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いぶきとあかりの異世界回想録♬  作者: おもち
第三篇 首都ローゼン
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第61章 エリカ•フォーゲル

 

 エリカとあかりは、向かい合って礼をする。


 エリカは心配そうに言う。

 「わたしが、攻撃しても大丈夫?」


 あかりは明るい表情で。

 「大丈夫! わたしもそれなりに腕には自信があるの。それに、いぶきちゃんももいるしね。思いっきりきてね」


 では、尋常に勝負!!


 あかりは、逆手で短刀を構えると前屈みに駆ける。

 一気に間合いを詰まる。


 エリカは後退りしながら。


 「「壱」」


 「「弐」」

 

 「「参」」


 事前詠唱(プレ•キャスト)で、ファイア•アローを発動させる。


 通常では考えられない連射速度だ。

 光の矢が、雨が降り注ぐように、あかりに向かって射出される。


 あかりは思った。

 『一度見ただけで、プレ•キャストを会得している。やはりこの子は天才だ』


 エリカの攻撃はこれでは終わらない。


 あかりがファイア•アローに怯む間に、後ろに回り込みながら、並行詠唱でプレ•キャストを充填チャージする。


 エリカは矢継ぎ早に口ずさむ。


 「「壱」」


 「「弐」」

 

 あかりは、またプレキャストかと思った。

 

 一般的な理解として、プレキャストは速度に勝る分、複雑な術式を封入することはできない。


 だから、低階梯の速射系の魔法だけを警戒しておけばいい。


 あかりは確信していた。


 『かわして、エリカに近接の一撃を叩き込む。それで終わりだ』


 そして、あかりは蛇行しながらエリカに駆け寄る。



 すると、予想外なことが起きた。

 エリカがプレキャストの続きを叫んだのだ。


 「「参」」


 「「五芒星の氷獄(エイト•コールド•ヘルズ)!!」」


 その刹那、あかりの頭上に何千という氷礫が畝りながら出現した。



 五芒星の氷獄(エイト•コールド•ヘルズ)は完全詠唱であっても使える者がほとんどいない大魔法だ。


 だから、その場の誰もが驚愕した。

 

 プレ•キャストでそんな大魔法を発動できるとは、夢にも思わなかったからだ。


 エリカは一度使っただけで、プレ•キャストの本質を理解し、五芒星の魔術の術式を3つに分解して、プレ•キャストに封入した。


 五芒星の魔術……古典的魔法は、発動が遅い分、通常の防御魔法で対応が可能だ。だから、特効薬たる相殺詠唱(カウンター•スペル)は殆ど開発されていない。


 つまり、これは、ほとんどの術者には回避不能な必殺の攻撃……。エリカが望まぬ、確実に相手を殺す魔法。


 瞬時に無数の氷礫は回転しながら、鋭利に形成されていく。そして、嵐のようにあかりに降り注いだ。


 エリカはハッとする。

 『しまった。やりすぎてしまった』


 しかし、魔法の勢いはもうとめられない。


 

 その様子を遠目にみていたイブキは、駆け寄りながら回復の加護の簡略詠唱をはじめる。

 


 あかりは、全魔力を注ぎ込み。雷盾を。


 

 「「帝釈•雷盾」」



 あかりの頭上に、帝釈天が宿る雷の大楯が出現した。

 雷の盾は七枚あり、氷礫に向かって垂直に並んでいる。


 氷礫が激しい勢いで雷盾にぶつかる。


 雷の盾が次々に飲み込まれる。

 その度に、ガシャン!!と、ガラスが割れるような音が響き渡る。


 残り4枚。


 3枚。


 2枚。


 1枚。


 1枚を残して、あかりの雷盾は、五芒星の氷獄を受け止め切った。


 そして、あかりはエリカの喉元に短剣の切先を突き立てる所作をした。


 「わたしの勝ち」


 あかりは、駆け寄ってきたいぶきにピースサインをした。

 「いぶきちゃん、心配しすぎー」


 エリカはホッとしたような、自信をなくしたような顔をする。


 「わたしの負け」


 あかりは答える。


 「エイト•コールド•ヘルズ。つまり、八寒地獄は仏教にも似たような概念があるんだ。だから、帝釈天は強い耐性をもっていた。ただ、それだけ。わたしが防げたのは運がよかっただけだよ」

 

 あかりは、エリカの手をとって、讃えるように天に掲げた。

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