表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢だと思ったら伝説の悪役になりました~ラスボスはアイテムに入りますか?~  作者: 繭式織羽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/44

21話 酒は飲んでも飲まれるなー!

 みなさん、こんにちは。福籠(ふくごもり)(なぎ)です。


 ついこないだまで異世界ミラーでシャイヤールさんっていうケンタウロスにお世話になってました。


 まだ女神様が希望を聞きにいらっしゃってる様子がないので、現在はフリーの転生者(プレイヤー)です。


 そして真昼間から公園のベンチでお酒を飲んでまーす。


 何故なら会社が倒産しちゃったからでーす。社長は夜逃げしましたー。


「……3か月分のお給料がっ!!」


 梛は飲み込んだ飲料と入れ替えるように心の叫びを吐き出した。


 しかも会社倒産というこのタイミングで、賃貸アパートの良心的な大家が、優雅な不労所得生活を目論むどら息子へ代替わりして賃料が2倍にはね上がり、部屋から出ざるを得なくなってしまった。


 貯金自体はまだ余裕があるものの、次の仕事が決まっていない状態で、安くもない賃料を払い続けるほどのゆとりはない。


 幸い祖父母が諸手(もろて)を挙げて梛を迎え入れてくれたが、食費光熱費タダでしかも三食おやつに昼寝付きという破格の厚待遇。


 家にいる間、梛が祖父母から要求される事と言えば、時々家庭菜園のお手伝いとイヌとネコをひたすらモフモフと()で遊ぶ係という夢のスローライフ生活で、居心地が良すぎて本気でダメ人間になってしまう前になんとか仕事を見つけたかった。


 取りあえず、倒産は会社都合の解雇だ。失業保険は自己都合より早めに受けとれる。社長が夜逃げした件も含めてハローワークに相談して離職票を発行してもらいに行ったり、役所に行って年金や健康保険の切り替えの手続きに行ったりと、怒涛の数日を終えた帰り。今日までのストレスを発散させようと、普段全然飲まないお酒を飲んでみることにした。


 ただし、バーみたいなお洒落なお店に行くほどの度胸はないので、自販機で購入してベンチで初一人酒である。飲んでいる所を顔見知りに気づかれたくないので、伊達メガネと帽子をつけているが、巨乳とムチムチの脚はどう着込んでも隠しきれていない。


「今度はせめて前もって解雇予告してくれるとこで働きたいっ!」


「ママ、あの人大丈夫? やけ酒してるよ」


「みんな色々大変なのよ。そっとしておきましょうね」


 見知らぬ親子に気遣われるほど、梛はすっかりできあがっていた。


「……お疲れ様、私ー。でも、大丈夫よー。私にはレン君がいるからー! うふふふふ」


 異世界ミラーでハルピュイアを倒した後、梛は衝撃の事実を知った。


「アーハルテさん、恋人がいるの!?」


「うん、前回の早駆け神事で行方不明になって、ずっと探したかったんだって。神域は1人で入れないから、それで冒険者ギルドに依頼して、僕が一緒に出ることになったんだ」


 戦いで受けた傷をポーションで回復させながら、レンは梛=シャイヤールに説明した。頭からポーションを被って濡れた髪をかきあげるレンの仕草に梛はときめいていたが、その背後ではキエリたちが奴隷にされていたイケメンたちをせっせと介抱していた。イケメンたちは主にシャイヤールの御神矢の余波を食らって耳鳴りとめまいに苦しんでいたのである。完全なとばっちりだ。


「レン君、ポーションまだまだあるよ。使って使って!」


 ハルピュイアとの戦闘で手に入れた回復薬っぽい瓶を、両手に抱えて笑顔で差し出す梛=シャイヤール。キエリが何故かちょっとうらやましそうな顔でチラ見している。


「ナギおねえさん、それ万能薬とエリクサーだよ。僕はポーション一本あればすぐ治るから。他の人に渡してあげてよ」


 久々にナギおねえさんと呼んでもらえた喜びも束の間、レンの気遣いに癒されるも、受け取り拒否されてしょんぼりしてしまう梛。


「ごめんねー、もうちょっと早く助けに来れたらよかったんだけど」


「そんなことないよ!」


 レンが真摯な眼差しで梛=シャイヤールを見上げる。


「あの黒い獣に捕まった時、このお守りが光って守ってくれてたんだ。だからすぐ逃げられたし、ナギおねえさんが来てくれたんだって、僕すごく勇気がもらえたし、うれしかったよ!」


「れ、レン君……!!」


 推しが……! 推しが尊いいいいい!!


 ヒキューの守りは梛の思いつき宣言によってレン君の守りへと変化しているので、文字通りレンの身を守っていたのだが、命名した当の本人も対の守りを持つレンもそこまでは気付いていなかった。


 レンの素直な気持ちを受けて、梛は身も心も隅々まで浄化されていく。


 悟れる。今なら涅槃(ねはん)に到達できるわー!


「見ろよ、こいつ少女漫画持ってるぜ!」


 今、いいところなのにー!


