40話 水着撮影はカオスよー!
プライベートビーチでアイドルグループらぶちゅるちゅの水着撮影が始まった。
開始から5分、現場にはある異変が起こり出していた。
「あははは! 待てよぉ、捕まえちゃうぞぉ! かりょび~ちゃ〜ん!」
砂浜を走るかりょびーを撮影していたカメラマンが、唐突に恋人きどりで一緒になって追いかけ出した。
「あかん! もうカメラマンが魅了でやられてもうた! チェンジや!」
むぃまなと共に、代役のモデルたちに姿を変える幻覚スキルを使っていたりゅおってぃがスタッフに指示を出す。
「はあはあ……! 髪を……! ここたまちゃんの髪をもっと嗅がせてくれ……!!」
潮風にパレオをはためかせるここたまを撮影していたカメラマンも、隠していた性癖を全開させる。
「宇薄課長! あっちのカメラさんも匂いフェチに! スタッフさん交代お願いします!」
なんとか正気を保っていたアシスタントディレクターが、砂浜に頬ずりしながら自身とむぃまなの大きな相合傘を描いているプロデューサーの介抱をしながら叫ぶ。
「おおお、奥さん……! じじじ、実はずっと前からあなたの事が……!」
ばくおーにレフ板を向けていたアシスタントがフラフラと歩き出したかと思うと、そばにあったビーチパラソルにしがみついて道ならぬ恋を叫び出した。
「やばい、アシさんの倫理観が崩壊しかけとる! チェンジチェンジ!!」
魅了スキルで混乱する彼らが、ガスマスクをつけたスタッフ数名に浄化の結界を張ったブルームテントまで引きずられるのと入れ替わりで、新たなカメラマンとアシスタントが、果たし合いに赴く武士の如く厳しい表情で投入される。
「好き好き大好き やっぱ好きーー!」
そして10分ほどするとサイリウムを振り回してヲタ芸を披露し始め、別のスタッフ達に引きずられていった。
「ガスマスクの魅了耐性付与効果あと何回持つ!?」
「この調子でいくと2回が限度です!」
「正気のカメラマンは何人残っとる!?」
「きゅーみーちゃんのカメラさんと、代役さん達の担当は全員無事です! ただ代役の福籠さんの方が様子がおかしくて……!」
「今の私はりゅおってぃ今の私はりゅおってぃ今の私はりゅおってぃ……はっ、浮き輪きゅーみーちゃんヴィーナスが誕生っ! 最高っ!! 浮き輪に転生してプカプカきゅーみーちゃんを浮かべたい!! ……じゃなくて今の私はりゅおってぃ今の私はりゅおってぃいいっ!!」
カメラマンの指示に従ってベリーダンスのようなセクシーな腰つきでポーズをとっていた福籠梛が、浮き輪をして笑顔で水鉄砲を構えているきゅーみーの可愛らしさで興奮しながらも何とか我に返っていた。
「あれは多分通常運転やから大丈夫や! みんなあと30分は耐えてくれ!」
「あっ、黒葛さんが巨乳を求めてゾンビの如くカメラの前に……!」
「こんな時ぐらい辛抱せえ!」
りゅおってぃとむぃまなが幻覚スキルを継続させながら、二人がかりで黒葛を羽交い締めにした。
「きょにゅー……俺のきょーにゅー……」
「お前のちゃうわ! 耐性あるくせに魅了されとるんか!」
二人分の力で押さえつけられているにも関わらず、黒葛はじわりじわりと梛の方へ向かって歩を進めていく。引きずられながらむぃまなが叫ぶ。
「きゅーみー殿が見ているでござるよ! ゆー君キライと言われてもよいのでござるか!?」
「はっ!?」
巨乳への欲求でだらしなく蕩けていた目に正気の光が戻ると、黒葛は自分の顔を拳で殴りつけた。
「すまん、むぃまな。……くそ、意識全部持っていかれた。何で手を振ってるだけであんなに魅惑的に揺れやがるんだ、あの巨乳は……っ」
「ほんまデカい乳に弱いな、お前……」
絞り出すような声で砂浜を叩いて悔しがる黒葛を、りゅおってぃは呆れた眼差しで見守った。
「無理もないでござる。クラーケン戦でみな戦闘時の興奮状態が完全におさまりきっておらぬでござるよ」
らぶちゅるちゅはドリアード、セイレーン、サキュバス、インキュバス、そして吸血鬼という、相手を魅了させる事においてはトップクラスの種族ばかりが揃っている。
撮影は異常耐性に強いスタッフを選抜しているので、普段の状態でなら魅了されてものぼせて腰がくだけるぐらいで済むが、今日は撮影前にクラーケンが襲ってきたことで、メンバーの能力にバフがかかり、現場一帯に魅了の効果が強く広がってしまったのだ。
「付与効果切れました!」
「よっしゃ、休憩や! みんなよう持ちこたえてくれた! 午後からの撮影に備えてしっかりメシ食って休んでくれや! 落ち着いたら魅了効果のバフも切れるやろ。多分」
りゅおってぃの言葉にくずおれるように座り込むスタッフ達。通常の撮影業務に加えて魅了の波状攻撃で、すでに満身創痍でぐったりと疲れ切っている。
「らぶちゅるちゅの撮影って大変なのね……」
カオスな撮影がようやく終わったと思ったのに、昼からも続くらしい。これはなかなかのハードワークだ。
スタイリストさんに用意してもらった服に着替えると、梛は動けるスタッフと一緒に到着したロケ弁の準備を手伝った。本人は気付いていないが、憑依した銀髪ホムンクルスメイドの配膳スキルが発動してあっという間に作業が完了する。
「……、……」
『後は全員で撮る分だけだから、さっきよりは早く終わると思いますよ』
バラエティに富んだロケ弁の中から、かわいいデザインのカフェ風お弁当を選んだかりょびーの、小さ過ぎる声を梛の光文字が拾い上げる。
「唐揚げに極上カルビ……おっ、シャトーブリアンがあんじゃーん! りゅおってぃと撮影一緒ん時って美味いのいっぱいあるからサイコーだよね」
ここたまが気に入った弁当を全種類ピックアップしていく。
「食べすぎだよ、ここたまぁ」
松花堂弁当を手に、梛のそばの席に座るばくおー。ここたまとかりょびーも梛の向かいに着席すると、きゅーみーがサンドイッチとフルーツサンドの詰め合わせ弁当を抱えて隣に座った。
推しアイドルらぶちゅるちゅの乙女たちに囲まれている……!
