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10話 物理な魔道士ー!

 モモンガ獣人の迫力に押されていた男たちだったが、リーダーの男がようやく我に返った。


「よく分からねえことほざきやがって! 大体てめえ、どこから入った!」


 リーダーの威勢に動じる様子もなく、モモンガ獣人はポリポリ後ろ足で体を掻きながら言った。


「どこからと言われても、ヒカリネズミたちの通路は縦横無尽に巡らされてるから、どこからだって入れるんだが」


「妖精さんたちの先祖代々の苦労がっ!?」


 セキエイの体に間借りしているからか、結構ショックを受けてしまう(なぎ)であった。


「くそっ、あの情報屋……! 未踏エリアだとか言ってボッタクリやがって!」


「リーダー、どうする?」


「あの獣人が古代兵器を破壊したんだったら、オレたちが敵うわけねえ……」


「……そんなわけねえだろう。ヒカリネズミどもが遊び場にするぐらいだ。どうせとうに壊れていたに決まっている。おい、獣人。てめえに用はねえ。さっさとそこをどきな。ここにある物は全てオレたちが頂く。壊れていようが、そいつは法外な値段で売れるはずだ」


「ほう? 出来るのか、坊や。なら、やってみな」


 低く響くモモンガ獣人の声で、辺りのヒカリネズミがざあっと潮が引くように離れていく。それを見たローブ男が、ふと何かに気付いた。


「誰が坊やだ! ぶっ飛ばしてやらあ!」


 剣を抜き放った男たちが、一斉にモモンガ獣人に襲いかかる。ローブ男が一瞬遅れて叫んだ。


「待て、そいつは伝説の勇者の仲間……! 大魔道士ムサリスだ!」


「顔はモモンガなのに!? ムササビだかリスだか分かんない名前なの!?」


 梛のツッコミと同じ速さで男たちは反撃された。ムサリスにたどり着く前に、スローモーションのように男たちが宙をぶっ飛んでいく。


「しかも魔道士なのにワンパンで!?」


 拳圧だけで男たちを吹き飛ばしたモモンガ獣人ムサリスは、ローブ男の足元に転がっている金属の杖を見つけた。つぶらな瞳がますますまん丸になる。


「そいつは俺様の杖じゃねえか。ヒキューの野郎、売り飛ばしてやがったか」


 古代兵器の頂きからムサリスが悠然と降りてくる。


「くっ、来るな来るな……!」


 ローブ男が手を突き出した。周囲から青白い魔力の光が凝縮して火球を生み出すと、ムサリス目がけて勢いよく放たれる。


 目前に迫った火球をムサリスはぺちっと小さな手ではたいた。再び腕の飛膜がやわらかく波打つ。


「ああ、二の腕がぷるぷるするぜ……!」


 はたき返された火球を食らって、またしてもぶっ飛ばされる男たち。


「きゃあっ!?」


 爆風にあおられ、鳥かごごと宙を舞う梛。


「セキエイ……!」


 コクヨウも金属の杖の陰で爆風を堪えて身動きが取れない。梛は咄嗟に身構えたが衝撃はなかった。閉じていた目を開けると、つぶらな瞳が覗き込んでいる。


「怪我はないか、お嬢ちゃん」


「は、はいっ。助けてくれてありがとうございます」


 ムサリスは鳥かごの扉を開けると、梛を手に乗せて頬ずりした。


「怖かっただろうに、可愛いこと言ってくれるぜ。安心してモフりな」


 頬ずりされてる! レン君にしてもらう予定だったのに……! でもモフモフで気持ちいい! いい! すっごいモフモフ! モフモフ最高!


 梛はムサリスの顔のモフモフ具合にうっとり埋もれた。もし今度転生する機会があったら、モフモフした姿になりたい……。


「み、御使い様……」


「ハッ!?」


 コクヨウがどこか切なそうな顔で見つめていた。


 ムサリスはつぶらな目を細めて笑うと、梛を足元のコクヨウの側に降ろした。


「我らをお助け下さってありがとうございます。あなた様は人間たちが言っていたように、真の大魔道士ムサリス様であらせられるのでしょうか?」


 ひざまずいて頭を垂れるコクヨウの問いに、ムサリスは腕を組んで頷いた。


「いかにも、俺様が魔道士ムサリスだ」


「伝説ではムサリス様は永き眠りにつかれたと伝わっておりましたが」


「その通りだ、色男。俺様は割と最近まで冬眠していた……!」


「冬眠してた……!?」


 モモンガは越冬するけど冬眠はしないよ、と推し声優につられて何気に観た子供向け教育番組の内容を覚えていた梛は衝撃を受けた。


「あの頃の俺様は、魔道研究に没頭するのが生き甲斐で、ただすこぶる顔と頭がいいだけの引きこもりのヒカリネズミ坊やだった……」


「自己肯定感は高いわ……」


「だが勇者とともに魔王を倒すために世界を巡り、平和になった頃にはもう、俺様の体力は限界だった。いや、旅に出た時から常に慢性疲労と外界の寒暖差で体調を崩しては風邪ばかり引いていた。俺様の筋肉がその時目覚めていれば、世界は何十倍も早く平和になっていたかもしれんな……」


