第54章 再会3
「エリザベート‥‥?」
リッチは、エリカの顔を見ると、かすれるような声を出した。
そのトーンは、他者を見下すような高圧的な話し方とはまるで違う。
誰かと間違えたのだろうか。
相手を労るような口調でさらに続ける。
「お前の名前は‥‥?」
エリカは、顔を強ばらせて答えた。
「わたしの名前は、エリカ・フォール。エリザベートじゃない‥‥」
リッチはエリカの返答を理解していないのだろうか。
あたかも相手に肯定されたように、嬉しそうに話し続ける。
「そうか。フォール。フォーゲル。我が一族は『g』の栄光を失ったが、続いていたのだな」
「フォーゲル? わたしはフォール。あなたの言っている意味が分からない」
「答える必要はない。その顔を見ればわかる。それに私とソフィアだけが得意としていた其方の獄炎。私が初代のフォーゲルの姓だ。残っているとしたら、我が娘の血を引き継いでいるのは明らかだ。そうか娘は生き延びたのか‥‥」
そこまで話すと、リッチは何かを呟く。
すると、リッチの姿が人間の男性に変わった。
銀髪に長髪のその姿は、どことなくエリカに似ていて、とても優しそうに見える。
その整った顔をくしゃくしゃにして微笑む。
「エリザベート。また再会できて嬉しいよ」
リッチ、いや、エミルは、一同を見渡せる位置まで下がると、引き締まった顔になる。
「フォーゲル、ユーレア、ウルグ。三者が揃っているね。私の時代には叶わなかったが。皮肉だな」
今度は、エミルはいぶきの方を見つめる。
「ふむ‥‥。それぞれの血が異世界人を支えているのか。私は勘違いしていたのかもしれない。いや、わかってはいたのだ。だけれど‥‥」
エミルは手をかざすと、またリッチの姿に戻った。
「とはいえ、過ちは贖わなければならないな。私は己のすべきことをするとしよう。最後に、ウルズの神官よ。運命の審判を手に入れるのだ。必ず、そなたの大切な人を守るために必要となる。私と同じ過ちを繰り返さないためにも」
そう言い残すと、リッチは霧が散るように消えるのだった。
リッチの気配がなくなると、一同は安堵してその場にへたり込んだ。
(ノアは相変わらず縛り付けられたままだったが)
しかし、のんびりはしていられない。
次の追手が来るかもしれないのだ。
6人は、その場を後にする。
いぶき達が捉えられていたのは、洞穴を改造して作られた牢獄だった。
地上に出ると、アガーテが待っていた。
その傍らには、アガーテの腰ほどの背丈の少女が寄り添っている。
‥‥妹だろうか。
アガーテは、ノア達に気づくと跪く。
「ノア様。申し訳ありません。どんな事情があっても許されるとは思っていません。ですが、せめてこの子だけは。お情けを‥‥」
ノアはその様子を見ていられないとでも言わんばかりに、頭をかいてバツが悪そうにする。
ノアがテスターとして覚醒した時、右も左もわからない状況だった。
それこそ、両親の名前さえも。
しかし、アガーテはそれを察したのか、献身的に尽くしてくれた。
ノアの王族としての振る舞いの大半は、アガーテから教わったものなのだ。
そんな彼女が、ノア達を裏切った。
きっと、相当な理由があるに決まってる。
だから、許すも何もない。ノアはたったの一言。
「いいよ。それで、お前の心配ごとは解決したのか?」
アガーテは泣きながらひたすら頭を垂れるのだった。
いぶきはその様子を見ていて思う。
『ルンデン王がノアを重用するのは、単に利用価値があるだけではなく、この人柄を信頼しているからなんだろうな』
後から聞いた話だと、やはりアガーテは妹を人質にされていたらしい。
それで仕方なく誘拐の手引きをしたとのことだった。
アガーテの話では、人間以外もテスターやアビスについての対応で意見が割れているとのことだった。
ダークエルフは強硬派であり、そのため憂国騎士団とも結びついたものと思われる。
一同はアガーテを再び信じることにした。
荷馬車に乗りこむと、まずはエルフの里を目指すのだった。




