41話 筋肉を育てるわー!
福籠梛は今、最大の難問に直面していた。
「今度はばくおーと恋人みたいな感じで手をつないで見つめあってね~」
カメラマンさん、そんな簡単に言わないでー!?
私、年齢イコール彼氏いない歴なのよー!?
『年齢25歳』
わざわざそこだけ解説しなくてもいいのよ光文字さん!
だけど恋人みたいな感じってどんなのー!?
相手は推しアイドルグループらぶちゅるちゅの男性メンバーばくおー様なのよー!?
「大丈夫、シロたん?」
ばくおーが至近距離で梛の顔を覗き込む。
「ぎゃほーっ!?」
ばくおーのフェロモン溢れるイケメンぶりに奇声を上げる。
目の前にいるのは幻覚スキルで異世界ミラーにいるオリジナルの姿をしたばくおーだ。
リアルではたおやかな女性のように線の細い美青年だが、インキュバスの姿となったばくおーは、フルカラー縦スクロールコミックの悪役令嬢ものに出てくる戦闘職種設定の恋人ぐらい色気と野性味が溢れていた。声も低く無駄に甘い響きで、聞いているだけで力が抜けそうだ。
加えて芸術品レベルで鍛えられた筋肉からダダ漏れるフェロモンも相まって、持ち直していたはずのスタッフが男女関係なくドミノ倒しできれいに失神してゆく。奇声は上げたものの、意識を保てている己を褒めてあげたい。
しかも今着ている水着はやっぱり布面積の少ない大胆なデザインのビキニながら、ばくおーとの恋人お揃いコーデ。代役でラミアりゅおってぃが人間に擬態化した時の姿をしているとはいえ、ファンとしてあまりにも刺激の強い少女漫画的シチュエーション。
「ばくおー、シロたん緊張してるじゃん。もっとライブみたいにイケメンファンサしてあげなよ」
かりょびーと友達お揃いコーデの水着を着て抱き合っていたここたまがニヤニヤと笑みを向ける。
「……?(ここたまさん、ちゃんとこっち見て?)」
両手でここたまの頬をはさんで自分の方へ向けて、おでこをこつんと合わせるかりょびー。
「イケメンここにもいたわ」
ちなみにきゅーみーは親子お揃いコーデの水着を着たむぃまなの代役グラビアアイドルに脇をくすぐられてキャッキャしていた。
「ええっ、ファンサ……えっとぉ、何がいいかなぁ?」
俺様イケメンな外見で照れながら上目遣いにこちらを見つめるばくおーに、心の中で鼻血を流す梛。
「ごちそうさまです!」
「まだ何もしてないよぉ!? り、リクエストとかあるかなぁ?」
「リクエストっ!? いいんですかっ!? でしたら筋肉賛美コールでお願いします!!」
「あ、あれかぁ……じゃあ、恥ずかしいけどやるねぇ」
頬を染めて乙女のようにもじもじしていたばくおーが、目を閉じて深呼吸した後ゆっくりと瞼を開ける。それだけで雰囲気ががらりと傲岸不遜な表情へと変貌した。
「よお眠り姫。緊張してるのか? だったら俺様の体を見つめてドロドロに蕩けな」
「彫刻みたいな体に蕩けりゅー!」
「お前を抱きしめる俺様の腕を見な!」
「バンシーも黙る上腕二頭筋!」
「俺様の僧帽筋には何が見える!」
「翼を広げたフェニックスー!」
「俺様の背中で愛をさえずりな!」
「広背筋は世界樹育てるガーデナー!」
「樹を支えるのはお前の愛と!」
「大臀筋ミラー列島!」
「そろそろ甘い言葉もここに受け止めるぜ!」
「腹斜筋のセパレーションは甘々モンブランデコレーション!」
「その熱い眼差しで舐め回した後は腹筋あみだくじで俺との愛を引いてみな!」
「ばくおー様の当たりはどこーっ!!」
立てていた親指で自分の水着の端を引っかけてゆっくりと鼠径部の際どいラインまで下ろし、甘い眼差しで不敵に笑う。
「分かってんだろ眠り姫?」
「うきゃーっ!! ありがとうございます! ありがとうございますーっ!!」
