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悪役令嬢だと思ったら伝説の悪役になりました~ラスボスはアイテムに入りますか?~  作者: 繭式織羽


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43話 狂フェンリルVS狂戦士VS魔族のおっさんよー!

 白キマイラの体から元のリッチの体へと憑依し直したキーマは、福籠(ふくごもり)(なぎ)の体をテーブルの上に横たえた。


 浴室の強化ガラスの壁に貼り付いたキューブはいまだに次元収納が開きっぱなしで、川のように海水が流れていたからだ。


「マスター! マスター! 返事をして!」


 呼びかけながら術式を編み、梛と白キマイラの体を冷やす海水を引き離す。周囲に熱を発生させ、体を温めるが、梛はぐったりしたまま指も口も動く気配がない。


 リッチになってから回復系の術式は使えなくなった。だから錬金術で薬や道具を作って対応してきたが、それもまだ梛の次元収納の中に残っている。


 キーマは素早く梛の頭を後ろにのけぞらせ、顎を上げて気道を確保した。人工呼吸を行おうとして、手が止まる。


 剥き出しの魔力回路が威圧的な紋様を描く魔族の腕。


 この体なら人工呼吸は可能だ。だが、心臓マッサージをする時の胸骨圧迫はどうする。魔族の体では力加減を間違えれば、人間の骨などいとも簡単に折れ砕けてしまう。


 助けられない。白キマイラでも、リッチでも、魔族の自分でも。


「どうすれば……」


 助けたい。助けたいのに。


「ここかあっ!」


 梛を失う恐怖に体を強張らせていたキーマの背後で、ベランダの窓が勢いよく粉砕した。


「!?」


 背で破片から梛をかばいながらも振り向くと、そこにはプラチナブロンドと派手な刺繍のスカジャンをなびかせ、狼のように眼光鋭いエルフの美少年がいた。


 キーマに気が付き、美しい顔に禍々しいまでの笑みを浮かべる。だがエメラルドグリーンの瞳は極寒の冷気を(たた)えていた。


「魔族の気配がするかと思えば……古代種とはなあ。森で玉座にふんぞり返っているよりよっぽど楽しませてくれるじゃねえか、なあ、オイ?」


 キーマは思わず目を見開いた。世情に興味のないキーマですら知っている悪名高き長。


 エルフ界の狂フェンリル……!


 と言うより、二つ名の方しか知らない……!


 人間だろうと魔王軍の残党だろうとお構いなしに地の果てまで追いかけてボコボコにする凶悪エルフ。


 勇者の末裔ですら手加減なしに叩きのめしたとか、運よく命からがら逃れた魔族がトラウマで300年ぐらい地底の奥底で引きこもりになったとか。そんなエピソードは枚挙に(いとま)がない。


 友人が高級酒を持ってご機嫌で館に訪れた時には、エルフを奴隷にした悪徳貴族の根城を陥落させて、わずかに残った城壁にタコ殴りにした貴族を簀巻きにして吊るしたなどという無茶苦茶な話を聞いたこともある。しかも一度や二度の話ではない。


 そんな極めて凶暴なエルフの美少年は、キーマの背中でほとんど隠れているものの、テーブルに横たわるのが梛であるのに気が付いた。エメラルドグリーンの目がすうっと細まる。


「てめぇ、俺の縄張りで随分好き勝手してるじゃねえか。覚悟出来てんだろうな」


「ここはマスターの家で(なれ)の縄張りじゃないです」


 ドスのきいた声で脅されたが、キーマは思わずツッコんでいた。その一言にふっとエルフ美少年の目から(けん)が取れる。


「てめぇ、そいつと契約……」


 エルフ美少年が言いかけたのを、別の怒鳴り声が遮った。


「誰だ上の階の奴ーっ!? ナイアガラの滝でも再現してんのかっ! 人ん家のベランダまでビッショビショにしやがって! 姪っ子の花の苗がダメんなったら弁償してもらうからなーっ!?」


 大穴の開いたベランダに乗り込んできたのは、黒葛(つづら)だった。夜食の準備中だったのかエプロンを着けたままだ。


 そして部屋の中を見て表情が固まる。


 人間に似て非なるもの。一糸纏わぬ姿なのに、金属にしか見えぬ鏡面の肌。


 甲冑のように組み合わさった異形の筋肉。躯体を這う魔力回路の紋様は威圧的な輝きを巡らせている。

 

