第61章 エリカ•フォーゲル
エリカとあかりは、向かい合って礼をする。
エリカは心配そうに言う。
「わたしが、攻撃しても大丈夫?」
あかりは明るい表情で。
「大丈夫! わたしもそれなりに腕には自信があるの。それに、いぶきちゃんももいるしね。思いっきりきてね」
では、尋常に勝負!!
あかりは、逆手で短刀を構えると前屈みに駆ける。
一気に間合いを詰まる。
エリカは後退りしながら。
「「壱」」
「「弐」」
「「参」」
事前詠唱(プレ•キャスト)で、ファイア•アローを発動させる。
通常では考えられない連射速度だ。
光の矢が、雨が降り注ぐように、あかりに向かって射出される。
あかりは思った。
『一度見ただけで、プレ•キャストを会得している。やはりこの子は天才だ』
エリカの攻撃はこれでは終わらない。
あかりがファイア•アローに怯む間に、後ろに回り込みながら、並行詠唱でプレ•キャストを充填する。
エリカは矢継ぎ早に口ずさむ。
「「壱」」
「「弐」」
あかりは、またプレキャストかと思った。
一般的な理解として、プレキャストは速度に勝る分、複雑な術式を封入することはできない。
だから、低階梯の速射系の魔法だけを警戒しておけばいい。
あかりは確信していた。
『かわして、エリカに近接の一撃を叩き込む。それで終わりだ』
そして、あかりは蛇行しながらエリカに駆け寄る。
すると、予想外なことが起きた。
エリカがプレキャストの続きを叫んだのだ。
「「参」」
「「五芒星の氷獄(エイト•コールド•ヘルズ)!!」」
その刹那、あかりの頭上に何千という氷礫が畝りながら出現した。
五芒星の氷獄(エイト•コールド•ヘルズ)は完全詠唱であっても使える者がほとんどいない大魔法だ。
だから、その場の誰もが驚愕した。
プレ•キャストでそんな大魔法を発動できるとは、夢にも思わなかったからだ。
エリカは一度使っただけで、プレ•キャストの本質を理解し、五芒星の魔術の術式を3つに分解して、プレ•キャストに封入した。
五芒星の魔術……古典的魔法は、発動が遅い分、通常の防御魔法で対応が可能だ。だから、特効薬たる相殺詠唱(カウンター•スペル)は殆ど開発されていない。
つまり、これは、ほとんどの術者には回避不能な必殺の攻撃……。エリカが望まぬ、確実に相手を殺す魔法。
瞬時に無数の氷礫は回転しながら、鋭利に形成されていく。そして、嵐のようにあかりに降り注いだ。
エリカはハッとする。
『しまった。やりすぎてしまった』
しかし、魔法の勢いはもうとめられない。
その様子を遠目にみていたイブキは、駆け寄りながら回復の加護の簡略詠唱をはじめる。
あかりは、全魔力を注ぎ込み。雷盾を。
「「帝釈•雷盾」」
あかりの頭上に、帝釈天が宿る雷の大楯が出現した。
雷の盾は七枚あり、氷礫に向かって垂直に並んでいる。
氷礫が激しい勢いで雷盾にぶつかる。
雷の盾が次々に飲み込まれる。
その度に、ガシャン!!と、ガラスが割れるような音が響き渡る。
残り4枚。
3枚。
2枚。
1枚。
1枚を残して、あかりの雷盾は、五芒星の氷獄を受け止め切った。
そして、あかりはエリカの喉元に短剣の切先を突き立てる所作をした。
「わたしの勝ち」
あかりは、駆け寄ってきたいぶきにピースサインをした。
「いぶきちゃん、心配しすぎー」
エリカはホッとしたような、自信をなくしたような顔をする。
「わたしの負け」
あかりは答える。
「エイト•コールド•ヘルズ。つまり、八寒地獄は仏教にも似たような概念があるんだ。だから、帝釈天は強い耐性をもっていた。ただ、それだけ。わたしが防げたのは運がよかっただけだよ」
あかりは、エリカの手をとって、讃えるように天に掲げた。