周囲で待機していたスタッフ達もばくおーの問答無用なフェロモン攻撃を食らい、喜色満面で天に召されそうになっていた。
「何だあのイカれたエロ筋肉コントは……」
りゅおってぃとむぃまなのそばで眺めていた黒葛が、形容しがたい異様な盛り上がりに鳥肌の立った腕をさする。
「あれなー。ライブん時にファンから放出される精気に指向性持たせたら、消耗した魔力を回復できひんかなーって、MCん時にむぃまな監修でファンの応援に応えてったらあんなボディビルの掛け声だか何だか訳のわからんのになってしもたんや」
「筋肉は褒められれば褒められるほど成長するでござるからな。魔力もまた然りでござる」
ツッコミどころが満載過ぎて、誰もむぃまなの脳筋独自理論に反論する者はいなかった。
「なんだよ、オレにはセクハラセクハラ言っといて、あれはセクハラにはならねーのかよ……」
ばくおーと梛が照れながらも楽しんでいる。喜びのあまり小さくぴょんぴょん跳ねる梛。無邪気な笑顔で巨乳が揺れる。最高に柔らかそうでいて弾力に満ち溢れた肌の輝き。
その姿を遠い目で眺めていた黒葛は、おもむろに立ち上がるとロケ車に向かって歩き出す。
「どないしたんや?」
りゅおってぃの問いかけに、クールな表情を浮かべて黒葛は答えた。
「ここにいるとオレの魔王が目覚めそうなんでな……」
「……撤収時間までには封印しとけやー」
ひらひらと手を振って去っていく黒葛を見て、むぃまなが言った。
「随分と眠そうでござったな」
「なんや最近夜にミラー行っとるて、きゅーみー言うてたわ。もっと早うに仮眠とったらええのに、シロたんの水着全種類見るまで粘りやがって……」
どことなく不機嫌そうなりゅおってぃの表情に小さく微笑むと、むぃまなは尋ねた。
「また歓楽街で騒いでいるでござるか?」
「いや、なんでもきゅーみーの学校の友達に転生者がいるねんけど、転生先の体が動かせへんようになったらしいて」
「動かせないというのはどういう事でござるか?」
「誰かに捕まったそうなんやけど、気が付いたらどっかで監禁されて拘束されてるみたいで体が動かせへんらしいわ。こっちに戻ってくる事はできるけど、転生先のオリジナルはそのままの状態やからな」
「捜索の依頼は」
「ああ、本人がギルドに保険かけて期日までに戻れんかった場合に捜索依頼出してたそうや。そやけどまだ見つかっとらん。それできゅーみーが心配して黒葛に友達探してくれて頼んだらしいわ。もう5日目になるんちゃうかな」
「なるほど。黒葛殿はきゅーみー殿思いでござるな。しかしそのお友達とやらは一体どこに捕らえられているのやら」
「それがな、最後に消息を絶ったのは魔導学園なんやわ」
「それは今度拙者達がライブをする場所ではござらんか?」
「そうやねん。急に社長がスケジュールぶっ込んできたやろ? なんや怪しいニオイがプンプンするわー……」
溜息をつくりゅおってぃの視線の先で、全員が揃ってカメラに笑顔を向けている。中心にいるのはばくおー。美しい女性に囲まれたハーレム状態だが、本人は恥ずかしさをなんとか堪えてふてぶてしい顔を作るのに精一杯だ。カメラマンは謎の感動に包まれて滂沱の涙を流していた。
「そういや、シロたん学校に潜入するとかどうとか言うてたな……」
しかも、それを社長が把握していて根回しまでしているっぽい。もしかしてシロたんまで巻き込まれてるんか? それとも自分らがシロたんに巻き込まれてるんか?
「社長殿が楽しんでいる事だけは確かでござるな」
「それが一番厄介やねんな……」
その厄介さをどこかで楽しみにしている自分がいるのもまた確かな事だった。
ここまで来て下さって本当に本当にありがとうございます!
……寒波が来ますね……。どうか皆様暖かくして足元などお気を付けてお過ごし下さい。
次回更新は1月30日頃を予定しております。




