第60章 エリカとメイ
精霊の祠を出ると、あかり達が出迎えてくれた。
結局、心配すぎて皆で迎えに来てくれたらしい。
……ありがたいことだ。
いぶきは、あかりに氷の大精霊を紹介した。
「無事に終わったよ。大精霊はおもちって名付けた。あかりが飼っていたネコも同じ名前だったよね?」
すると、あかりはおもちを抱きあげる。
なんだか喜んでくれているようだ。よかった。
おもちも拒否する様子はない。
なんだか、その様子を見ていると、少しだけ胸がモヤモヤする。
『命懸けで契約したのに、あかりに懐いてる気がする……』
一同はそのままエルフの渓谷に向かう。
エルフの渓谷は、上流の峡谷の更に奥にはマザーツリーがあると言われており、精霊の加護が強い場所だ。
傷の回復も早くなるので、長老の薦めで関連をこの場所にした。現地につくと、チームに別れ、それぞれの修練を開始する。
ノアといぶき。
エリカとメイ。
あかりとアイラは、それぞれのサポートだ。
エリカとメイ、それにあかり。
問題点を把握するために、まずは、あかりとメイの模擬戦形式でトレーニングを開始した。
メイは、右手の甲を外側にし、切先をあかりの喉元に向けるようにレイピアを構える。
あかりは短刀を逆手にもつと、一気に距離を詰めた。レイピアと守り刀は間合いを制するものが勝負を制する。2人ともそれをよくわかっている。
メイは「uno!」と叫び、一気に後ろにバックステップする。そして、「due!」の声と同時に時計回りに跳躍した。
どちらも人間の可動限界を遥かに超えた速度だ。
これは、一部の魔剣士が得意とするプレキャスト(事前詠唱)の技術だった。
メイは「兎の輪舞(ラビット•ステップ)」という瞬間加速魔法を事前にスタンバイにし、設定した掛け声だけで発動するようにしていたのだ。
そして、メイは時計周りにあかりの右側面をとると、鋭い剣先で突く。
しかし、あかりはメイの方をみない。
体勢が崩れるのを嫌ったのだ。
メイの剣があかりに届く寸前。
「「雷盾」」
あかりは雷の盾を己の喉元に出現させ、メイの剣撃を受け止めた。その盾は威力をいなすように外側に傾いている。
メイは剣の勢いが止まらず、バランスを崩しす。
その瞬間、あかりは逆手に持った短刀の切先を上に向け、メイの喉元に突き立てる。
本当に突き刺しはしない。寸止めだ。
両者は互いに距離をとると、ニヤッとした。
あかりが声をかける。
「メイさん、強いなぁ。平行詠唱が得意っていうのは知ってたけれど、その事前詠唱っての? すごいね」
あかりから見ると、メイは攻守のバランスが取れている。万能型だ。学生としては、申し分ない実力だろう。
対抗戦での問題があるとすれば、エリカの方か。
エリカはその性格もあって、攻撃魔法をほとんど使わない。召喚魔法も、カエルなど無害なものしか召喚していないようだ。
しかし、他方、先のリッチとの戦いで見せた獄炎。あれは学生レベルを遥かに超えた高等魔法だ。おそらく、学内には防御できる者すらいない。
エリカは攻撃魔法を使えないのではなく、使いたくないのだ。
あかりはエリカに聞いてみることにした。
すると、エリカは自信なさそうな様子で答える。
「わたしは……、誰かを傷つけるのが怖い。獄炎。あれは人を殺すための魔法。召喚も贄が沢山必要なものは、凶暴。やはり相手を殺すための魔法」
なるほど。やはり、そういうことか。
すると、メイが話し始める。
「わたしのご先祖様はね。平民だったんだ。名前も昔はユーレアと言ったの。気が弱く、人付き合いが苦手だった。でも、魔法と出会って変わったんだって」
「そうなの?」
エリカは目を大きく見開き、少し口を開けた。
「あなたの獄炎。わたしの家にも伝わっているよ。獄炎は、元々は、蝋燭に火をつける魔法だった。ご先祖様が言うには、この2つに要求されるのは同じ力なんだって」
メイによれば、昔の魔女達は、あえて、自分たちを戒めるために、その力を蝋燭に火をつける生活魔法と定義したらしい。
メイは語りかけるように落ち着いた口調で続ける。
「……わたしは、どの魔法も生活を便利にし、人を守るために作り出されたものなんだと思う。人を殺すのは、魔法じゃなくてその使い手。誰がどう使うかが肝心なんじゃないかな」
エリカは心の中では頷いていた。頭では分かっているのだ。
だけれど、気持ちが前に動かない。まるで、碇を海底に引っ掛けてしまった船のように。
「それでね。わたしのご先祖様のファミリーネームはユーレア。エリカのご先祖様のファミリーネームはフォーゲル。ユーレアとフォーゲルは、遥か昔、ラインライト王国の時代に、共に命をかけて戦った師弟でもあり、戦友なんだよ」
メイはエリカの手を両手で握る。
その様子を見ていたあかりは、本当に悠久の時をこえて、子弟が再会しているようだと思った。
そして、メイはエリカの目を覗き込むようにして続ける。
「……だから、わたしは貴女とこうして一緒に学べることが嬉しいんだ。わたしに力を貸してくれないかな?」
エリカは、はにかむように頷く。
そして、少し嬉しそうに、握られたままの手をメイの方に向けた。
戦友という言葉が響いたらしい。
メイはエリカに一冊の本を渡す。
「これは、わたしのご先祖様が残した本。わたしには扱えないけれど、貴女には役立つと思う。しばらく、あなたに貸すよ」
それはメイの家系に先祖代々伝わる魔法書。
エリカは本をパラパラめくる。
エリカの目が輝く。知的好奇心を抑えられない。
眼球は、ページをめくる何十倍もの速度で動き、脳神経は、そのさらに何百倍もの速度で情報を伝達する。
10分ほどでエリカは本を閉じた。
「本は返す。内容は全て覚えた。これを書いた人は天才。とても面白い示唆に富んでいた。これならば、今までの何倍もの効率で魔法を制御できるかもしれない。それに、あなたとわたしのご先祖様の想いも読み取れた。わたし頑張る」
あかりは思う。
『天才が書いた本を10分で暗記できる貴女も、相当な才能だと思うけれどね』
よし、エリカは大丈夫そうだ。
メイとあかりは胸を撫で下ろした。
つぎは、あかりとエリカで模擬戦だ。




