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いぶきとあかりの異世界回想録♬  作者: おもち
第三篇 首都ローゼン
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第70章 トラウマ

 

 メイは捕食者に睨まれた獲物のようだった。


 膝が言うことを聞かず、他人の足になってしまったようだ。肩は震え、心肺には余裕があるはずなのに、過呼吸のようになってしまう。


 レイピアを持つ手が震え力が入らない。

 つくづく、自分の不甲斐なさにイヤになる。しかし、どうしようもない。


 理屈ではない。

 ただただ『怖い』という、憎らしい程の身体的な防衛反応。



 次の瞬間。

 目の前には1号の膝があった。


 メイは反射的に肩を上げ、かろうじてショルダーブロックをした。しかし、圧倒的な体格差は、絶望的な体力差になって、メイを打ちのめした。


 メイはブロックの体勢のまま吹き飛ばされる。左頬には大きな痣ができていた。


 『鎖骨にヒビ、もかしたら折れているかもしれない』


 メイは飛ばされながらも、冷静に被害状況を分析した。幸いなことに、さっきの衝撃で、気持ちも身体も正気に戻ったらしい。


 メイは、自分に残された僅かな体力で何ができるのか。自問自答する。


 やがて、意を決すると、腕捲りをして左手の親指と人差し指をつける。そして、指先に竜巻を生じさせた。


 

 一般的に風の魔法は他の属性に劣ると言われている。それは、たとえば、真空にしても物を切ることは出来ず、炎や氷のように華麗に一撃で敵を倒す術が存在しないからだ。


 そのため、メイはユーグレアの家の中で、無能だと見下されてきた。


 しかし、合宿中にエリカとあかりと何度も検証して、風魔法の可能性に気づいたのだ。

 まず、元から存在する空気を利用するため、他属性の魔法にくらべ、圧倒的に魔力消費が少ない。



 そして、もう一つは……。

 

 


 メイは1号を睨みつけると、歯を食いしばった。


 『あいつを倒して、全て終わらせる。この劣等感も恐怖心も』

 


 またレイピアを構え、上半身を低くする。


 

 1号はメイが死に体と判断したらしくニヤリと笑う。そして、今度は右肘を立てると力を溜める。


 メイは肩で息をしている。俯き加減だが、眼球だけはしっかり1号の姿を捉えている。


 『とどめの一撃を放つ気だ。わたしが弱っているからフェイントはかけてこないだろう。こちらも、次の一撃で終わりにする』


 1号は地面を蹴り、砂埃をあげながらメイに接近する。胸をグッと開いて、弓を引くように右肘を後ろに反らす。そして、渾身の一撃を放ってきた。

 


 メイは右掌の魔力を高める。


 「「ウィンド•バリケード」」


 すると、メイと1号の間に烈風の障害が発生し、1号の肘打ちの威力をいなして受け流す。1号はバランスを崩しタタラを踏む。


 1号は眼球はメイのレイピアのみを捉えている。風魔法など意に介する様子はない。


 『やはり。こいつも風の魔法を侮っている』

 悔しいことだが、この際、その不遜さを最大に利用させてもらうことにした。

 


 メイは、同時に左手の指を鳴らした。

 すると、先ほど準備した竜巻が勢いよく射出され、1号の顎を跳ね上げる。


 カハッ。

 不意の一撃に、1号は大きな息を吐き出し、その反動で肺いっぱいに空気を吸い込んだ。


 メイはレイピアを投げ捨てると、右手を1号の胸に添えた。そして、落ち着いた声色で唱えた。


 「「エクスプロージョン•オブ•バキューム」」

 

 瞬時に1号の肺の中の気圧がゼロになる。そして、1号の肺には外気との差圧が一気に押し寄せた。


 グシャっと肋骨が折れる音を発し、1号の肺は高いところから落としたリンゴのように潰れた。



 魔法に無警戒だった1号は、目を見開き驚愕の表情をすると、一言も発することなく、そのまま前に倒れた。



  『……もう一つは、工夫次第では相手を倒すことに特化していると言うことです』


 メイは勝利を確信すると、後ろを振り返ることなく舞台を後にする。


 その口元は、心なしか綻びて見える。


 そして、拳を強く握りこみ、まるでガッツポーズのように右手を顎のあたりに持って行くのだった。

 

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