第56章 エルフの長老を守れ
その日の夕食は、里をあげての宴をしてくれた。
大きな葉(天狗の葉団扇かな?)に、数々の料理が並ぶ。
野菜中心の料理が多いが、いぶき達にも配慮してくれ、肉料理もある。
一口食べてみると、初めての味で美味しい。
何のお肉か気になるが、エルフは肉食の習慣がないらしいので、怖くて聞けない。
……うん、知らない方がいいことってあると思う。
宴もたけなわになる頃、いぶきはノアに呼び出されて外にでる。
ユルタのようなシダや枝を積み上げた丸いテントを背にして、2人は夕暮れ時の森を見下ろしながら話す。
ノアはいぶきの方を見る。
「なぁ、お前、テスターだろ?」
「うん」
「おれもなんだよ。父上、いや、王は、テスターと現地人で協力してアビスに対抗すべきだと考えている。ただこの考えには、皆が賛成してくれている訳じゃなくてな。保守派の貴族のほとんどは反対派なんだ。
だから、憂国騎士団にも付け狙われることになった。この前は迷惑かけて悪かったな。詳しくは王との謁見の際に説明されるとは思うが、お前らも協力してくれないか?」
「難しいかも。詳しい事情は話せないけれど、アビスは、手に負えなくなる前に倒さないといけない。だから、あまり時間がないんだ。私とあかりは、謁見が終わったら南西を目指して旅をするつもりだよ」
「そうか。こっちもルンデンだけの話しではないからな。おれは王の名代として、各地をまわり、テスターと現地人を取りまとめるようと思っている。お前らが旅をするなら、丁度いい。同行できないだろうか?」
「……考えておく」
きっと、いまの話は本心なのだろう。
ならば、大筋においては同じベクトルだし、露払いにもなるので、男性の前衛職がいてくれると助かる。
ノアなら寝込みを襲われる心配もなさそうだ。
信頼できるし、断る理由はないハズだ。
……でも……。
夕焼けに照らされるノアの顔は、凛々しく、そして、誇り高く見える。
見ていると、頼もしくて少しドキドキする。
いぶきは、はっとした。
そして、今の気持ちを拭き消すように頭を振る。
身体の性別に精神が引っ張られているのかな。
これは……。
男からみても惚れ惚れする、ってやつに違いない。
同性の先輩に対する憧れみたいなもんだ。
そうだよね?
……そうであって!!
いぶきが自問自答していると、ノアが不思議そうな顔をする。
いぶきは、空気感を変えたくて、憎まれ口のような声のトーンになる。
「……考えておく。まぁ、でも、ノアがいてもあまり役に立たなそうだけれどね〜」
「それ言われると、俺も弱いわ」
ノアが頭を掻こうと、腕を振り上げたちょうどその時。
ドンッ。
地上で爆発音がした。
いぶきは身を乗り出して、地上を覗き込む。
「これは……。煙でよく見えないけれど、長老の家の近くで何かあったみたい」
いぶきとノアは、長老の家の方へ急ぐ。
腕力があるノアは蔓を持って、滑るように下りる。
いぶきは、遠回りをして階段から降りた。
ノアは叫んだ。
「長老を守るんだ! もし長老に何かあったら、テスターのせいにされかねないぞ!」
「彼方……より来たり……て、……此方へ過ぎ去りし……」
いぶきは、息を切らしながら、加護の詠唱を始める。
幸い、長老には会ったことがあるから、詠唱に必要なイメージが構築出来る。
ノアはひと足先に長老の家につく。
すると、ダークエルフが、左手で長老の襟を掴み上げ、右手のダガーで喉を突き刺す寸前であった。
長老は左肩から大量の出血をしている。
ノアは今は帯刀していない。
そのため、ショルダータックルのような体勢でダークエルフを突き飛ばした。
突き飛ばされたダークエルフは、すぐにノアにターゲットを変えた。
ノアとダークエルフは掴み合いになる。
すると、どこからともなく新たのダークエルフが現れ、長老に止めを刺そうとする。
ノアは目の前の敵で精一杯で、そちらまで手が回らない。
いぶきは、まだはるか彼方だ。
絶体絶命
ダークエルフは勝利を確信したのか、ニヤリとするとダガーを長老に振り下ろす。
バチンッ!!
その瞬間、ダークエルフと長老の間に雷の盾が割り込む。ダークエルフは金属のダガーから感電し、後方に吹き飛ぶ。
あかりだ。
そのまま、あかりとダークエルフは戦闘になる。ダガーと守刀の闘い。一瞬の油断が致命傷になる殺し合いだ。
長老の目の前には、新手のダークエルフが地面から這い出すように上半身を現した。
ノアもあかりも何もできない。
いぶきは、まだ遠い。
メイはまだ見える範囲には居ない。
あかりが叫ぶ。
「そいつらは影から出てくる! 影を消さないとダメ!」
新手のダークエルフは(身体の半分はまだ影の中だが)動き出した。
そして、右手に握ったダガーを長老の胸に振り下ろした。




