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14話 悪役令嬢だわー!

 煌めく豪華な王宮の広場。壇上にはドレスの令嬢を抱き寄せるイケメン王子。


「我が運命の乙女を傷つけた罪は婚約破棄をもって償ってもらおう!」


「きゃ……きゃんきゃきゃっきゅーん……!?(な……なんですってえー……!?)」


 白コボルトの悪役令嬢福籠(ふくごもり)(なぎ)は白目をむいて驚愕する。


「はい、カット! ああっ、可愛いっ! よくできまちたねっ。偉いよ、シロたん!」


 舞台袖から現れた眼鏡の令嬢が、満面の笑みを浮かべて梛を抱え上げ、くるくると踊る。


 白コボルトを10億で落札したのは、14、5歳の美少女だった。


 踊ると見事に巻かれた銀髪の縦ロールがキラキラと輝いて、令嬢に憧れる梛をうっとりさせた。ちなみに梛も今はドレスを着て縦ロールのカツラをかぶっているのでお揃いである。


「どうだった? 今度新しく始める体験型悪役令嬢イベントは! 好きなシナリオを選んでもらって、断罪シーンからの王子にざまあ展開や別のイケメン王侯貴族からの求婚展開、イケメン騎士様との愛の逃避行展開、逆ハーレム展開に運命の乙女との百合展開まで盛りだくさん! 予約はもう1年先までいっぱいだよー!」


「きゃふうっ! きゃんきゃんきゃうーん!(ボス、すごいねっ! まさに憧れてた悪役令嬢ものー!)」


 白コボルトの魂も、眼鏡令嬢を完全に群れのリーダーだと認めているのか、ご主人様ではなくボス呼びになっている。


「お嬢様があんなに笑っていらっしゃるわ!」

「くっ、ギャップ萌え……!」

「おれも白コボルトになりたい……!」


 舞台にいた貴族たちが頬を染めて、眼鏡の令嬢が白コボルトと戯れている姿を堪能する。彼らは眼鏡の令嬢に採用された役者たちだ。


「って、何がシロたんだーっ!」


 広場の大扉を勢いよく開けて、猫耳美少年がやってくる。顔のあちこちにキスマークをつけ、着ていた服も所々破けて艶っぽい肌があらわになっている。


「てめえがそのコボルトのガキを予算無視の10億なんてえぐい値段で競り落としたせいで、危うくこっちが熟女のペットになるところだっただろうが……!」


「執事が代わりに競り落としたはずだが」


 猫耳美少年にむけられる眼鏡令嬢の表情が、一瞬で冷ややかな無表情に変わる。いつの間にか眼鏡令嬢の背後に、お揃いの眼鏡をした赤髪オールバックの長身執事が控えており、猫耳美少年を購入した契約書を眼鏡令嬢にチェックさせてから影の如く気配を消した。


「熟女の競り値より金貨1枚差でな。そのせいでごねるわ、泣きつくわ、どさくさに紛れてセクハラしまくるわ、えらい目にあったんだよ……」


「君が普段うちのメイドたちにやってる事と同じだな」


「ぎゃうっ(さいてー)」


「シロたんもそう思いまちゅか? ああっ、肉球がほっぺに……! はあはあ……もっと……もっとフミフミを!」


「きゃんきゃきゃう?(ボス鼻息荒いよ、大丈夫?)」


 眼鏡令嬢は、白コボルトを競り落とそうとしていた動物保護団体の会長よりモフモフを愛する者だった。


「だけどどうする? 商品の中にあいつはいなかった。間に合うのか?」


 猫耳美少年がそう言うと、鼻にくっつけた肉球の匂いを存分に吸い込んでいた眼鏡令嬢が冷ややかに口の端を上げる。そこから流れ出るヨダレはこの際誰もツッコまない事にした。


「見つけてみせるさ。我々には……シロたんがいる!」


「きゃん?」


 会場の大扉が開いて、今度は数人ほど何者かが入ってくる。それは梛もよく知る人物だった。


「きゃ……きゃんきゃんきゅっ!(らぶちゅるちゅ!)」


 遠目からでも、オーラ輝く見目麗しい一団が、眼鏡令嬢の元に駆け寄ってきた。


「ぎゃふーっ! きゃきゃんきゃきゃんきゃー! きゃんきゃんきゃきゃーん!!」


 らぶちゅるちゅ!!本物のらぶちゅるちゅがいるわー!!


