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悪役令嬢だと思ったら伝説の悪役になりました~ラスボスはアイテムに入りますか?~  作者: 繭式織羽


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33話 迷うわよー!

 玄関マットの上でネコみたいに可愛い白キマイラが、福籠(ふくごもり)(なぎ)を出迎えた。


「おかえりにゃ、ましゅたー。ごはんにしゅる? お風呂にしゅる? それとも(われ)?」


「すでにへそ天でスタンバってるキーマたんにしゅるわー!」


 梛は白キマイラのお腹に顔をうずめて思う存分吸い込んだ。


「いい匂いー……ふわふわー……癒されるー……」


「ひなたぼっこいっぱいしたにゃ」


「うふふ、おひさまの匂いー……」


 白キマイラの中身は元魔王の四天王で、骸骨姿のリッチ。


 リッチになる前は魔族のおっさん。


 それは分かっている。分かっているが、薄目でチラ見しながらマットの上でお腹を見せて待っている、つぶらな瞳のモフモフした誘惑に勝つことは出来なかった。お腹の和毛(にこげ)が最高過ぎる……。


「ところでましゅたー。あっちの我の体はどーしゅるでしゅ?」


「あっちの我……?」


「元の骨だった我でしゅ。あっちの世界に置きっぱなしにゃ。誰かにみちゅかったら多分ボコられるにゃ」


「そう言えば、こっちに帰ってくる時に隠し部屋にほったらかしになってたわ!?」


 キーマの命名会議に白熱して、そのノリで現実に帰り、すぐに白キマイラの方を召喚したからか、ずっと一緒にいる気になっていてそこまで思考が回っていなかった。確かに本来のリッチはその場にそのまま置いてきた記憶がある。


「ごめんね、キーマたん。すぐ向こうに行かなきゃ、隠し部屋とはいえ安全じゃないわよね」


「別にいいでしゅよ。我この体があるからもうあっちの我には未練ないにゃ」


「元の体なのに扱いがすっごいドライね……」


「我はモフモフに生きると決めたにゃ。ただましゅたーと我の元の体にはまだ魂のちゅながりがあるでしゅ。推しとか何とかに会いに行くちゅもりだったら我の体をちゅかうしかないにゃ」


「……そうだわ! レン君に会いに行くつもりでミラーに行ったのにすっかり忘れてたわっ!?」


「我の可愛さのせいでしゅ」


「可愛いのは否定しないけど、すぐに準備しなきゃ! でもその前に晩御飯は食べないとー!」


「もう出来てるにゃ」


 リビングのテーブルにはキラキラと輝くキーマカレーが置いてあった。温泉卵のトッピングサービスまでしてくれている。


「このでかでかと時短とか手抜きとかうたってるりょーりの本あったから調べてちゅくったでしゅ。めしゅあがれにゃ」


「帰宅してすぐご飯が食べられるなんて、キーマたん最高! ご飯作れるのエライ!」


「家事しゅて誉めてくれるましゅたーもエライにゃ」


「何言ってるの。家事は大変なのよ? 会社の仕事とおんなじでやればやるだけ次の家事が出てくるし、重労働なのよ? 本気で一日家事やったら体力ない人は三日ぐらいぶっ倒れるわ。漫画で言ったら終盤のラスボス戦へ向かうのに次から次から軍勢が攻めてきて「くそっ、キリがねえ! このままじゃ全滅する! ここは俺に任せて先に行け!」とか言って仲間が一人また一人と脱落していくぐらいのハードモードを毎日一人でやらなきゃいけないぐらい終わりなき戦いよ。だから時短料理やアイデア家事が常に求められてるの。今や代行サービスの市場規模が8000億円を超える予測も出てるし、それぐらい家事って需要ある労働なのにお家で家事をする人が一言の感謝もないのって社畜を通り越してもはや……」


「冷める前に早く食べるにゃ」


「あ、そうね。いただきまーす。……すっごく美味しいわっ!? うう、しあわせー……」


「我こーいう手順書(レシピ)見るの得意でしゅ。ましゅたーと契約してこっちの言語も読めましゅよ。またちゅくってもいいでしゅけど我モフモフしゅるのが仕事にゃ。じんこー生命体を何体か出してくれたら身の回りのこと全部やってくれるにゃ」