「ムサリスさん、虚弱体質だったんですね……」


「そう、俺様は魔力以外はとことんひ弱でな。魔王を倒した後は冬の寒さも手伝って仮死状態になった。冷えはいかんな。体が動かなくなる。俺様は仲間の張った結界の中で永きに渡って眠り続けた。出来れば南国まで運んでくれれば回復も早かったかもしれんが、今さらだな」


 ムサリスは苦い笑みをふわふわの口元にたたえると、転がったままになっていた金属の杖を、綿棒でも扱うように足の爪先でひょいっと起こした。手にしたかと思うと振り返りもせず、音もなく背後に迫っていた古代兵器の上半身を一撃で粉砕した。


「こ……古代兵器が……オレたちの野望が……」


 ぶっ飛ばされて起き上がれずにいた男たちが、がっくりとうなだれる。


「ふん、他力本願の妄想なんざ、結局横から掠め取られるのがオチだ。てめえの力と心意気で勝負したもんだけが最後まで残るのさ」


「ムサリスさん、かっこいい!」


「そいつは色男に言ってやりな、お嬢ちゃん。……ふむ、やはり古代兵器は再生力が高いな。再起動しないように核だけ抜いておくか。残りはお嬢ちゃんが収納しといてくれよ。俺様の次元収納は他の荷物で容量空いてなくてな」


 小さな親指を立てて指し示したムサリスの頭上に、梛と同じ青いキューブが現れる。


「やっぱり転生者(プレイヤー)さんだったんですね!」


「まあな、と言っても俺様担当の転生者は戦闘時はほとんど出てこないんだが。一年ほど前に冬眠してた俺様の中に入ってきたかと思えば『ムサリスさん、筋肉です! 筋肉を育てましょう! 筋トレをすれば体温も免疫機能も上がります!』って、筋トレ指導してきてな。最初は筋トレする筋肉すらなくて辛かったが、継続は力なりだな。お陰で今じゃ俺様史上最高の俺様になれたってわけさ」


 背景にボディビルの大会風景が見えるほどのキレてるポージングで、ムサリスはサッカーボール大の古代兵器の核をキューブに納めた。


「昔は重力操作しねえと持てやしなかったが……」


 金属の杖を片手で持ち上げ、ゆっくりと下ろす。また持ち上げて、下ろす。そして繰り返し。


「これで二の腕が鍛えられる……!」


「ダンベル扱い!?」


 人間の男たちが数人がかりでやっと持ち上げていた超重量の杖をダンベルがわりにしている。満ち足りたムサリスの顔。


 本当に二の腕鍛えていいのかしらと思いつつ、梛は木っ端微塵の古代兵器をキューブの次元収納にガンガン吸い込んだ。


「おっと、それよりさっきから気になってたんだが、随分趣味の悪いもんつけてるな」


 ムサリスはコクヨウの首に巻きついた針金状の首飾りを一瞥して呟く。


「色男が台無しだぜ」


 ムサリスのつぶらな瞳から、ビームのように光が放たれる。コクヨウの横にいた梛もモロにビームをくらって眩しさに目をしばたかせていると、パキリと音を立ててコクヨウの首飾りが外れて転がった。


「奴隷の呪いを解きやがった……マジかよ……」


 かろうじて意識のあった男たちのリーダーは絶え絶えに呟くと、諦めたように気を失った。


「外れた……呪いが解けた……。自由だ……俺は自由になったんだ、セキエイ!」


 呪いから解放された喜びに感極まって、梛が間借りしていることも忘れたコクヨウが、セキエイの体を抱きしめる。


「きゃーっ!?」


 驚いたからか、同じくセキエイも感極まったか、妖精の少女の体から梛の魂がスポーン! と飛び出した。


「びっくりしたー! 愛の力にはかなわないのね……」


 魂状態になった梛の前で、意識を取り戻したセキエイがコクヨウと涙を流して抱きしめ合っている。


「まあ、この二人が助かったから良かったわ」


 微笑ましく眺めていると、何故か段々と距離があいていく。覚えのある感覚だ。


「えっ、もしかして転生終了!? またなの!? セキエイちゃん担当じゃないのおーっ!?」


 梛の叫びもむなしく、魂は現実世界に還るために自身の青く輝くキューブに吸い込まれていく。


「御使い様……! お還りになられるのですね。わたくしとコクヨウをお救い下さって心より感謝致します……!」


 梛の気配が離れていく事に気付いたセキエイが声を上げる。梛の姿が見えていないコクヨウも叫んだ。


「この御恩は忘れません……! セキエイとともに語り継いでまいります……!」


「わーん! もう将来設計考えてすごいわーっ! 二人ともお幸せにねーっ! ムサリスさんもありがとうございましたー!!」


「またどこかで会おうぜ、お嬢ちゃん!」


 出来れば今度は妖精よりサイズ大きめでお願いします、女神様ー!


 梛は切実にそう願いながら、異世界ミラーを後にした。


 ……次に転生先で目を開けると、檻の中だった。


「こ……これって……」


 首に絡みつくのは、コクヨウの首に巻かれていたのと同じ呪いの首飾りだった。


「何で奴隷になってるの私ーっ!?」


 そう叫んだはずだったのに。


「わきゃんっきゃんきゃんううぅうううきゃきゃーんっ!?」


 口から出たのはかん高い鳴き声だった。


 一応、モフモフだった。

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