 急に誰かをからかう声が聞こえて、回想から現実へと引き戻される梛。


「や、止めて下さい。返して下さい……!」


 漫画の持ち主の動きを邪魔しながら、缶ビールを手に四人の二十代前半らしき男女が嘲笑っている。公園で禁止されているバーベキューをしていたらしい。


 チェック柄の長袖シャツに牛乳瓶の底眼鏡という、絵にかいたようなぼさぼさ髪のオタクスタイルの青年が、奪われた漫画を取り返そうと抗議の声を上げていた。


「……こんなの買ってどうすんだよ?」


「やだ、オタクキモーい」


「あんたらの方がよっぽどキモいわ、このディスりオタクどもー!」


「ぐはあっ!?」


 梛は少女漫画を雑につまみ上げていた革ジャン男に景気よくドロップキックをかましていた。


「な、何を……?!」


 状況をつかみ切れていない男女の問いに、やたらと堂々と腰に手をあてて梛は言い放った。


「酒に酔った勢いで人様見下す何様なやつらを同じく酒に酔った勢いで私が蹴り飛ばしました!」

 

「……ざけやがって!」


 蹴られた相手が(ののし)り、梛を殴りかかろうとパンチを繰り出すものの、容易くかわされてしまう。革ジャン男はドロップキックのダメージが大きくて、生まれたての小鹿のように足がフラフラしていたからだ。皆黙っていたが、かわした時に揺れる梛の胸の見事な動きに釘付けになっていた。


「ちょ、ちょっと、大体あたしらオタクじゃねえっつの」


「イケメン俳優オタクでしょうが!」


「なっ……なんでそれを!?」


 ダンジョンモンスターと誤認されて異世界スキルが発動しているのか、お酒の力で普段の倫理観のリミッターが解除されたのか、光文字が梛と相対する男女の個人情報をどんどん列挙していく。


「そっちのあなたは制服オタク! そんでもってあなたは全身タイツオタク!」


「何で知ってるんだよ!? まさかこいつ転生者(プレイヤー)かっ!?」


「ち、違う……おれは全身タイツを着ている体の方が好きなんであって……!」


「え、ヤダ、あんたらもキモい……」


 普段ひた隠しにしているこだわりを、いきなり乱入してきた巨乳の女に暴露され、公園が阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。


「そして蹴り飛ばしたあなたは……」


「よ、よせ……ばらすな、やめろ……!」


「魔法少女オタクよーっ!! よーっ!! よーっ……!」


 梛の叫びが響き渡るほど、公園が静まり返る。


「う、うそ……」


「お前、アニメ見ないっつってたじゃんかよ……」


「言えるわけねえだろ! オレみたいなやつがそんなの見てるなんて!」


「そりゃ、まあ、なあ……」


「だけどオレは本当は魔法少女が好きなんだ! あのフワフワキラキラした衣装も、キャラごとに違うこだわりぬかれた変身バンクも毎回応援しながら見ちまうんだよ! そして辛い現実に苦しむオレをいつも鼓舞し、寂しさを癒してくれる! オレにとって魔法少女は至高の存在なんだ!!」


「その気持ちわかる! アタシもイケメン俳優見つけると、この世に生まれてくれてありがとうって思えるぐらい、自分に生きる力が湧いてくる! 今日もなんとか生きててえらいじゃんアタシって思える!」


「おれも制服見ると……!」


「そこは今語んないで。全身タイツも」


「何でだよ!?」


 何か急に青春してるな……と、オタク青年は密かに思った。


「だからこいつが公園で少女漫画の表紙見て嬉しそうにしてるの見たら、同じことが出来ない自分に悔しくて勝手に腹が立って……何でオレは誰にも言えないのにこいつは自分の好きなものを堂々と人目に晒してんだって、妬ましくて、羨ましくて、からかっちまったんだ……!」


「だったらオタクに絡むんじゃないわよー!」


「ぐぼおっ!?」


 革ジャン男は梛のローリングソバットでまた吹っ飛ばされた。みんなの視線はやはり革ジャン男より梛の揺れる巨乳だった。


「オタクをからかうのはおのれのオタクをからかわれてもいい覚悟のある奴だけよっ!」


「だめだ、こいつただの酒乱だぞ!」


「でもあれノンアル缶なんだけど!?」


 梛がずっと飲んでいたのはノンアルコール飲料。しかし脳が錯覚してお酒で酔ったような空酔い状態になっていた。たとえノンアルコールでも微量にアルコールが含まれる飲料もあるので、もしかすると本当に酔っているのかもしれないが。


「とにかくヤバいから逃げろ!」


 気を失った革ジャン男を引きずって、バーベキューの道具もそのままに、男女は大慌てで退散していった。腕を組んでドヤ顔を決める梛。


「酒は飲んでも飲まれるなー!」


「一番飲まれている人の言うセリフじゃない気がする……」


 うずくまるオタク青年が思わず呟くと、梛が目を見開いて振り返る。


「ひっ」


 梛は恐怖で震えるオタク青年に、落ちていた少女漫画を拾って手渡した。


「私もこの漫画だいすきー! 新刊今日発売だったんだー。後で買いに行こーっと」


 満面の笑顔でそう言うと、梛は唐突にその場に倒れこんだ。


「えっ? えっ、ちょっと、あの! ……えっ、やだ、どうしよぉ。あの、起きて、起きて下さぁい……」


 うろたえるオタク青年の声が遠のいていく。梛はどっかで聞いたことあるなー、と思いながら意識を手放した。

いつもお読み下さいまして本当にありがとうございます!

ちょっとまたバタバタと予定が入りまして、少し間があいてしまいますが、次回更新は7月10日頃の更新予定とさせて頂きます。申し訳ございません……。……お役所に出す書類って、書くこといっぱいあって大変ですね……。(梛さんとは全然別の案件ですが)

急な蒸し暑さで大変な毎日をお過ごしかと存じますが、熱中症にはくれぐれもお気を付けて、大事なお体をどうか大切になさって下さいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