「何それ、すごい……貴族のお嬢様みたい……」


 言われた通りにキューブの次元収納からメイド服を着こなしたホムンクルス達を外に出す。女子高生だった頃の梛とそっくりのメイドホムンクルス達は、キーマを見つけて素早く整列する。


「今日からここでお仕事するにゃ。こっちは我のましゅたーにゃ。ましゅたーの命令も聞くでしゅよ」


 ホムンクルス達は片膝を曲げ片足を引いてメイド服の裾をつまむと、一糸乱れぬ見事なカーテシーで梛に挨拶する。


「すてきー。生でカーテシー見たの初めてだわ」


 思わぬところで令嬢願望が叶って涙する梛。思えば悪役令嬢とかになって異世界で優雅なひとときが過ごしたかっただけなのに、転生先は骨とか妖精とか犬っぽいのとか馬っぽいのとかまた骨とか、とにかく人間になれた試しがない。


「貴族向けにちゅくったから一通りのことは……しょの銀色のは一緒にちゅれてくといいでしゅ。しゃい新式で戦闘向きにゃ。我の体より動かしやしゅいでしゅ。にゃにかあれば憑依しゅるでしゅよ」


 キーマの言葉で一歩前に出た銀髪のメイドが一礼すると、スカートに隠していた短剣を構える。もう一人のメイドがキッチンからリンゴを投げると、目にも止まらぬ速さで切り刻み、ウサギさんカットにして美しく盛り付けた皿を梛にうやうやしく差し出した。


「あ、ありがとう……。でも家の中ではその切り方危ないから気を付けてねー……」


 銀髪のホムンクルスをもう一度次元収納に入れると、カレーとデザートのリンゴも食べ終える。


「ごちそうさまでしたっ。じゃあ、行ってくるわね」


「召喚札もうないでしゅけどおでこの宝石で視界の共有できるにゃ。こっちから道案内ぐらいならできるでしゅよ。気をちゅけにゃいと館の通路は古い遺跡とかと入り組んでてて迷子ににゃりやしゅいでしゅ」


