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2話 持ってくなドロボー!

「なんて大きいの……。高層マンションが寝そべってるみたい……」


 巨大な竜の骨は、今すぐにでも動き出しそうな姿だった。それでも金貨や財宝に半ば埋もれたまま、魂の気配は感じられない。


「あっ、欠けてる……。この体はあの牙から造られたのね」


 竜の上顎の大きな犬歯のひとつが、途中から折れてなくなっている。


「魔竜姫っていうことは、一応女の子なのか。姫なんだー。そう言えば角とかのデザインがきれいだよねー。……姫かー……」


『魔竜姫の亡骸』


 宙に光る文字。何か気になる。


『魔竜姫の亡骸:』


 続きがあるっぽい。気合いを込めて見つめると、一気に続きの説明文が出てきた。


『魔竜姫の亡骸:古の時代、魔王と闘い勝利したことでその力を後継し、ダンジョン化した魔王城に四天王とともに君臨した伝説の魔竜。聖剣を携えた勇者によって封印される』


 その時、(なぎ)の脳裏で女神に伝えた己の言葉がフラッシュバックした。


『後世に伝説の賢姫と讃えられたお姫様……美少女悪役令嬢……』


「伝説の賢姫……悪役令嬢……伝説……悪役……」


 雷が落ちたかのような衝撃が走り抜ける。


「伝説の悪役……!!」


 何故そこだけ採用したのか。しかし伝説とか悪役令嬢とかのたまっていたのは、まぎれもなく自分だ。


 こんなことなら声を大にして『めっちゃ可愛い美少女エルフにして下さい!』とかおねだりしておけばよかった。


「伝説の悪役になるにしたって骨ってなんなの、骨ってー! せっかくの異世界なのにー! 憧れの悪役れいじょおおおおおおう……! 骨がドレス着てカーテシーやってもコワいだけー!」


 ひとしきり金貨の上でじたばたしたが、なってしまったものはもうどうしようもない。


「うう、せっかく女神様と魔竜姫ちゃんがくれた体だもんね……骨だけど」


 封印された魔竜姫は、ダンジョン化した元魔王城に残った財宝を守るため、最期の力を振り絞って、竜牙兵であるこの骨の体を造り出したのだろうか。


「あなたが集めたものだものね。そっとしておかなきゃ。……さっきからめっちゃ踏んでるけど許してね」


 呟いた梛の後ろで盛大にガシャーン! とけたたましく金貨を踏みつける音がした。驚いて振り返ると、梛の骨の体より五倍は大きなひとつ目の巨人が三体も現れていた。


 手近にあった金の像や宝箱を担いで、どこかに持っていこうとしている。


「……ハッ! 待ちなさい、このドロボー!」


 叫んで恐ろしい速さで駆けつけると、金貨の波を立てながら、追い抜きざまに腕から生えたブレードで巨人三体をスパーン! と薙ぎ払って両断する。


 斬られた巨人の体が火花を散らして消えると、そこから色とりどりの結晶や大量の金貨、それに巨人の目っぽい水晶やら武器やらが溢れるように散らばった。


「…………」


 顎をポカンと開けたまま、梛は自分の腕を見た。骨の一部が変化して、鋭利な銀色に輝く刃が生えていた。ブーンとかウオオオンとか、少年漫画でしか見ないような、すごい圧を放っている。


「何これ、こわい……」


 もっと怖いのは、反射的に三体の巨人を瞬殺してしまった自分だ。相手が大きかろうが複数いようがお構いなしである。


 ここにある財宝を勝手に持っていかれるのが許せなくて、体が勝手に動いてしまうのだ。恐怖感もためらいも一切ないのは骨だからだろうか。


「ま……まあ、これで宝を奪うやつもいなくなったし、また静かな場所に戻るわね……」


 言っているそばから、別の牛の頭をしたモンスターが群で現れて財宝を運び出していた。


「また来た!」


 スパーン!


「今度は鳥型のドロボー!?」


 剣圧を飛ばしてスパーン!


「うわ、でっかいスライム! 金貨溶かさないでっ!」


 銀の炎をまとわせたブレードでスパーン!


「ヘビとかクモとかうじゃうじゃ来ないでっ!!」


 銀の炎と剣圧の乱舞でスパパパパーン!!


「……こ、こんなサービス残業やってられないからー!!」


 片付けても片付けても、モンスターがどんどんやってくる。そして倒す度に雪崩が起きそうなほどの大量の金貨や財宝を吐き出して消えていく。


「もしかして、ここの財宝の山ってこんな感じで増えてたわけ……?」


 キリがない。財宝を奪いに来るモンスターがお宝になって、さらに他のモンスター達をどんどん引き寄せてしまう。


 しかも財宝を奪われまいと、自分は必死になって闘ってしまう。終わらない仕事なんか、もう絶対やりたくないのに……!


 嘆く隙をついて触手型モンスターがやって来る。


「たこ焼きにするわよ本当に! ……ああ、もう、どっかにこの財宝全部隠せないのーっ!?」


 梛の悲痛な叫びに反応して、頭上のキューブが激しく輝き出した。細かな筋が入ったかと思うと、内側からブロック状に分裂して増殖しながら大きく展開していく。


 巨大な鉱物の結晶体のようになったキューブは、深い海の輝きと底知れない闇を放っている。


『次元収納』


 光文字が巨大キューブの状態を説明する。


「収納出来るの!? じゃあ、ここにあるもの全部、中に片付けて!」


 了解を示すように一度点滅すると、空気が吸い込まれるような感覚がわずかにした後、周りにあった財宝は跡形もなく消えさった。


 あとにはただ広大すぎる朽ちた広間が暗く広がるばかりだ。キューブも元の大きさに戻っている。


 静か。めっちゃ静か。広間に入りかけた新たなモンスターも、何もないのに気付いていそいそと戻っていく。


「すっきりしたー!」


 骨だけど、とても晴れやかな気分で額に出てもいない汗を拭う梛。休日は家の掃除で気分転換するタイプなので、爽快感と満足感が半端ない。


 だから広間に本当に何もない状態の意味を理解するのは、もう少し後だった。


「やったあ! これで自由よ~! 異世界ミラーを楽しむぞーっ!! 誰かお友達になってくれる人いないかなーっ?」


 梛は足取り軽く広間の外へと飛び出した。スキップする竜牙兵の姿は、それはそれで恐ろしいが、本人は気付いていない。


 しかし、ここはダンジョンなので、やっぱりモンスターと遭遇するのだった。


「出口どこーっ!?」

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