第59章 白虎激怒する
『こいつが氷の大精霊か』
いぶきは覚悟を決めて、後ろを向いた。
白虎は巨大な猫のような姿で、9本の尻尾が畝っている。
青い目をしており、顔はやはり、虎というよりは猫に近い。ホワイトタイガーのように白にグレーの縞模様をしていた。
白虎は毛を逆立て、いぶきに牙をむいている。
「我を見るなり逃げるとは。なんとも失礼で愚かなヤツだ」
「……」
このめっちゃ怒ってる猫どうしよう。
いぶきは、現実世界(主にテレビや配信サイト)でお茶の間研究をして、謝罪について、いくつかの法則に気づいた。
まず、中途半端に謝ってはいけない。
謝るなら、初弾で全身全霊を旨とすべし。一部を否定したり小出しに謝ると、大概の場合、大炎上で焼死する。これは最悪の選択肢だ。
では、誠心誠意謝る作戦は?
いやぁ、キャットフードを三粒置いた上に逃げちゃったからね。もう無理でしょ。
すると、第三の選択肢。
どんなに責められても無視。自分を通す。
これしかない。
政治家ばりのスルースキルとタフさ。
あれがあれば、この場を乗り切れる。と思う……。
いぶきは意を決した。
ここで犬死する訳にはいかないのだ。
「あのう。氷の大精霊様ですか?」
白虎は更にイライラしている。
「逃げておいて、笑止千万」
「いえ、お腹が痛くなって、胃薬を取りに帰ろうと思っただけですよ。あと、通販の宅配便も届く時間でしたので……」
「貴様……」
白虎は、牙を剥いた口を、いぶきの鼻先まで近づける。
クンクン……。
いぶきの首周りの匂いを嗅ぎ、動きを止めた。
「そのネックレスは?」
これは……、壊れたペンダントの代わりにと、あかりがプレゼントしてくれたものだ。
白と黒の縞模様のネコのヘッド。
尻尾にはサファイアのような青い宝石が入っている。
「これは、形代か。そなたを護るために魂が分け入れられている」
なにそれ、怖いんですけど。
そんなホラーなものを持たされていたのか!!
「これは、私の親友からもらったものなんです」
「ふむ。ウルズにも随分と気に入られているようだな。……話しくらいは聞いてやろう。ウルズの神官よ」
チャンスだ。
ウルトラムーンサルト土下座したら、許してくれるだろうか。
だけれど、ここは……。
「大精霊様。私はアビスをどうにかしたいのです。私は魔法が使えません。なので貴方様の力を貸してはもらえないでしょうか?」
白虎は、いぶきのネックレスに視線を落としながら話す。
「なぜ、アビスを倒したいのだ? 金や名誉が欲しいのか? 非力なお前がせずとも、他の者がなしとげてくれるやもしれぬ。……中にはアビスからの解放を望まぬ者もおるかもしれんぞ?」
「これは、私がやらねばならないことなのです。名誉などは関係はありません。私の責任であり使命なのです(運営チームの一員だからね。あとで職務懈怠で責任追及とか困るし)」
白虎は、今度はいぶきの瞳をじっと見る。
「ふむ、さっきから嘘ばかりだが、これは本心か……」
「はい(訴えられたくないのは本心です)」
「よかろう。ウルズの望みでもあるようだしな」
『やった!! 戦わないで済んだ。たまぼただ』
「精霊との契約の仕方は知っているか? よし、やるがよい」
『精霊との契約方法は知っている。長老に教えてもらった。んー、名前か。どうしようかな』
猫型ペンダントの裏の刻印を見ると、あかりの現実世界で飼っていた猫の名前が書いてあった。
これにしよう。
いぶきは契約の宣誓を始める。
「五素を司りし自然の王よ。我が求めに応じ給え。汝の名は『おもち』。我に従い、そして我が運命をも統べよ。我が刃となりて、敵を打ち破れ。精霊契約」
白虎が何か言っている。
「おもち? 我は氷を統べる大精霊なのだ。もっと他の……、ちょ、ちょっと」
白虎の周りに葉を束ねたような刻印が浮かぶ。
無慈悲にも『おもち』との命名が受領されたようだ。
大精霊は光の塊となり、姿を再構成させる。
「にゃー」
白虎は小さなネコの姿になった。
白に黒の縞模様。
白虎というよりラグドールだね、これは。
いぶきは「よろしくな」というと、
おもちの前にキャットフードを数粒置いてみる。
痛っ!!!!
おもちに思いっきり噛まれた。
指から血がダラダラと流れ落ちる。
そして、おもちは話した。猫の外見になっても話せるようだ。
「調子に乗るな、ウルズの使徒よ。我と汝は、あくまで対等な契約関係なのだ。くれぐれも勘違いせぬように」
「は、はい。わかりました……すみません」
いぶきと白虎は祠を出る。




