第55章 エルフの里
一同はアガーテの案内でエルフの里を目指す。
エルフの里は、木霊の森を越えて、しばらく行ったところにある。
木霊の森は、森の精の悪戯で道を惑わされてしまうと言い伝えがあり、好んで入る者はいない。
今回はアガーテがいるので難なく通過できそうだが、もし、ノアがアガーテを許していなかったら……。
もし、そこまで考えてノアがアガーテを許したとしたら、案外、抜け目のない男なのかもしれない。
いぶきはそう思いながら、美しい森の景色に見入っている。
あかりはノアをからかっている。
「リッチの時、ノアさん何かしてましたっけ?」
ノアは気まずそうに。
「……座ってました。すんません!!」
「ふーん。わたし達、痛かったよね〜」
アイラとエリカが頷く。
「オ、オレも痛かったよ? 手縛られてたし」
あかりはメモをとる仕草をする。
「ノアさんは、縛られるのが大好きな変態さんと……」
「フハハ。私はそういうのが大好きな変態さんなのだ。可愛い子は食べてしまうぞ〜、ゲヘヘ」
あかり、アイラとエリカは、本気で引いている。
一方、メイは……、満更でもない様子だ。
ノアは、自爆していることに気づいたらしい。
露骨に話題を変える。
「そういえば、前から思ってたんだけれど、いぶきとあかりっていつから一緒にいるの?」
こういう時に他の者を巻き込もうとするのは、一種の生存本能なのだろう。
観客を決め込んでいたのに。
いぶきも、巻き込まれるらしい。
あかりは、なんの逡巡もなく答える。
「わたしたち? アビスが出てきた時からだよ。あの日、いぶきちゃんがうさぎに殺されそうになってたのを助けたの」
「ちょっと……」いぶきは止めようとするがもう遅い。
ノアは、あれっ?という顔をした。
そして、御者台までは聞こえないくらいの小声になる。
「アビスが出てきた時って。もしかして、2人ともテスター??」
今更、否定することの方が不自然だ。いぶきは「そうだよ」と答える。
「やっぱり、なんかそうなんじゃないかと思ったんだよ。あ、でも、できるだけ、内緒にした方がいいぜ?」
自分で聞いておいて、何を言ってるんだこの人は。
いぶきは『あれっ?、もしかして?』と思う。
「ノアもそうなの?」
「ここだけの話だけどな。そうだよ」
ノアは、アイラ、エリカ、メイに目くばせする。
アイラとエリカはノアの意図を察したようで頷いた。
メイは、何を勘違いしたのか、頬を赤らめている。
まぁ、分かってなかったとしても、ノアに嫌われるようなことはしないだろう。
ノアもこの場では、これ以上は話したくなさそうだ。
このことについては、改めて話をする必要があるのかな、といぶきは思った。
それから程なくエルフの里に着いた。
里の入り口までは切り立った峡谷で隔てられており、植物の蔓で作った吊り橋がかかっている。
いぶきは下を覗いてみたが、谷はかなり深い。遥か下の方からは、きっと清流であろうせせらぎが聞こえた。
いぶきは「前に社員旅行で登った山に似てるなぁ」と思った。もしかすると、植物の分布が日本と似ているのかも知れない。
吊り橋の入り口近くで馬車をとめ、アガーテが先に村に入っていく。
エルフ族はテスター融和派ではあるが、もともと排他的な種族なのだ。
一族の者の紹介しなければ、まず村に入ることはできない。
もしかすると、このまま帰れと言われる可能性すらあった。
しばらくしてアガーテが戻ってきて、吊り橋の先で手招きしている。
どうやら、長老へのお目通りが許されたようだ。
一行は吊り橋を渡って村に入る。
里に入ると、(当たり前だが)里の人は皆エルフだった。もっと白い目でみられるのかと思ったが、笑顔で手を振ってくれる人や駆け寄ってくる子供もいて、思いの外、好意的に受け入れてくれているようだ。
アガーテの誘導で村の中程まで入っていく。
すると、目線の高さにある家が少ないことに気づいた。
大半の住居は、クリスマスツリーの飾りのように、大樹の幹を利用して高い位置にぶら下がっている。
見上げると、それぞれの住戸から蔓が垂れ下がっている。階層的で幻想的な光景だった。
長老の家は、里の中心部の低い切株の上に建っていた。他の住居と同じくらいの大きさで、とりわけ豪華だったりはせず、他と同じような造りだった。
10段ほどの階段を登ると、簡単な扉がある。
扉を開けると、長老と思われる男性エルフと両脇には若い女性エルフが2人いた。
長老も若すぎてコスプレみたいだ。
人間で言えば、30代くらいに見えてしまう。
長老が口を開いた。
「アガーテが世話になった。そなた達を里をあげて歓迎する。ノア王子。父上からテスターと現地人の仲立ちの話は聞いている。我々エルフも、考えは同じだ」
そして、長老はいぶきの方を向き直す。
「ウルズの神官か。どれどれ……。ウルズから厚い加護を受けているな。世間ではウルズの事を悪くいう者も多いが、我々エルフは、ウルズを敬愛しているのだ。我々の根源であるマザーツリーはな……。
世界樹、つまり、そなたの主神が守るユグドラシルと同じものなのだ。そういう意味では、ウルズは我々を守ってくれているとも言えるのだよ。その恩に報いるためにも、我々はウルズの神官を敬愛しておる。精霊たちもだぞ。精霊の存在を感じたことはないか?」
いぶきは顔を横に振る。
すると、アイラが話に参加してきた。
「わたし、いぶきさんが、精霊に囲まれているのを見たことあります! 一番最初に会った時、メイに追われてたわたしを助けてくれたじゃない? あの時、精霊たちが集まってたよ」
「ほう、既に精霊と同調しているとはな。神官よ。そなたには精霊は見えていないのか?」
いぶきは顔を横に振る。話の中心にいるはずなのに、疎外感が半端ない。
「まぁ、見えずとも、コツをつかめば自由に精霊と同調することができるようになる。精霊に好かれているのに、頼らないのはもったいないことだ。
……皆、今回は我が同胞を助けてくれて本当に感謝する。もちろん、訓練中は、この里に滞在してもらって構わない。それと、神官よ。そなたは、変なものを里の者に売りつけないようにな」
『こいつ、本当にウルズを敬愛しているのか』いぶきは心の中で突っ込む。
だが、里の滞在を許してくれたのは助かる。
「さて、あとはアガーテに、それぞれの部屋に案内させる。神官よ。そなたは、明日からの訓練で、精霊の祠に行くように」
「祠には何があるんですか?」
「決まっている。大精霊がいる」
……決まっていないし、大精霊とか初耳なんですけれど。
「大精霊って、強いんですか?」
「強いに決まっている。四神獣ともいわれるくらいだからな」
……こいつ、決まってる星人か?
「私、ウサギも倒せないんですけれど。死にに行くんですか?」
「ええい、うるさい。つべこべ言わずに行ってこい!」
……寿命長いくせに短気だな。
明日から本格的な訓練が始まる。反抗も虚しく、いぶきは祠にいくことになってしまった。




