・ビルクリル。白いのはエンジェル・ルリクルビ。エンジェルの方は本当の天使なんかじゃないからね」最後の一言はトナが期待のような表情を向けたからだ。

「ちなみに言うとね、エンジェルのが強いのよ、爆弾みたいの投げてきたでしょ、あれにあたると死ぬの。あんたには関係ないみたいだけど」

「嘘でしょ、簡単に死んだのに」口を開けて言う。

「今、殺したって……」

「うるさいよ。お前は黙ってな」マーヴェラが冷たい声で言う。トナはすぐに口を閉ざした。

 ベラははぁ、とため息をつくとこう言った。

「もう二人とも黙ってて、質問はあとで聞くから」

「はいはい」マーヴェラは面倒臭そうに答える。一方、トナはキッチリと答える。

「分かったわ」

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