 顔や肩当めいた大きな肩に貼りつく水の滴る髪ですら、純銀線で造られているように思えた。


 危険過ぎる。闘えば絶対に負ける。頭では分かっているのに。


 すぐそばに梛が倒れているのが見えた瞬間、ぶつりと何かが切れた音がした。


「何してんだ、てめぇ……」


 キーマを睨む黒葛の瞳孔が縦に裂け、体中からバキバキと異音が響く。爪が長く硬く伸び、筋肉が凄まじい早さで発達する。黒かった髪が一気に色素を無くし、真っ白になった。


 狂戦士化している。キーマは焦った。こんな事をしている場合ではないのに。


「話を……」


 言いかけた瞬間、すでに黒葛が床に蹴り跡を残して目前まで迫っていた。


 鋭い爪で高速の連撃を繰り出してくるのを、腕で受けると肌に火花の筋が散った。


 無傷だと分かると、すぐに顔を狙われる。拳をそっと逸らして力を逃がすと、逆にその勢いを利用した次の回し蹴りもかわし、黒葛の体を押しかえす。上手くソファの上へと追いやった。


「ぐはッ……」


 加減をしてもダメージが入ってしまったのか、ソファに跳ね飛ばされてフローリングに投げ出された黒葛は、それでも殺意を剥き出しにして次の攻撃態勢に入ろうとする。少し距離を取らないと話も出来ない。


 キーマは自分の腕を黒葛へ向けた。魔力回路が強く輝き腕が攻撃形態へと移行する。 


 人の手の形から砲身へと変形させると、魔力の出力を最小にして発射した。


 黒葛の横手をかすめ、かろうじて残っていた窓枠と一緒に無傷だった壁が魔力のレーザーで吹き飛んだ。


「あっ、ご近所迷惑です……」


 キーマが呟くとレーザーがカクンと進路を変えて、遥か上空へと消えていく。


 衝撃で我に返った黒葛が、壁の穴とキーマを交互に見やる。


「れ……レーザー撃ちやがった!?」


「良かったなあ」


 キッチンの上でヤンキー座りを決め込んでいたエルフ美少年の言葉に黒葛がキレる。


「何がだよ!?」


「古代種の飛び道具は基本自動追尾だからな。てめぇをやる意思はないって事だ。じゃなきゃ今頃後ろから仕留められてんぞ」


「先に言えよ!?」


「ぶちギレた奴に何言っても聞こえねえだろうが」


 冷静に返されて言葉に詰まる黒葛を一瞥してから、エルフ美少年はキーマに向き直る。


「で、てめぇは何がしたいんだ」


「マスターを助けてほしいです! すぐに人工呼吸とマッサージを……!」


「……は?」


「固まらないで下さい。我だと力加減が出来ないんです! 骨が折れてしまう! 早くして下さい! どっちでもいいから早く!」


「だ、だったらオレがやる……!」


 エルフ美少年に先に名乗り出られてはなるまいと、黒葛は海水の流れに足を取られそうになりながらも急いでテーブルに駆け寄った。


 体に毛皮のようなものをかぶせられ、横たわる梛の血の気のない頬に触れる。頬の冷たさに動揺しながら、奇妙な罪悪感とそれを抑え込む言い訳がぐるぐる頭を駆け巡った。


 これは人命救助! でもまたセクハラだとか言われて嫌われる? 好感度ゼロとか耐えられるのかオレ!? いやでもそんな事考えてる場合じゃねえって、これは人命救助だから……!


