第53章 再会2
銀髪の少女の背後から、数名の足音がする。
いぶき達が牢を出て追いついてきたのだ。
扉を通ると、いぶきは周りを見回す。
ノアが怪我をしていて、銀髪の少女がリッチに対峙している。
リッチと少女は敵対しているのだろうか。
そんなことを考えていると、少女は後退りして、言葉を発した。
「お前達が来たのなら、わたしの役目は終わった。わたしは帰る」
いぶきは思わず聞き返してしまった。
「え。この状態で放置するの?」
銀髪の少女は無表情に返す。
「そうだ。わたしは忙しい」
そういうと、少女は本当に帰り支度を始める。
いぶきは、こいつはあてにならない、と思い、リッチをどう抑えるか考える。
あかりやメイも同じ気持ちらしく、それぞれが臨戦体制になっている。
そんな中、銀髪の少女は、普通に出て行った。
マイペース過ぎる。
リッチは、こちらをみる。
「あの時のウルズの神官か。異世界人ならお前も同罪だ。遊ぶ気はない。ここで死ね」
リッチの魔力が高まり、攻撃呪文を唱える。
「「五芒星の氷獄(エイト•コールド•ヘルズ)」」
氷獄から召喚された何十万個という氷礫が、うねりとなる。その圧倒的な濁流は、いぶき達を飲み込もうとする。
エリカが叫ぶ。
「氷の礫は、わたしが何とかするから。何秒か稼いで」
それを聞いたあかりとメイは、互いに弧を描くように駆け、左右からリッチに飛びかかった。
あかりは逆手に持った小刀で右側からリッチの首元を。
メイは細身のレイピアで、左下側から逆袈裟斬りで仕掛ける。
リッチは、両腕のくるぶしのあたりの骨で、それらを難なく受け止める。
しかし、あかりとメイに気を取られ、氷礫の制御が一瞬遅れた。
エリカは柄にもなく前に出ると、両足を肩幅ほどに開き、両手を添えるように小さな杖を構えて詠唱をはじめる。
「「奈落を統べる冥王よ‥‥」」
すると、リッチの手がビクッと止まり、ゆっくりとエリカの方を向く。
次の瞬間、リッチはエリカの目の前に移動していた。
物理法則を無視した速度だった。
いぶき達は誰も反応できない。
仄暗い瞳で、エリカの顔を覗き込んでいる。
エリカは、リッチの思わぬ行動にどうしていいか分からない。しかし、詠唱をやめるわけには行かない。
「「‥‥その断罪をもって。誇り高き黒炎を我がもとへ。五芒星の獄炎」」
すると、リッチの足元に魔法陣が浮び上がり、火災旋風のような炎が立ち上がる。
旋風は酸素を取り込み、加速度的に勢いを増していく。
黒炎が飽和して弾ける寸前。
リッチが指を鳴らす。
すると、弾ける寸前だったエリカの炎は、蝋燭を吹き消すようにフッと消えてしまった。
術者のエリカには何が起きたか瞬時に理解できてしまう。魔法の相殺だ。しかも、氷礫を維持しながらの相殺。自己とリッチに圧倒的な力量差があることの証左だった。
————殺される。
しかし、リッチは何もしてこない。
それどころか、悠長な口調で。
「五芒星の魔法か。随分と懐かしいものを使う。それをどこで覚えた?」
そして、さらにエリカの近くに移動する。
今度は、しゃがみ込む体勢で。
猫耳フードで隠れているエリカの顔を、さらに下から覗き込んでいた。
今日の昼くらいから、新規でスピンオフ的な作品を投稿する予定です。
ルンデン王国ができる前の時代のお話です。主人公ではありませんが、まだ人間だった頃のエミルも出てきます。そちらもお楽しみいただけますと嬉しいです。




