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悪役令嬢だと思ったら伝説の悪役になりました~ラスボスはアイテムに入りますか?~  作者: 繭式織羽


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34話 ミミックはおさわり厳禁よー!

 ミミックに憑依した途端、少年少女の冒険者パーティに闘いを挑まれてしまった。


 思わず臨戦状態となったミミック=福籠(ふくごもり)(なぎ)だったが、背後に魂の抜けたリッチとホムンクルスのメイドがいるのを思い出す。


「どう考えても気付かれたら一緒にボコられるわ……!」


 何か気を逸らさなくては。でも今の自分はちょっぴり攻撃的なただの宝箱。そんなミミックで出来る事はあるのか。


「……ハッ、お腹があったかい……それとも口の中になるのかしら。何か中にあるっぽいわ!」


 口の中に伝わる感触を頼りに、梛は塊を吐き出そうとした。


 錠前(じょうまえ)で引っかかって(ふた)が開かない。


「ふんぬっ!」


 内側から力づくで錠前をひん曲げる。高価そうな錠前を壊すと蓋を全開にして、今度こそ勢いよくそれを吐き出す。


 チャリチャリリーン!


 気持ちの良い金属音を立てて、石畳の床に燦然と輝く金貨がばら撒かれた。


「!?」


 少年少女たちの足が止まった。みんなの目が金貨に釘付けになっている。


「金貨だ!」

「先に拾っとこうよ!」

「そうだな、こっちから行かなきゃ反撃しないもんな、あいつ!」


 歓声を上げながら金貨に群がる少年少女。


「今だわ! メイドちゃん、リッチの体を安全な所に隠して、あなたも隠れて!」


 梛の女子高生時代そっくりの容姿をした銀髪の巨乳メイドは無表情で小さく頷くと、抜け殻になっていたリッチを抱え上げ、ミミックの蓋を開けると、折り畳んで中へ収納した。


 宝箱の中で体育座りをするリッチの出来上がり!


「シンデレラフィットしてる……」


 家事能力を遺憾なく発揮した銀髪メイドは、蓋をそっと閉じると、部屋の奥の柱の陰になった緞帳(どんちょう)の裏に忍び込んで気配を断つ。


「ちょ……ちょっと口の中に骨突っ込んだままいかないでー!」


 宝箱の内側にリッチの頭蓋が触れると、子供の頃に歯が抜けかけて、出そうにも出せずにずっと口の中でコロコロしていた懐かしい記憶が蘇る。


「命令通りしただけにゃ」


 梛の部屋に残っている白キマイラのキーマが、リッチの額の宝石を通してツッコミを入れる。


「ちなみにキーマたん、今何してるの?」


「ましゅたーのお腹の上で香箱座りしてるでしゅ。胸に顎乗っけられて楽にゃ」


「通りでさっきからお腹があったかいと思ったわ」


「たたかいのお邪魔でしゅか」


「まだ金貨に夢中になってるから大丈夫よ。寧ろ暖かいからのっかっててー」


 元魔王の四天王で魔族のおっさんだったとしても、今は可愛いモフモフのキマイラだ。


「喉もゴロゴロ鳴らしとくにゃ」


「キーマたん最高ー……」


 定時に仕事が終わって、美味しい晩ご飯も食べて、ネコっぽいモフモフとまったりくつろげる夜なんて、とっても素敵ー……。


「やっぱ、らぶちゅるちゅのライブだよ!」


「ハッ!? 今らぶちゅるちゅって言った!?」


 キーマの喉鳴らしに、現実の方へ意識が戻りかけていた梛だったが、少年冒険者の一言で踏みとどまった。


「そうよ、これだけあれば貴族席のチケットでも買えるんじゃない?」

「めちゃくちゃ近くでここたまのダンスが見られる!」

「きゅーみーちゃんに手を振ってもらえるかも!」


 散らばった金貨をせっせと集めながら、目を輝かせて話し合う10代の少年少女に何度も頷く梛。


「らぶちゅるちゅファンなのね! こんな所でちゅどなーに会えるなんて思わなかったわ」


「ちゅどなーって何でしゅ?」


「らぶちゅるちゅのファンのことよ。どなー、は提供者(ドナー)から来てるの」


「医療関係機関から真面目な抗議が来そうなネーミングでしゅ」


「でも実際ドナーになってるのよ。らぶちゅるちゅって、吸血鬼のきゅーみー筆頭に血液で栄養補給しないといけないメンバーが多いから。魔力を物凄く使うライブの後とか特に必要になるから、会場で採血コーナーが設けられてるわ。大量に集まるから残りは冒険者ギルドや神殿とかで活用されてるって、こないだの研修で聞いたの。リアルの方での献血は、血液が必要な患者さんに届けられてるけど」


