第62章 ノアは騎士だったらしい
妖精の渓谷。
エリカ達がいる水辺の反対側では、ノアといぶき、アイラが訓練をしていた。
それぞれの課題を洗い出す。
いぶきは、ノアのクラスシンボルに目を落とす。
「ノア。今更だけど、あなたのクラスって剣士なんだよね?」
「ん、あ、いや? 俺は騎士だぞ?」
「え?」
ノアはおもむろに盾の形をしたクラスシンボルを握る。
「騎士は王の盾で、防御に特化していると書いてある」
「スキルは?」
「スタンとヘイトって書いてある」
「どっちも使ったことなくない?」
「だって、俺、盾もってないし。スタンには盾が必要らしいぞ?」
そうか。
この人は、細かい事には、とことん無頓着なのだった。
「なんで盾もってないの?」
「いや、重いし。俺、現実世界でやってたの剣道だからさ。盾って邪魔くさいんだよな」
はぁー……。
どおりで、いまいちパッとしなかった訳だ。
この人、正直なところ、いままであんまり活躍してないものね。
ってことは、まずは装備か。
ノアは……、盾を持ってきている訳はないね。
エルフの里に一旦戻り、盾を借りることにした。長老に相談すると、命の恩人だからといって、快く立派な盾を準備してくれた。
縁に蔦のような柄が入った大楯だ。
裏側には宝石があしらわれている。
すごく軽い。これはミスリルかな。
きっと随分と高価な代物だぞ。
訓練で借りるだけのつもりだったのだが、長老はノアにずっと使っていいと言ってくれた。
なんでも、エルフには軽装備が好まれるので、大楯を使う者がほとんどいないそうなのだ。なので、お言葉に甘えることにした。
渓谷に戻って、訓練を再開する。
いぶきとアイラでは、盾が無くてもノアにダメージを与える事ができなそうなので、あかりとメイ、エリカにも声をかける。
『ごめんね、みんな』
メイはノアをみると頬を赤めている。
「ノアさま。かっこいいです……!」
この人、大丈夫かな?
本気で攻撃してくれなそうなんですけれど。
では、訓練開始!
あかりとメイは武器を構え、ノアに近づく。
エリカは、杖先をノアの方に向けている。
あかりは短刀に帝釈天の雷を付与する。
メイもレイピアに風魔法を付与している。
あかりは身を低く屈め、地を這うような軌道でノアに飛びかかる。メイはノアに向かって駆け始めると「兎の輪舞(ラビット•ステップ)」で急加速した。
エリカは、アイス•ランスで円錐形の氷塊をノアに飛ばす。
三位一体の連撃。
ちょっと本気すぎるような?
あれ、私ならきっと死んじゃうヤツだ。
ノアは、大楯の下辺の先端を地面に刺すと、左肩を入れ身体全体を盾に隠すように構える。
そして、両脚に力を入れ、前のめりになる。
3人の攻撃が大楯と衝突する。
鈍い金属音が辺りに鳴り響いた。
直後、ノアが左肩を起点にしてタックルのように盾を一気に押し出す。
スタンだ。
あかりとメイは、不意に盾撃をうけ、目眩でたじろいだ。
「そこまで!」
いぶきは中断の号令をする。
スタンは思ったより有効そうだ。
今度は、いぶきについて洗い出しをする。
まぁ、これは言わずもがなだった。
攻撃力がないことだ。
でも、神官だからね。
仕方ない気はする。
ノアは不思議そうな顔をする。
「なぁ、いぶき。その猫、お前の使い魔だろ。攻撃とかできないの?」
すると、おもちは激怒してノアに噛み付いた。
「いてぇよ。わーった。大精霊様、あなた様は攻撃してくれないのですか?」
するとおもちは、アクビをすると後ろ足で頭を掻きながら答える。
「我はいぶきと対等の関係だ。そんな面倒なことはせぬわ」
いぶきは心の中でつっこむ。
『精霊契約で私の刃になってくれるって言ってたじゃん……』
そんないぶきの心中を察したのか、おもちは続ける。
「まぁ、氷の精霊力なら貸してやらんでもないぞ?」
そして、おもちは、軽快なステップでいぶきに駆け寄ると、耳打ちした。
「ほうほう。なるほど……」
いぶきは何かを教えてもらったらしく、頷いている。
「ノア、剣を上に掲げて」
ノアが言われた通りにすると、いぶきは、ノアの右手に手を添え詠唱を始めた。
「「氷を統べる精霊の王よ。凍てつく刃となりて、敵を討て。精霊氷剣(スピリット•コールド•ブレード)」」
すると、ノアの剣は、強烈な冷気を纏った。
試しに、枝葉に剣をかざすと、その周囲の葉は、凍てつきガラス細工のように粉々になった。
ノアは口笛を吹く。
「これはすごいな」
いぶきは満足そうにしている。
戦闘の役にたてることが、よっぽど嬉しいのだろう。
さて、訓練も終盤だ。
いぶきは全員を集めると、チームでの模擬戦を提案した。
組み合わせは、メイとエリカ、ノアといぶきだ。
それぞれが位置につき、構えた。




