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いぶきとあかりの異世界回想録♬  作者: おもち
第三篇 首都ローゼン
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第65章 もう一つの戦い

 

 雷光が降り注ぐ。

 わたしが死を覚悟した瞬間。



 「「五芒星の光障壁(ペンタグラム•プロテクション)」」



 ガキンッッ!!



 わたしの目の前に、光り輝く五芒星の障壁が出現し、雷撃を受け止めた。


 「ふぅ。間に合いましたか」


 リッチ、……エミールだ。

 わたしは、いぶきの仲間を狙ったコイツを全く信用していない。


 「なぜ、お前がいる」


 「貴女には借りも返していませんし。あのとき、私がノアを殺していたら、エリカと話すことはできなかった」


 「そんな悠長に話をしている暇はない。またすぐに来るぞ」


 エミルは、わたしを一瞥いちべつする。


 「まぁ、派手にやられたもんですな。瀕死な相棒では、私が困るのです。あいにく、コレくらいしか手持ちがありませんが、飲んでください」


 エミルは、わたしに何かの小瓶を放り投げた。

 青い小瓶。聖水だ。


 わたしは、一気に飲み干す。

 すると、戦える程には傷が癒えた。


 わたしは双剣を前に構え、警戒を強める。


 エミルは上腕骨くらいの長さの杖を、肩ほどの高さに構える。そして、視線だけこちらに向けて続けた。


 「わたしもアビスは腹に据えかねているんです。あやつの流言を信じ、まんまと踊らされてしまった」


 そういうと、エミルは魔力を高め、銀髪の青年の姿になった。

 

 「最後の時くらいは人の姿で」


 エミルの杖先に紫電が渦巻く。


 「こいつは、悪魔の骨で作られた杖でね。昔、愛弟子から借り受けたんです。もし、わたしが死んだら、これをエリカに渡してもらえませんか?」


 「……わかった。わたしも生きて戻れるか分からないけれど」


 「では、いきますか」

 「あぁ」


 一瞬、視線を交わす。


 エミルは口角を上げていた。

 わたしも、自分の口元が緩んでいるのが分かった。


 「私がアビスを引きつけます。貴女は、光障壁を利用にてヤツに接近してください」


 アドレナリンが身体中を駆け巡り、自分の心拍数が上がるのが分かる。


 エミルの加勢があっても、アビスとの実力差は絶望的だ。持久戦になれば、必ず負ける。


 短期戦を挑むしかない。


 幸い、アビスはわたしたちの出方を待ってくれるようだ。あなどられたものだ。


 ならば、遠慮なくいかせてもらう。

 


 これが最後の戦い。

 自分のありったけを出す。



 わたしは双剣を広げ舞う。

 両手の剣を翼に見立て、その翼を広げるように。


 剣が銀の光を帯びる。


 わしは目を閉じ剣を上に突き上げると、腰を落とす。

 右足を後払いのように前に出すと、そのまま時計回りにまわり、双剣を目の前で交差した。


 「「ダンス•オブ•ヒューリー」」


 「「ダンス•オブ•ウォーリア」」

 

 「「ダンス•オブ•バーサク」」


 「「ダンス•オブ•ダークネス」」


 「「ダンス•オブ•サクリファイ」」


 己にできうる限りの強化スキルをかける。


 髪の毛が逆立ち、全身を血液の奔流が駆け巡るのを感じる。四肢には血管が浮き出て、今まで感じたことがない程の力がみなぎっている。


 心拍数は心臓の限界を超えて跳ね上がっている。双剣には黒炎が揺らめき、まだ何もしていないのに、全身から血液混じりの汗が吹き出す。歯を食いしばるとギリギリとした音がして、口元からも血が滴り落ちた。


 刻一刻と、自らの命が燃やされていくのを感じる。

 わたしの命が燃え尽きるまで、あと30秒もないだろう。


 アビスまでは50メートル程。

 わたしの全てを凝縮し、喉元に喰らいつくには十分な時間だ。

 

 先陣をきったのはエミルだった。


 「「五芒星の光障壁(ペンタグラム•プロテクション)」」


 わたしとアビスとの間に、不規則に十枚ほどの障壁が出現した。


 エミルは続ける。


 「「 獄炎 氷獄 」」


 すると、あたりを埋め尽くす程の火災旋風と、何万もの氷礫ひょうれきが出現した。これは、エミルが何百年もの研鑽の末に到達した、およそ人の限界ともいえる魔術の極地。


 複数の魔術を同時起動する技術。

 多重詠唱(マルチ•キャスト)だ。


 簡略詠唱より速く、事前詠唱より多彩。

 そして、平行詠唱としての性質を併せ持つ。


 エミルが、右手を羽ばたくような動きで前に出すと、その動きに合わせて、無数の氷礫が急流となって前方に射出された。


 氷礫は川のようにうねりながら激流に変わり、アビスを目指して進む。


 わたしも、双剣を飛行機の翼のように構えると、氷礫の川縁に沿って走る。


 アビスの背後に無数の黒剣が出現した。


 その中の数百本かが分離され、地を這うような軌道でわたしの右側面から刃を突き立てる。


 わたしは、自分が一枚目の障壁の影になるように走る。光の障壁はガラスが砕けるような音を発しながら、間一髪で剣撃を防いでくれた。


 アビスが左手を上げると、雷槍が招来された。雷槍は轟音を従え、わたしに真っ直ぐに飛んでくる。


 わたしは左剣で光障壁を薙ぎ払うと、身体を時計回りに反転させ、紙一重で雷槍をわす。


 急激なストップ•アンド•ゴーにより、左足首が悲鳴をあげる。そして、足首が砕けるような鈍い音が体の中に響き渡った。


 その刹那、ほんの十数センチのところを雷槍が通過した。毛先と胸の辺りが焦げ、鼻腔の中も焼けたか。鼻先に肉が焼けただれたような臭いが立ち込める。


 しかし、足を止めることはできない。


 今度は、飛び石のように光の障壁の陰を経由しながら前へ前へと駆ける。


 アビスは不死者の群れを召喚し、わたしに差し向けるが、その度に、エミルが獄炎、氷獄で敵を飲み込み、道を切りひらいてくれた。



 わたしは、最後の光障壁まで到達した。

 アビスはもう目の前だ。


 エミルもこちらに駆けながら攻撃魔法を繰り出す。際限なくわたしに群がる敵を、その都度、薙ぎ払ってくれているが、顔面は青白く、黒紫の唇は震えている。魔力の限界が近いようだ。


 わたしは両足首が砕け、左肘下の尺骨も折れてしまった。左手は握力がほとんど失われ、痙攣している。



 ……これが最後だ。


 自分の全てを燃やし尽くせ。



 「「ダンス•オブ•バーサク」」


 わたしは限界を超えて狂気を上乗せする。


 身体中にアドレナリンが駆け巡り、痛みが力に変わっていく。


 わたしの命は、あと数秒で燃え尽きるだろう。


 わたしは双剣を捨てると、右手で後腰に差していた短剣を抜いた。


 刃には無数の英字が刻まれており、呼吸をするように青白い光が明滅している。


 これはAIを破壊するウィルスだ。

 これを突き刺すことができれば、アビス殺すことができる。


 わたしは刃先をアビスに向け、右肘を上にして構えると、既に壊れている両足首と右腕に全ての力を集める。


 そして、光障壁から出るのと同時に、前傾になって踏み込んだ。


 メキメキッ。


 鈍い音を発し、両方の大腿骨に亀裂が入る。

 わたしは、剣先をアビスの喉元に向けると、そのまま全力で跳躍した。

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