「何かフラグっぽいけど分かったわ」


 頷いて、呼び出した青いキューブを抱える梛。


「無理して我の体守らなくていいでしゅよ。危なくなったらしゅぐ帰るにゃ」


 遠のく意識の片隅で、肉球の手を振りながらキーマが見送っていた。


「ううん……ミラーに着いたかしら」


 梛の意識がリッチに宿ると、開ききった眼窩にぼうっと青い光が灯る。


 目の前に知らないおっさんのアップが映った。


「きゃーっ!?」


「ぎゃーっ!?」


 梛が叫ぶと、相手も恐怖に顔を歪めながら叫んでひっくり返る。


「ほほほほ骨が動いたーっ!?」


「誰なの、この人!?」


「空き家狙いの野盗でしゅね。我が見ちゅからなくて騎士の規制線は解かれたみたいにゃ」


 リッチの額の宝石からキーマの声が聞こえてくる。


「くっ、くそう! ほほほ骨の化け物なんぞ怖くねえっ。そそそそその額の宝石をよこせ!」


 震えながら剣を向けてくる野盗に向かって、梛は無言で大きく腕を広げた。


「ぎゃー!」


 再び叫んで一目散に逃げていく。


「ふっ、口ほどにもないわね」


「仲間いっぱいちゅれてきたでしゅよ」


「きゃーっ!?」


 慌てて反対方向の通路へ逃げる梛。戦闘向きではないらしいが、浮遊する速度は気合いだか魔力を込めれば早くなる。


「しょの通路まっしゅぐちゅきあたり左右右上下でしゅ」


「待って、何なのその必殺技コマンドみたいなややこしい道順は?! 上ってどこの上!? みっつぐらい天井に穴開いてるわよ!?」


 意識がそれると速度が落ちる。追いかけてくる連中に捕まらないように慌てて気合いを込め直す。


「右の上でしゅ。しょの後左右右下まっしゅぐ左右左右左上斜め下ジャンプしゅてパンチにゃ!」


「パンチってどこをっ!?」


「目の前の壁にゃ」


「ええええっ!?」


 勢いがついたまま、思い切って壁を殴るとそのままスカッと体が通り抜ける。


「あら……?」


「魔じゅちゅで隠蔽しゅてる扉にゃ」


 梛リッチの姿が見えなくなったからか、途中で撒けたのか野盗達ももう追ってくる気配はない。


「良かったわー。これで脱出できたわ……ね……」


 落ち着いて辺りを見回すと、先ほどより一層年季の入った石畳と煉瓦の通路が八方に広がっている。


「地下水路じゃないにゃ。とちゅーで道間違えたみたいにゃ」


「フラグ回収!」


「我もなんとなくこうなる予感してたにゃ」


「あんなバタバタ逃げ回ってたらこうなるわよねー。それでここどこか分かる?」


「近くのダンジョンだと思うでしゅ。階層主を倒しゅたらちじょーへの転送陣出てくるにゃ」


「そのパターンなのねー」


 近くを通りかかったゴブリンが、梛リッチに気付いて一瞬固まった後すごい勢いで逃げていく。階層自体は浅いのか、出現するモンスターもそこまで強そうには見えない。


「何とかなりそうね。道がややこしそうだけど……地図とかないのかしら」


 浮遊しながら目についた通路を道なりに進んでいく。試しに指でひっかいて壁に矢印をつけてみたが、すぐに消えてしまった。侵入者を迷わせる気満々のダンジョンだ。


「冒険者にはダンジョンの地図を自動で作成する器用な能力者もいるにゃ」


「キーマたん、実はそれ出来るの?」


「我は可愛いだけにゃ」


「そうだと思ったわ」


 ボス戦をしなければならないのなら、多分強いモンスターがいる所を探せばいいはずだ。リッチの能力なのか、フロアに漂う魔力の濃度が分かりやすい。魔力の流れが濃く感じる方へ行ってみる。


 しばらく薄暗い通路を進んでいると、蛍のような黄色っぽい明かりが灯った大きな扉に突き当たる。


『ボスの部屋。近づかなければだいじょーぶ』


 光文字がめっちゃ手抜き感満載の説明をする。


「ここみたいね」


「念の為にメイド用意するにゃ」


 キーマに言われて銀色のメイドをそばに待機させると、梛リッチはボス部屋の扉を開いた。


 ボス部屋の割に思ったより広くない。だがほとんど何もないせいかガランとして寒々しい空間だ。だが扉は侵入者を感知したのか、重々しい音を立てて勝手に閉まる。


 そんな中で部屋の中央にあるものが異様に目立っていた。


「宝箱だわ……」


 大きな宝箱だけが、部屋の真ん中にぽつんとあった。


『ミミック。開かなければだいじょーぶ』


「だと思ったわ」


『ただし階層主』


「えっ、戦わないと出られないの……?」


 梛的にはミミックと遭遇したなら、戦うより先に開けてみたい。ファンタジー系アニメみたいに頭から丸飲みされてるシーンがどういうものなのか、ちょっとだけ気になってしまう。攻撃されないように多少距離を取りつつ近づいていく。


 見た目には金属の金具で補強された木箱だ。重そうな錠前もついている。さらに他の冒険者が書いたのか、武器飲み込まれただの、こいつ襲ってくるだの、ミミックだと丸わかりな情報が落書きされていた。


「結構面白いわね」


 他にも何か書かれていないか背後までぐるりと眺めていくと、目の前にリッチがいた。


「あっ……」


 凝視し過ぎてうっかりミミックに憑依していた。目の前にいるのはキーマの元の体だ。


「あら、これ倒したことになるのかしら?」


「転送陣出てきてないにゃ」


「じゃあ、戻らなきゃ……」


 言う間に、部屋の扉が勢いよく開かれる。


「よっしゃー! フロアボス倒すぜー!」


 冒険者パーティがミミックになった梛に突撃した。

いつもお読み下さって本当にありがとうございますー! 今回も一気読みして下さった方がいらっしゃいました……うおー、読んで下さる方にいい事ありますようにー!!

次回更新は11月10日頃更新予定をしております。

これからどんどん寒さが強くなってきますが、どうかご自愛下さい。

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