「まだ帰ってこないの、あの子?」

「どこいったんやろか」

「もうあんま時間ないよね……」

「社長殿、如何致しますか」

「もう一回探さない? あの子絶対一人で泣いてるよぉ」


 腰が砕けるぐらいド美声セイレーンかりょびー! 

 お肌からしっぽまで艶々ラミアりゅおってぃ!

 フローラルな香りが素敵なドリアードここたま!

 体は梛よりセクシーだけど着ぐるみ愛用サキュバスむぃまな!

 一番の仲間想いで乙女男子なインキュバスばくおー!


「きゃあああっ! らぶちゅるちゅー!!」

「かりょびーおねえさまが実在してるうーっ!」

「うおおおお! むぃまな様ー! オレたちの愛を吸ってくれえええ!!」


 イベント広場にいた役者一同もただのファンと化し、泣くわ叫ぶわ腰が砕けるわのカオスな状況となっていた。

 

 興奮し過ぎて梛のしっぽも扇風機のように回転している。嬉ションを我慢できたのは、眼鏡令嬢から悪役令嬢ドレスのレンタル代を教えてもらっていたからだ。一瞬で梛の1ヶ月分のお給料が蒸発するお値段だった。そう言えば今月のお給料の支払い遅れてるような気が……。


「……きゃん?」


 だが、肝心のセンター、吸血鬼のきゅーみーがいない。


「きゃーきゃんきゃ?(きゅーみーはどこ?)」


「さすがシロたん。気がついたか。そう、きゅーみーはいない。さらわれたんだ」


「きゃ……きゃんきゃきゃっきゅーん……!?(な……なんですってえー……!?)」


 再び白目をむいて驚愕する梛に、眼鏡令嬢は懐からフリルスカートを取り出した。


「さあっ、シロたん! きゅーみーの匂いを嗅いであとを追いかけるんだ!」


「きゃっきゃわんきゃんー!?(やった事ないよー!?)」


「おいおい、いくら鼻がきくからってこんなガキに……ぶおっ!?」


 猫耳美少年を突き飛ばして、目を白黒させる梛にらぶちゅるちゅのメンバーがしがみつく。


「お願いシロたんさん!」

「きゅーみー探してえな!」

「もうすぐライブなんだよっ」

「拙者からもお願いするでござる」

「みんな揃わなきゃらぶちゅるちゅじゃないのぉ」


 可愛いきれいっ! 神々しいっ! 圧倒的美に浄化されるっ! みんないい匂いっ! やわらかいっ! ふわふわぷにぷにふわぷにふわぷに………。


「きゃわわわわわわきゃきゃーん!!?」


 推しのアイドルに囲まれるという宇宙レベルの幸運に、梛の魂は覚醒した! ……或いはらぶちゅるちゅの魅了スキルとフェロモンにやられて思考を放棄したとも言う!


「きゃうっきゅきゃきゅーん!!(きゅーみーを絶対見つけるよー!!)」


 宣言しながら結局嬉ションしてしまう白コボルト梛であった。

いつもお読み下さいましてありがとうございます。お仕事や家事や勉強や色んなこと、いっぱいあるなかで、皆様の大切な時間をこの作品に向けて下さって頂ける事がものすごく励みになっています。

次回15話は4月12日頃更新予定です。

寒暖差の激しい毎日ですが、どうかご自愛下さい。

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