27話 好感度が気になるわー!
「シロたんって……あの嬉ションコボルトか!?」
三十代の無精ひげ班員が福籠梛を見て驚く。シゲシゲと上から下まで見回して、最後に視線は巨乳にロックオンされた。
無精ひげ班員の周囲に、キュクロプス戦で見た光る環と放射状のスペクトラムバーが現れる。
妙ないかがわしさが漂うピンク色のバーだ。すべてのピンクバーが、ものすごい勢いで梛の胸めがけて伸びて取り囲んでいる。
あまりのバーの食いつきぶりに、嫌な予感がして見下ろすと、転んだ時にボタンが外れたのかシャツが開いて、胸の谷間とブラのレースが丸見えになっていた。
「セクハラピンクっ!」
反射的にピンクバーにビンタを食らわせてからハッとする。
「あなたもしかして、セクハラ猫耳獣人の転生者!?」
「その反応はやっぱ嬉ションコボルトかよ……。巨乳美女とかマジかオイ……」
無精ひげ班員の目はどうしても梛の姿に釘付けになってしまう。
少し垂れて潤んだように濡れる瞳が上目遣いで睨んでいる。(セクハラされて怒ってるから)
柔らかそうな頬はふくらんで赤く染まり、ぷっくりと厚く形のよい唇はちょっと突き出されて挑発的にすら見える。(セクハラされて怒ってるから)
少し破れたパンストからのぞく、引き締まりながらもむちむちでもっちりとした足と、タイトスカートのラインを美しく盛り上げるお尻の肉感。そしてその二つと絶妙なコントラストをなす、きゅっと引き締まった見事なくびれ。
それに何といってもシャツの生地を内側から押し返すほどの弾力のある大きな胸……! 呼吸に合わせてフルフルと揺れるのを見れば、どれだけ柔らかいのかすぐ分かる。絶対柔らかいに決まってる。
「やべえ……全身オレの好みどストライク……。マジで? エロゲ以外でこんな理想の巨乳がマジでいんの? 一生分の運使った? 夢じゃねえよな? 最高かよ。つか、今オレのスキル物理で殴った……?」
「何ブツブツ言ってんの? それより、あなたの能力なの、コレ!? スキルでセクハラとかサイテーなんだけど」
「しっ、仕方ねえだろ!? 好感度ゲージのスキルなんだから……!」
「えっ、あなたの好感度……?」
「心底嫌そうな顔だな、オイ……。べっ、別にてめえが好きとかじゃねえよ。オレが気になるのはそのG越えてそうな巨乳だけなんだからな!」
冷ややかなジト目で梛は言った。
「じゃあ今日からあなたの事はツンデレセクハラって呼ぶわ」
あー! 何言ってんだオレー! くそっ、コボルトの時に好感度カンストさせてりゃ、今頃あの乳オレのものだったかもしれないのにー!!
気のある相手に素直さを発揮できない己の不甲斐なさに、頭を抱える無精ひげ班員。
いや、待て。向こうだってツンデレの可能性もある……! 異世界ミラーでは犯人を追い詰める為に協力したし、別れ際はまあまあ交流出来てたはずだ。
オレが持っているスキルは何だ! 好感度ゲージだろうが!
これでどんな相手だろうと、隠された本性を暴いて危険を乗り越えてきた!
異世界ミラーの戦闘では敵からのヘイトを好感度ゲージに反映させて、攻撃の軌道予測にも役立ててきたし、リアルでは双子社長の運転手兼護衛として、ライバル会社の刺客やハニトラから二人を守ってきた経験もある。好感度ゲージの性能はそれだけ信頼できる。
さあ、そのツンデレの陰に隠したオレへの好感度、赤裸々に見せてもらうぜ!
無精ひげ班員はこっそり自分だけが見えるように、梛に好感度ゲージのスキルを発動させる。
梛の周囲にゲージの環ができた。
バーがない。ゲージの環だけだった。
「…………」
そんな馬鹿な……。いや、あるだろ普通、もうちょっとぐらい……。
オレのこと、本気で全然興味なし……?
ショックでよろけそうになりながら、ゲージの環を必死に拡大してみる無精ひげ班員。
「……!」
感じる……! 微かに好感度のバーの突き出た所が……!
ほんのちょっぴりだけ……!
寧ろこの微妙な好感度は何なんだ……!?
