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いぶきとあかりの異世界回想録♬  作者: おもち
第三篇 首都ローゼン
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第68話 いぶきの夢


 ……ガタンガタン。


 どこからか高架を通過する電車の音が聞こえる。

 空気に緑の瑞々しさはなく、アスファルトに焼かれ立ち上る陽炎の匂いがした。


 ハァハァ……。


 俺は走っている。

 どこを何のために走っているのかは分からない。


 ただ、誰かを待たせてはいけないと、必死に走っている。

 

 初対面の相手ではない。

 毎日のように会っている相手だ。

 

 だけれど、彼女に会えると思うと初デートの時のように胸が高鳴って、足元がおぼつかない。


 俺は足を止める。

 足をとめたのに、心臓はトクトクと動き続けている。

 

 この息苦しさは何だろう。


 続きを考える間も無く、俺は自分の口角が上がってるのを感じた。そして、何かの部族のように、右手をあげて挨拶する。


 「ごめん、待った?」


 「いっくん。遅刻だぁ」


 粒立ちがよくて、少しだけ甘えたような声が響く。


 俺は顔をあげた。

 

 すると、黒髪を紫の紐で結った美しい女性が、白い猫を抱きながらこちらを見ている。女性は白いワンピースを着ていて、俺より少しだけ年下に見えた。


 彼女は真っ白な頬を膨らませ、少しだけ安心したようにはにかむと、真っ直ぐこちらを見つめる。


 彼女と目が合った瞬間に、心臓が動きを増し、俺はまた恋に落ちるのだ。




 「いぶきちゃん。いぶきちゃん」


 身体を揺さぶられる。

 

 ググッと水中から引き上げられるような感覚がして、瞼が開く。すると、さっきまで見ていたのと同じ顔の女性が、こちらを見ている。


 ただ、少しだけ幼い。


 「ご、ごめん。また待たせて……」


 「いぶきちゃん、寝ぼけてる? 待たされているのはノア達の方だよ〜」


 少女はさっきと同じく、はにかむような笑顔を見せた。


 夢か。


 現実世界の懐かしさと、胸の高鳴りが空回りしたような虚しさを覚えて、私は起き上がった。


 そして、いつもと同じように、髪を整えてもらい、歯を一緒に磨いて、手を繋いで学校に向かう。


 昨日までと同じ。

 2人は仲良し。

 

 ただ、違うのは。

 昨日まで緩く繋いでいた手が、お互いの存在を確かめ合うように、指を絡めるような繋ぎ方に変わった事か。


 

 あかりと一緒に階段を駆け上がる。

 すると、他のメンバーはすでに来ていた。


 「おせーぞ、お前ら!」

 ノアが手を大きく振りながら叫んでいる。


 皆と合流し、講堂に行く。

 講堂には、今回の学内選抜戦の参加者達が集まっていた。


 エリカはキョロキョロと心細そうにあたりを見回すと、消え入るような声で呟いた。


 「みんな強そう〜。大丈夫かなぁ」  


 たしかに、右を見ても左を見ても上級生だらけだ。一年生の参加者は少ないのかも知れない。


 ノアはエリカの肩をポンポンと叩く。

 

 「このメンバーなら大丈夫。仲間を信じろ」


 「う、うん……」


 ガサゴソと、マイクチェックのような音が響き渡る。音響の魔法か。


 「えー、学長のエルドです。本日は待ちに待った年に一度の学内イベントの開催日となりました……」


 学長の話が長いのは、どこの世界でも同じらしい。長い前置きの後に、ようやくルールの説明が始まった。


 それによれば、参加者多数のため、まず予選でチーム対抗の勝ち抜き戦を2回行い、そこで残ると、決勝の総当たり戦に参加できるとのことだった。


 チーム戦は順に一対一で対戦する。決勝については、残ったチームに追って説明があるらしい。


 まずは、チーム戦だ。

 そこで、気づいてしまった。


 「一対一の戦いで、ヒーラーは何をすれば?」


 すると、ノアが答えを教えてくれた。


 「予選はヒーラーはやることないぞ。総大将はあぐらをかいて待っててくれ」


 予選では、ヒーラー以外のメンバーの強さで、ほぼ勝敗が決まるらしい。特に2年生以上は3人参加なので、3人目に予選を重視して召喚職を入れるか、本戦のために回復職を入れるかで駆け引きがあるらしかった。


 去年は回復職なのに無双な生徒がいて、1人で全員をなぎ倒すハプニングがあったようだが、そんなことは普通はない。


 一通りの説明が終わったところで、各チームの代表者は前に出て、クジで組み合わせを決める。


 私は自分には関係ないことなので惚けていたら、ノアに背中をパシンと叩かれた。


 「なに?」


 「いや、クジはお前の仕事だろ? 総大将なんだから」


 「え?」


 「言ってなかったっけ? このチームのリーダーはお前なんだよ。いぶき。あ、このチームの名前な、チーム•いぶき なんでよろしく〜」


 まじか。

 なんなんだ、その恥ずかしい名前は。


 それに、私、くじ運最低なんですけれど。

 子供の頃に、ハズレ無しのクジでハズレを引いたことがあるんだぞ。


 皆に急かされて、前に出た。

 そして、箱に手を入れて、ゴソゴソとクジを引く。


 司会者は渡されたクジを開き、トーナメント表にチーム名を書き込んでいく。全てが出揃って、皆のところに戻ると、ノアが耳打ちしてきた。


 「俺らの相手、あいつららしーぞ? お前のくじ運ハンパないな」


 ……おそるおそるノアの指さす方向を見てみると、雄叫びをあげているスキンヘッドの三人組がこちらを睨んでいた。丸太のように太い腕には血管が浮き出ていて、腹筋は嫌味なほどのシックスパックだ。



 たしかにすげーわ。

 SSRレア引いちゃったよ。


 全員マッチョで、誰が後衛かわからない……。



 程なく予選が開始されて、どんどん試合が消化されていく。そして、私達の番になった。


 

 先鋒は、メイだ。

 相手は、マッチョ1号(勝手にいぶきがつけた名前)。


 マッチョ1号の剃りあげられた頭には、血管が浮き出ている。バンプアップされた腕周りなど、メイの太ももの倍はありそうだ。マッチョはメイを睨みつけると、見下すように視線を落とし、舌を出しながら中指をたてた。


 ……メイは位置についてレイピアを抜くと、冷静な面持ちで右手の肘を高くして構える。

 

 

 試合開始の笛がなった。

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