「ちゅかごろ医りょー技じゅちゅが格段によくなって冒険者の死亡率減ってたのしょれが理由でしゅね」


「あの子たちも冒険者よね。死亡率減ってるからってちょっと若すぎない? 子供ばっかりよ?」


 年齢的にまだ中学生ぐらいに見える。


「ちゅかくの学園の生徒でしゅ。ここはチュートリアル用のダンジョンなのにゃ」


「学園? チュートリアル……?」


 そう言われれば、パーティメンバー全員が動きやすそうな同じデザインの服を着ている。制服というよりダンジョン用の武装だろう。


「近隣の有力貴族がこじょって子供を入れたがる魔導学園にゃ。一応じちゅ力主義を謳ってるから平民も入れましゅけど貴族が幅をきかせて毎年行事のたびにゴタゴタが起きて大変にゃ。我の館にも魔じゅちゅの流れ弾飛んできたことあるにゃ。貴族の決闘は迷惑でしゅ」


「それって完全に悪役令嬢ものの舞台だわ!」


「リッチやミミックは令嬢に向いてないにゃ」


「そう言われればお嬢様からだいぶん無理がある風貌してたわー!」


 今の自分は無駄に怖いオーラを放つ骨を突っ込んだ宝箱のモンスター。令嬢からはほど遠い。


「……よし、この新人冒険者ちゃん達にサクッと倒されて、女神様に魔導学園の生徒に転生させて下さいってお願いしましょ!」


「切り替え早いにゃ」


「それに相手は同じちゅどなーよ。先輩ちゅどなーとして勝ちを譲るわ。ミミックに勝ってらぶちゅるちゅのライブを思う存分楽しんで欲しいの」


 金貨を集め終わった少年少女達も、今度こそミミックと戦う決意をしたようだ。


「あいつまだ中に金貨持ってるかも!」

「全部手に入れてスペシャルチケット手に入れようぜ!」

「ライブ用の新しいドレスも山ほど買えるわ!」

「有名ブランドの武器も!」

「ライブ終わりの打ち上げに五つ星レストラン貸し切りだ!」


「あぶく銭に目がくらんでるにゃ」


「ま、まあそれがダンジョンでお宝をゲットする醍醐味だから……たぶん……」


 ちょっとのつもりだったけれど、金貨を撒き過ぎたんだろうか。突然宝くじを高額当選した大人みたいにならないか心配だわ……。


 梛ミミックの心配をよそに、剣を構えて一応警戒しながら近づいてくる前衛の少年。ミミックの蓋の縁に打たれた(びょう)の列に触れる。


「あっ……」


「え?」


 梛の口から思わず声が漏れて、少年が怪訝な顔をする。


「どうした?」


「今、何か声がしたような……」


 言いながら少年は蓋の表面をなでた。


「んんんっ……!」


「やっぱりしゃべった! しかもエロい声で!?」


「ミミックでお色気こー撃は無理があるでしゅよ」


 リアルからツッコむキーマに梛が慌てて弁明する。


「さっ……触られるの我慢してると声が出ちゃうのよ!」


 梛の艶っぽい声に触発されて鼻息の荒くなった少年が、ミミックの表面をあちこち撫でまわし始める。


「やっ……だめっ……」


「おおっ、なんだこりゃ……じゃあ、この辺とか……」


「やだ、どこ触って……あっ……」


「すげえ、何だこのエロい声は……メスなのか、こいつ? 大発見じゃね? もしかしてもっと触ったらタマゴとか生むのか!?」


「そっ、そんなにいっぱい撫でられたら、私……私……っ、我慢出来なくてかじっちゃうでしょー!?」


 ガバリと歯の並んだ蓋を開いて少年冒険者を頭から丸呑みにする。


 中には先客のリッチがいた。


「うわ、怖えええーっ! 骨、骨、骨ーっ! 誰か助けてー!!」


「何やってんのアンタは!」


 仲間が数人がかりで上半身のはさまった少年を梛ミミックの口から引っ張り出す。


「ましゅたー攻撃しゅてるにゃ」


「だめなのよー! 触られるとハエトリグサみたいに反応するのよ、この蓋……」


 そう言えば子供向け教育系番組で、食虫植物の感覚毛について紹介していた推しの声優さんも言っていた。


「俺に何度も触れるとお前を捕まえちまうぜ?」


 多分宝箱の鋲の辺りとかが特に反応を引き起こしやすいのだろう。ミミックが食虫植物と同じカテゴリーに入るのかは謎だが。


「あいつ、中に犠牲者の骨が入ったままだ!」


「ミミックに閉じ込められるとダンジョン脱出できないの!?」


「近距離攻撃は危険だわ!」


「だったらボクが相手だ!」


 杖を手にした少年が、一歩前に出る。