「遅え。あとその顔やめろ」


 鼻息荒く梛に顔を近づけようとしていた黒葛の膝裏を蹴り飛ばして、エルフ美少年が梛の顔を覗き込む。


「てめー! こんな時に膝カックンするんじゃねえ! オレがやるっつってるだろ!?」


「これは……」


 海水でずぶ濡れになった黒葛の抗議も知らぬ顔で、エルフ美少年がキーマに言った。


「今蘇生させるとてめえと同じリッチになるかもしれねえぞ」


「リッチだと!? こいつ魔族じゃねえのかよ」


 指摘されてキーマがうなだれる。


「ガワの部分は七草んとこの縄張りに出たひとつ目の奴らと同じニオイだ。浴室ブッ壊してるブツで作ったんだろう。だがリッチのニオイの方が強い。それがこいつの体からもし始めてる」


「我のせいで……」


「違えよ。俺らが状況履き違えてぐちゃぐちゃ突っかかったせいだろうが。じゃなきゃ、普通の心肺蘇生で助かってたはずだ。それにそいつが死から逃れられてるのは、てめぇと契約してるからだ。ただ今の生命力の足りねえ状態で蘇生させると、てめえと同族になる可能性は高い。てめえはそれを望んでるのか」


「違う! マスターはマスターのままでいてほしい。我と同じになるのは駄目だ……」


 声を絞り出して首を振るキーマを見て、エルフ美少年が短く息をついて立ち上がった。


「てめぇ、さっき苗がどうとか言ってたな。新しい土あるんなら持ってこい」


「土ぃ? 何でそんなもん……」


「こいつを助けたきゃ、さっさとしろ」


「クソエラそうに……」


 だが魔族の姿に冷静さを失って、梛を助けられる時間を最も潰したのはエルフ美少年ではなく自分だ。何故いつも一番大事な時に無力になるのか、自分自身に反吐が出る。


「……すぐ持ってくる。お前はそれで前隠しとけっ!」


 八つ当たり気味にエプロンをキーマに叩きつけると、黒葛は壊れたベランダから外に出た。階下へと飛び降りる姿に一瞥をくれて、部屋の中に補佐エルフ美人が入っていく。


「長老、あの魔力レーザーはわたしでも防げませんよ。結界を張り直すのがせいぜいです」


 キーマがもそもそ腰にエプロンを巻き付けているのを横目に、エルフ美人が声をかける。


「ああ、いい所に来た。種持ってるよな」


 エルフ美人はエルフ美少年と魔族姿のキーマとテーブルで横たわる梛の姿を交互に見やってから、長々と溜息をついた。


「また暴走猪みたいにさっきの人間と何も考えずに喧嘩売って事態をややこしくしたんでしょう」


「状況判断が的確過ぎる 」


 思わず感心するキーマ。


「誰が暴走猪だ! まさかこんな戦闘型のいかつい魔族の古代種が、人間と契約結んでるとは思わねえだろうが」


「おい、持ってきたぞ! これで何するんだよ」


 園芸用土の大袋を肩に担いで、再び大穴の開いたベランダからやって来た黒葛が見たのは、両手で顔を覆ってしくしく泣いている魔族キーマだった。


「我が……我の見た目がいかついおっさんなばっかりに、マスターを危険に晒して……」


「何泣かせてんだよ、お前ら。気にすんな。男は見た目じゃねえ。声の感じからしてそこまでおっさんでもねえだろ。 ちょっと顔見せろよ」


 キーマは海水で顔に貼り付いていた長い前髪をかき上げた。年齢的には確かに黒葛より五、六歳は上に見える。


 そして切れ長の紫の瞳が、主人を求める忠犬ハチ公のように切ない光を湛えていた。


「むしろイケメンじゃねーか!? なぐさめて損したわ!! 大体てめえ、こいつとどういう関係なんだよ!?」


「我はマスターのペットです」


「ぺ……!? そ、それはつまり……」


「マスターにご飯をもらって、ヨシヨシしてもらうのが我の仕事です」


「ひ……ヒモだとぉーっ!?」


 キーマと黒葛が微妙にすれ違うやり取りをする間、エルフ美少年は封を開けた土袋に、エルフ美人から受け取った硬貨ぐらいの大きさをした金色の種を押し込んだ。そこに無造作にエリクサーの中味を数本回し入れる。


 エルフ美少年はそこに手をかざし、厳かに告げた。


「時を刻め世界樹。生命の根源を我が掌に」

いつもお読み下さって本当にありがとうございます!!

皆様お風邪は引いてませんか? 今年のは胃腸にくるので消化のよいものを摂って体を温めてしっかりお休みになって下さいね……(自分にも言い聞かせてる)

次回更新は2月20日頃を予定しております……

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