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いぶきとあかりの異世界回想録♬  作者: おもち
第三篇 首都ローゼン
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第66章 戦いの結末


 わたしは右手を差しのべる。


 あと数メートル。

 

 アビスの視線が、わたしの右手に握られた短剣に向けられた。異変に気づいたのだろう。


 アビスは左手を振り下ろすと、無数の氷槍を出現させた。数メートルはあるであろう氷槍が、わたしに雨のように降り注ぐ。


 

 『ここまでしても届かないのか』


 わたしは歯を食いしばった。


 

 「「 光壁 」」


 わたしの前に五芒星の障壁が出現した。

 障壁はわたしの右手を核として、それを取り囲む花びらのように配置されている。


 エミルの多重詠唱だ。


 『たすかる』

 

 わたしは、エミルを振り返ることなくそう思った。


 わたしは、ググッと右手をのばす。


 アビスは右手を振り下ろす。

 

 今度は、無数の真空の刃が出現した。

 そして、音もなくわたしに降り注いだ。


 わたしの両足首と左手が切断された。

 だが、わたしの勢いは衰えていない。


 アビスは、短刀を握るわたしの右手を狙って、真空の刃を振り下ろす。

 そして、ほぼ同時に半歩後ずさり、何かを詠唱しはじめる。すると、数語で呪文を完成させ、アビスの魔力が瞬間的に膨れ上がった。


 『大魔法が来る』

 わたしは本能的に察した。


 きっと、一瞬の後、このあたりは焦土と化す。


 

 その時だ。


 エミルがわたしを覆い庇うように、身体を投げ出した。一瞬、エミルの顔がこちらに向けられる。その口元はニヤリとしているようだった。


 エミルの呪文も完成していた。


 「「 極光 」」


 エミルはアビスを睨みつける。

 その脳裏には、数百年前に交わされた、弟子との会話が過っていた。この場に似つかわしくない平和な光景。


 「お師匠さま。これは、悪魔でも殺せる究極の攻撃魔法ですよ。わたし達、遂にやりましたね!! でも、自分も死んじゃうのは欠点ですね……」


 「そうだな。ソフィア」

 エミルは、今は亡き愛弟子の名前を呼ぶと、口角を上げた。


 エミルの身体は眩い光に変わる。

 その光はオーロラのように七色に変化しながら、激流となって、アビスに打ち付けられた。


 究極の魔法障壁をもつアビスをも穿うがつ、究極の一撃。

 それは、神々の金槌のような衝撃をもって、発動間際だったアビスの魔法を押し返した。

 

 そして、わたしの右手がアビスに届く。


 短剣は眩く輝き、刀身に刻まれた文字が、液体のようにアビスの体内に流れ込む。


 「ヴァァァァ」


 アビスはうめき声をあげると、のた打ち、頭を抱えて苦しみ始めた。身体中に亀裂が入り、中から光が漏れ出している。


 しかし、アビスが崩壊することは無かった。次第に原型を取り戻すと、相貌そうぼうがわからぬその瞳で、わたしを覗き込んだ。


 『浅かったか。しかし、これでアビスはしばらく足止めできるだろう。それでいい』


 アビスが半歩さがったことにより、刺突しとつが浅かった。刃から流れ込んだウィルスは、アビスの中核システムまでは到達できず、周辺プログラムを破壊することしかできなかったのだ。


 わたしはエミルの方に視線を向ける。

 すると、彼はもう跡形も残らず崩れ去っていた。


 『ごめん、杖を渡すことはできなそうだ』


 わたしは目を閉じる。


 そして、いぶきとの幸せな時間を追想ついそうしながら、闇に飲み込まれた。

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