「教授に教えてもらった召喚術をお見舞いしてやる!」


「召喚術の教授ってモンスターに連れ去られて行方不明じゃなかったの?」


「こないだ帰ってきたんだよ、楼閣群島から」 


「えっ?」


 何だか聞き覚えのある地名が出てきた。


 楼閣群島から帰ってきた召喚術が使える教授。


 シャイヤールさんやキエリちゃん達と一緒にハルピュイアと戦った時、確か奴隷にされていたイケメンの中に召喚術を使う人がいたような気がする。


 そんでもって、レン君と一緒にグリフォンでさっさとどっか行ってしまったんじゃなかったかしら!?


 てことは、その人に会えばレン君の詳しい行き先が分かるかもしれない?


 これはますます魔導学園に行かなければ!


「さあ、とっとと私に引導渡しなさい!」


「やけくしょになってる敵みたいにゃ」


「我が呼び声に応じて疾く来たれ! 鋭き爪と牙によって獲物を嚙み砕く獣よ!」


 杖の少年が大仰なポーズを取りながら、杖に魔力を集中させていく。


『前口上不要。召喚動作不要。召喚に必要な魔力が溜まるまで残り4分35秒』


「あの年齢の子達には大切なポージングなのよ、光文字さん。……て、後4分以上待つの!?」


 早くレン君に会いたいのに。いや、4分ぐらいは待てるけど、ずっとあのユカイなポージングを見続けるのは流石に飽きる。本人は多分カッコいいつもりでやってるんだろうけれど。


「魔力がきょーきゅーされれば短縮できるにゃ」


「じゃあ、こっちの魔力も足してみよっと」


 念を送るように体に溜まっていた魔力を少年に送ると、杖の光が大きく輝き出す。


「こっ、これは……! ボクの真の力が解放したのか!? これならいける!」


 少年は杖を構えると叫んだ。


「召喚! キャスパリーグ!!」


 魔力の光が宙に魔法陣を描き、そこから黒い猫型の大きな獣が一体跳躍する。


「すごい! あんな高位の魔獣が召喚されたわ!」


「見たか、ボクの実力を! キャスパリーグ! ボクがお前の主だ! あのミミックを攻撃しろ!」


 石畳の床に着地した黒い獣は、呼び出した少年に命令されて面倒臭そうにミミックを一瞥する。


 ビクリとキャスパリーグの体が震えて尻尾が膨らんだ。


 蓋の隙間からリッチが覗いている宝箱。


 しかも自分を呼び出した恐ろしい魔力と同じ気配がする。


 一方少年からの召喚の拘束力は果てしなく弱い。


 ボワボワになった尻尾でキャスパリーグは決断した。


 ぺしっ。


 尻尾で少年をはたき飛ばす。


「ふぎゃっ!?」


 ひっくり返された勢いで床に頭をぶつけて気絶する。すぐに少年の体が光って姿が消え失せた。


「主人を攻撃した!?」

「嘘でしょ!?」


 驚いて硬直する残りの少年少女達も、次々尻尾攻撃の餌食になる。全員の姿が光って消えていった。


 新人冒険者パーティを全滅させた黒い獣は、たった今気づいたかのように後ろを振り返り、誰もいないのを確認すると、天を仰ぐ。


 我、なにゆえか主を失った身なればもはや戦う理由もあらず。


 ……という事にしといて下さいと言わんばかりに梛ミミックをチラ見すると、黒い獣は再び開いた部屋の扉をくぐり抜けて、さっさとダンジョンの奥へと消えていった。尻尾はまだボワボワだった。


「こ……後輩ちゅどなーをやっつけちゃった……」


 らぶちゅるちゅのライブをあんなに楽しみにしていた子達だったのに。


「転移しゅておしょとに出てましゅよ」


「えっ、無事なの?」


「ここはチュートリアルダンジョンでしゅ。安全しょー置働くにゃ」


「良かったー。じゃあ、とりあえず部屋の扉も開いたし、魔導学園に行くわよ!」


「ミミックででしゅか」


「ハッ!?」


 リッチに戻っても騒ぎになりそうだったので、仕方なくミミックから、銀髪メイドに憑依することにした梛だった。

ずっと読んで下さっている方、初めましての方、11月1日に1話から一気読みして下さった猛者な方……!(ドライアイになってませんかー!?)本当に、本当にありがとうございます! ものすごく励みになっております!

次回更新は11月20日頃を予定しております。

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