ケの一族
ある宇宙の、ある星の、小さな島の上に、ケの一族と呼ばれる人々がいました。
一族には、二種類の人がいました。
頭に毛がある人は、ケアリと呼ばれていました。
頭に毛のない人は、ケナシと呼ばれていました。
自給自足の生活が当たり前であるこの島の上では、毛は大変重要なものでした。
毛を伸ばし、毛を収穫し、毛で物を編む…、それは重要な生活の一部だったのです。
編める毛を得るために、毛は伸ばさねばなりませんでした。
長い、丈夫で、長持ちする毛を手に入れるために、人々は工夫をしていました。
より良い毛を育てるため、ケアリは毛を大切にしていました。
毛が切れてしまわぬよう、外に出ないよう心がけました。
毛を育てながら毛を編み、子を育てながら子に生えた毛を管理しました。
より良い毛を失わないため、ケナシはケアリを大切にしていました。
ケアリが毛を失わないよう、外に出て狩りをしました。
ケアリが毛を失わないよう、食料を与えて管理しました。
より質の良い毛を伸ばすために、ケアリは睡眠を取る必要がありました。
より良い毛が育つために、ケアリはマズイ食べ物を摂取する必要がありました。
数多くいるケアリのなかには、少しばかり目立つものがいました。
太い毛を持つものは、大変重宝されました。
色の違う毛を持つものも、重宝されていました。
毛の多いものも、重宝されていました。
毛は、いつまでも収穫できるものではありませんでした。
毛が少なくなり、ケナシになるものもいました。
自らの頭で毛を育てることができなくなった時、元ケアリは、毛の職人としての仕事を得ました。
ケアリは、己の毛が少なくなっていくことを常に恐れていました。
ケアリは外に行くことがないまま長い時を過ごした人々です。
今更ケナシになったところで、何ができるのかと絶望するものがいました。
こんなことになるならば、早めに毛を落としてケナシになれば良かったと嘆くものもいました。
ケナシは毛を蓄えることを諦めた人々です。
少ない毛を刈り、野山を駆け巡っていました。
ケナシの毛は、編み物の中に詰め込むための毛としてしか使うことができませんでした。
ケナシの毛は、毛の中でも特に品質の悪いものでした。
ケナシは、財産となる毛を持ってはいませんでしたが、自由に動くことができる肉体を持っていました。
ケナシは、狩りをするためにあちこちを移動しました。
ケナシはたまに、外で怪我をしました。
ケナシは怪我をしても、ケアリのために狩りに出ました。
ケナシの頭に毛が1つもなくなった時、人々はケナシの神になったと称え、崇めました。
朝日をあびてテカテカと輝く頭は、まるで神そのものでした。
毛のない頭を毛で編んだ布で拭い、ピカピカと光らせて、人々の英気を養いました。
ケアリとケナシは、互いに足りないものを補い合いながら、平和に生きていました。
ケアリは、自由に大地を駆け巡る事ができるケナシになりたいと思う事がありました。
ケナシは、何もしなくても飯が食えるケアリになりたいと思うことがありました。
ケアリは、美味いものだけを食べられるケナシが羨ましいと思うことがありました。
ケナシは、ふさふさと背中に垂れ下がる髪の毛が生えるケアリが羨ましいと思うことがありました。
……次に生まれた時は、ケアリになりたい。
……次に生まれた時は、ケナシになりたい。
夢と希望を抱いて、ケの一族は命を終えていきました。
そして、希望通りに生まれ変わる事ができた、ケの一族は……。
遠い宇宙の、遠い星の、とある大地の上で。
「なぜ俺は…こんなにハゲてしまったんだ」
「なんで私…こんなに髪の毛が多いんだろう」
「うう、額が…!」
「ヤバイ、パーマがすぐに取れるんですけど!」
「天パのせいでモテねぇんだよ!」
「まだ二十代なのに……」
「若白髪が…にくい!」
自由気ままに、文句を言っているそうです。