好感度バーの上下は記録として確認できるのですぐに表示する。
『飴玉一個』
白コボルトの子供に渡した飴玉一個分の好感度しかなかった。
「くっそおおおお、もっと餌付けしときゃよかったああああああああ……!」
梛は、急にその場で頽れながらも未練がましい表情でチラチラ見てくるツンデレセクハラ無精ひげ班員から胸を隠そうとするが、ボタンがひとつ弾けてどこかにいってしまっている。
「ひとまずこれでも着な」
拳でキュクロプスを倒していた班員が、自分の着ていたジャケットを脱いで梛の肩にかけた。
「あ、ありがとうございます」
「ジムのトレーナーやってるナズナだ。よろしくっ」
ジャケットの中は丈の短いトレーニングウェアで、バッキバキに割れた腹筋が見事な女性だ。フェイスガードを外すと、意志の強い笑顔と白い歯を無精ひげ班員に向ける。
「それ以上、人様の胸の個人情報で興奮するようなら、貴様のムスコの詳細なデータを全社員に暴露して興奮してもらうぞ?」
笑顔だが底知れぬ怒りが全身から噴き出し、不動明王の迦楼羅炎の如く渦巻いている。
「待て!? 何でそうなる!? てか、お前いつオレのムスコ計測した!?」
「何で? 人前で人様の胸のサイズを平気で晒す貴様に倣ってるだけなんだがな? 己が同じ立場にならんと羞恥心すら働かんか? そして計測は今から貴様の下着をむしればすぐ済む話だ。以上っ!」
スパーンッと景気よく自分の掌に拳を叩きつけると、それを合図にして無精ひげ班員に襲いかかる。
「下着むしるのにメリケンサックはいらねえだろ!?」
「これはメジャーだ!」
「そんな凶悪なツラしたメジャーがあってたまるか! おい、社長! 傍観してねえで、このダイナミックなセクハラ止めてくれ!」
破壊から免れたお茶とお菓子で、優雅に戦闘後の休憩を楽しんでいた七草双子に助けを求める無精ひげ班員。二人は赤髪執事が淹れた紅茶を片手に眼鏡の端を光らせた。
「ナズナトレーナー、転生者以外の一般人は殺傷力の高い護身グッズ持ってると軽犯罪法に触れるから、メリケン……もといメジャーは使ったら会社のアイテム金庫室に片づけておくんだよ」
「ナズナトレーナー、ここにノギスもあるから正確に測るんだよ」
「了解っ!」
「ふざけんなああああああ……!」
全力で鬼気迫る追いかけっこを始めた二人を梛がぽかんと眺めていると、そばで舌打ちが聞こえた。
やだ、さっきのコワいエルフ美少年だわ……。
ファンタジー小説好きな梛としては、エルフはアイドルと同じ夢のある存在だが、本人から醸し出されるオーラは、アニメでよく見る繁華街や埠頭の倉庫で暴れ回る不良と同じだ。
「ご協力感謝するよ、長老殿」
双子社長が同時に眼鏡を光らせながら、エルフ美少年に頭を下げる。
「何で接待旅行ついでに討伐までさせられてんだよ?」
「申し訳ない。社員の安全を守る為に確実に撃破できる強力な戦力が必要だったからね」
「たかだかひとつ目数体程度で頼ってんじゃねえよ」
「人間がキュクロプスを瞬殺出来るレベルになるのは、エルフのあなた方が思うより大変なんだ。勿論ご協力頂いた御礼はジャンジャンさせて頂くよ!」
「ショボいもん用意するんじゃねえぞ?」
「いい加減にして下さい長老様。端から見たら村の貴重な食料を強奪する山賊豚そのものです」
槍で戦っていた班員がフェイスガードを外して溜息をつく。切れ長の瞳に、細くとがった耳。すらりとしなやかな体。傾きかけた陽に照らされた長い髪が、蜂蜜のように艶を帯びて風になびく。
エルフ美女……! ……あれ、美青年? ま、どっちでもいっかー。まるで絵画だわー。ステキー。
大分辛辣な事を言っていた気もするが、梛は気にしない事にした。だってエルフが目の前にいるのだ。
しかし何故異世界の住人であるエルフまで現実の世界にいるのかは分からない。赤髪執事と同じく魔道具のゴーレムなのだろうか。
「誰が山賊豚だコラ!?」
「すみません、驚かれたでしょう。ガラの悪いエルフで。わたしは彼の補佐……というより尻ぬぐい係というべきか……」
「てめえも大概にしとけや」
「長老様は子供の外見をしてますが、本当はもういい年なんです……。先日破壊された霊峰一帯を元通りにする為に時間を巻き戻す秘術を使いまして、ご自身の時間まで巻き戻るものですから、五千年近く若返ってしまって……」
「五千年!?」
「せっかく……せっかく五千年以上かけてようやく性格もまるくなってきたと思ってたのに、よりにもよって一番反抗期の荒れてた時期に戻らなくても……」
「エルフにも反抗期あるの!?」
「まあ言われて見ればずっと反抗期だった気もするので、元々の性格かもしれませんが。各地のダンジョンを片っ端から崩壊させたり、霊峰近くで内戦を起こした人間たちの戦に盗んだ戦車で乗り込んで両者をボコボコにしたり、エルフの森で悪ふざけした貴族がいたら、その国の王都まで乗り込んで王侯貴族に土下座させたり……」
「すごいやらかしてる……」
「それでついた二つ名が、エルフ界の狂フェンリルです」
「てめえ、そんな昔の事今更ぐちゃぐちゃぼやいてんじゃねえよ!」
「でしたら、さっさと見つけたものを渡せばよろしいじゃないですか。照れ隠しに舌打ちなんかするから、怖がられるんですよ」
「うっ、うるせえっ! 面倒なだけで照れ隠しじゃねえっ」
意味が分からず首を傾げた梛に、顔を背けながら近づいたエルフ美少年長老が、ぐいと拳を突き出す。
「手え出せ」
「え?」
「さっさとしろっ」
「わっ、ひゃいっ?」
驚いて咄嗟にエルフ美少年の拳を両手で握ると、漫画みたいに相手の顔が耳まで真っ赤になる。
「違えわ!? 誰が握れっつった!」
火傷したように手を引っ込めると、気絶したキュクロプスを片手で引きずって早足で去っていくエルフ美少年。絵面がなかなかのインパクトだ。
「え……何……?」
手に残った感触を確かめると、そこには弾けてどこかにいったはずのシャツのボタンがあった。
「素直じゃないでしょう?」
補佐エルフ美人が微笑んで、エルフ美少年の後を追いかけていく。
「ふふ、ツンデレエルフさんね」
梛がくすりと笑うと、背後から叫び声が上がった。
「何でエルフのガキの方がオレより好感度上がって……うおおおおお、ノギス持って来るんじゃねええええ……!」
とりあえず、ツンデレセクハラの方は見ない事にした。
今日も一日お疲れ様です。お読み下さいまして本当にありがとうございます!
本気で暑い日が続きますが、皆様どうか熱中症になりませんようにお気を付けてお過ごし下さい。
次回更新は9月10日頃を予定しております。