「神ファンサ!?」
「ただのランチだって。前も一緒に夕飯食べたじゃん。あ、ヒレカツいっこもーらいっ」
素早く梛のヒレカツカレー弁当から一切れ奪って口に放り込むここたま。
「……。(許可貰う前にとるのだめ)」
「あ、ごめんごめーん」
かりょびーとここたまのやり取りをポカンと眺めていた梛の目から、蛇口をひねったような勢いで涙が流れ落ちる。
「ナイアガラの滝……!? ごっ、ごめんシロたん。そんなにヒレカツ好きだったんだ。シャトーブリアンあげるから許してっ」
「……ううん、これは違うの。私、学生時代ボッチ飯だったから、こんな風に仲良く誰かとお弁当食べるとか、あまりにも憧れのシチュエーションに涙腺崩壊しただけで……」
中学、高校とボッチ飯。そういえば前の会社で働いてた時もボッチ飯。お弁当の具をシェアするクラスメイトや同僚たちのやり取りが眩しくて居心地が悪くて、人気のない場所で読書やアニメを見ながらもそもそ食べていた日々。好きなおかずが全然おいしく感じなかったお弁当。
それが今では憧れのアイドルと青春学園アニメみたいなランチを経験しているなんて。
「やっぱり課金しゅるー!!」
滂沱の涙を流しながらお財布を取り出す梛の口に、もきゅっとサンドイッチが詰め込まれる。
「きゅーみーもシロちゃんに課金。おいしい?」
「おいちしゅぎっ……!」
何度も頷く梛に笑顔を見せると、きゅーみーは隙間の空いたサンドイッチ弁当を差し出した。
「……あーんしてもいいよ」
上目遣いで照れたほっぺがなんて可愛いのっ!
「過剰神ファンサ!? い、いいのっ? じゃあヒレカツ課金しちゃう! はい、あーん!」
「あーん」
「きゃわいくてありがとうございます!!」
「ヒレカツなくなってただのカレーじゃん。シャトーブリアンあげるー」
「……(よかったらミニハンバーグもどうぞ)」
「うなぎあげるぅ。あっ、まだお箸にもお弁当にも口つけてないからねっ?」
ここたまとかりょびーとばくおーも一切れずつ梛の弁当にそえていく。ご飯の上がカオス状態だ。
「元カツカレートッピングシャトーブリアンミニハンバーグうなぎ、いただきますっ!!」
それでも梛にとっては、今まで食べた中で最高に美味しいお弁当になった。
「おかわりはせぬのでござるか、りゅおってぃ殿?」
「ん、ごっそさん。あの微笑ま可愛いやり取り見とったら何や腹いっぱいや……」
「オレもまざりてえー。あーんとかされてえー……」
「百合に挟まる男として死亡フラグを立ててはならぬでござるよ、黒葛殿」
「それ言ったらばくおーもろ挟まってんじゃねーか」
「ばくおー殿は乙女でござるぞ」
少し離れた場所で昼食を取っていた、らぶちゅるちゅ男子メンバーのやり取りをおかずに、リーマンBL大好きグラビアアイドルは、彼らの真後ろで壁化しながら幸せそうにおにぎり弁当を頬張っていた。
いつもお越し下さってありがとうございます! 初めましての方もお読み下さってありがとうございます!
6日に島根と鳥取で地震がありましたが、お住いの方はお怪我などされていませんでしょうか。一日も早く落ち着いた生活が戻りますようお祈り申し上げます。
次回更新は1月20日頃を予定しております。
あと、前回の39話の説明不足になってた箇所を500文字分ぐらいちょっぴりだけ手直ししております。間違い探しぐらいびみょーな修正ですが……活動報告はきちんと書かなきゃですね……。




