第51章 再会
エリカは小さな声で叫ぶ。
「従魔カエル号、ゴー!」
ケロケロ。
カエルはのんびり動き出し、鉄格子の隙間を難なくすり抜け牢の外にでた。
外に出て、通路を真っ直ぐ進む。
他にも牢があるが、空のようだった。
カエルの足で5分ほど歩いた頃、カエルは人に遭遇した。
エリカが報告する。
「カエル号、人に遭遇。白い髪の毛の人間の女。2本の剣を持っている。顔はボケていてよく見えない」
カエルを通しての視界なので、カエルの視力に大きく影響されるようだった。
だが、さっきの情報で充分だ。
すごい偶然だが、彼女はドラゴンの時の双剣の少女だと思う。
得体は知れないが、とりあえず敵ではないと思われる。
何をしにここに来ているのかは分からないが、なんとか少女に窮地を知らせたい。
いぶきはエリカに指示をする。
「カエルの両手を挙げて、交差させてみて」
カエル号は指示通りに動く。
すると、銀髪の少女もカエルに気づいたようだった。
彼女はしゃがみ込み怪訝そうな顔をする。
「お前は何だ? それはわたしの剣の真似か? つぶすか?」
カエル号は手をバッテンにして、拒否の意を表明する。
そして、そのまま手信号の要領で、少女を誘導した。
少女は意外にも素直についてくる。
程なくして、いぶき達の牢屋の前まで来た。
「お前たちは、そこから出たいのか?」
皆で全力で頷く。
「そうか。ちょっと待っていろ」
数分すると、少女はどこからか、いぶき達の武器を持って帰ってきた。
そして、鉄格子の隙間から投げ入れる。
「よかったな。では、わたしは行く」
そう言い残すと、さっさと居なくなってしまった。
唖然としてしまう4人。
『あの‥‥。まだ手が縛られているんですけれど』
その頃、ノアは別の部屋にいた。
手足を縛られ、椅子にくくり付けられている。
肩口を剣で切り裂かれ、大量の出血をしていた。
このままでは、いずれ死ぬだろう。
激痛と死の恐怖。
遠のく意識に鞭を打ち、ノアはかろうじて正気を保っていた。
目の前には、見たことがあるローブの骸骨が立っている。
その名は、エミル・フォーゲル。アンデットの上位種のリッチだ。
ノアは顔を挙げてエミルを睨みつける。
「だから何度も言ってるだろう。断固、拒否だ」
そう。今回の騒動も【憂国騎士団】絡みなのだ。
その要求は、前回と同じく、ルンデン王国がテスターとの融和策を取りやめることだった。
だから、ノアの答えは聞く前から決まっていた。
たとえ殺されようとも、この信念を変えるつもりはない。
それにしても、なぜ、リッチは憂国騎士団に加担しているのだろう。
前も思ったが、リッチは脆弱な人族やエルフたちの言いなりになるような存在ではない。
魔族ですら、思い通りに支配するのは難しいだろう。
だとすれば、リッチは己の意思で参加している事になる。
何故だ。生前の遺恨で参加しているとでもいうのか。
それに、憂国騎士団。ただの不満分子のアホ貴族どもではないのか。
ダークエルフが一枚噛んでいることを考えると、思っている以上に巨大な組織なのかも知れない。
ノアがそんなことを考えていると、
エミルは生気の感じられない声で呟いた。
「そうか。残念だ‥‥。まあ、お前の選択にかかわらず、異世界人であるお前を生かしておくつもりはない」
そういうとエミルは、死を纏う右掌を開き、ノアの魂を吸おうとする。
ノアは歯を食いしばり覚悟を決める。
その時、部屋の扉が蹴り開けられた。
そして、双剣を構える銀髪の少女が飛び込んできた。
少女はリッチ並みに抑揚のない声でノアに話しかける。
「お前はまだ死んではいけない」
そして、少女は双剣を前で交差させると、リッチとの距離を一気に縮め、囁く。
「「ダンス・オブ・バーサク」」
少女の肩下ほどの銀髪が逆立ち、瞳が真紅に染まる。
自分の体の中に『ドクンドクン』という濁流音が響き、四肢に一気に大量の血液が流れ込むのがわかる。
心臓にかかる過剰な負荷を感じながら、少女はリッチに渾身の右剣を振り下ろした。
リッチはノアに差し出した手を止め、思いの外、ゆっくりとした動作で少女の剣撃を受け止める。
ガキン、といった鈍い金属音が響き、刃の際から火花が飛び散る。
少女は右剣が弾かれる力を利用し、そのまま逆回転になると、胸元を開くことで、さらに勢いをつけて左剣をリッチの右腰のあたりに打ち込む。
リッチは右腕を下げて、上腕骨で少女の剣をいなす。
そして、左手の平を少女の方に向けると、口早に唱える。
「「奈落を統べる冥王よ‥‥、五芒星の獄炎」」
禍々しい獄炎が、巨大な火災旋風のように荒れ狂い、少女の足元から吹き上がる。
「「ダンス•オブ•ヒューリー」」
少女はそう囁くと、残滓が残るほどの速さでバックステップし、獄炎を紙一重で躱わす。
少女は呟いた。
「化け物め」
ノアからしたら、銀髪の少女も人外の強さだ。その彼女から見ても、化け物とは。それだけの実力差があるということだろう。
ノアには戦いの行末を見守ることしかできなかった。




