第48章 精霊の谷
いぶきは腕を組んで偉そうに立っている。
「エリカは参加してくれそうだよ」
その旨、ノアに報告する。
ノアは大袈裟にビックリしてみた。
「すげーな。どうやって説得したの?」
いぶきも大袈裟に祈りのポーズを作る。
「女神ウルズのお導きですよ。迷える子羊的なアナタも、ウルズ教に興味が湧いてきましたか……?」
メイが割って入る。
「いぶきさん。あのうずらの卵からヒヨコが出るのすごかったですね。どうやるんですか?」
ノアはため息をついた。
「はぁ? なんだ手品かよ。この詐欺師教団め」
ノアは何故か手品を知っている。
他の人たちと違ってチョロくないのだ。
王族だから? 王族はこういうのも見慣れているとか……? いぶきは不思議だった。
いぶきはめげない。
「手品? なんですかそれは? これは奇跡というのです」
「はいはい。それで、メイ。4人目はお前に頼めるか?」
メイはビックリしている。
「え? わたくしですか? 他にもっと優秀な方が沢山いますよ?」
「お前は自己評価低いみたいだけどな。剣技と魔法の総合力は大したもんだよ。特に平行詠唱の技術については、このクラスでお前の右に出るヤツはいないと思うぜ」
いぶきが手をあげる。しかたなく指された。
「平行詠唱って何ですか? たべられますか? もしかしたら私が得意な逃げながら回復するヤツですか?」
「あのなぁ。食べられないに決まってるだろう。平行詠唱は剣撃と平行して魔法を行使する技術だよ。お前のは、攻撃せずに逃げるだけだし。平行詠唱とはいえないだろ」
ノアは両腕を肩まであげて、皆を制する。
「ちゃんと話を聞いてくれ。学内対抗戦は休み明けの1週間後だ。それまで合宿をしようと思う。場所は、精霊の谷を予定している」
メイは精霊の谷を知っているらしい。
「精霊の谷は、行く人を迷わせる危険な場所だと聞いた事がありますが、大丈夫なんですか?」
「その点は心配ない。王宮の使用人にハーフエルフがいてな。その者に案内させる。精霊の谷は、傷の治りが早い。また、精霊が多いから召喚魔法の修練にも向いているんだ」
待ち合わせは、明日の早朝になった。アイラとあかりもサポートメンバーとして参加できるようにしてくれた。エリカにはメイが帰りに伝えてくれるとのことだった。
いぶきとノアは、参加申請書をもらいにジャスパー教授の研究者に向かう。
学内戦は生徒であれば誰でも参加できるが、教員経由での提出が必要とされている。
これは、当日欠席するような冷やかし半分の申請を防止するための措置とのことだった。
教授は申請書に目を通しながら、半眼で2人をる。
「よく4人集めたな。他の生徒は、皆、回復と召喚で難航してるみたいだ。よし、記載内容に不足はないようだな。お前ら。学内戦の内容は知ってるか?」
いぶきは顔を横に振る。
「学内戦は会場でのチーム総当たり戦だ。上級生もいるからな。例年、1年生は苦戦している。ただし、1年生だけの配慮もあってな。2年生以上は3人パーティーでの参加になっている」
ノアは疑問が湧いたらしい。
「3人パーティーの場合、編成の制限はあるんですか?」
「3人の場合には、回復か召喚のどちらかが必須だ。編成規制については魔法省の……、大人の事情ってやつだな。でもほら、1年でもいける気がしてきただろう? まぁ、賞金とかはあるが、お祭りだし気楽に楽しみたまえ」
教授は続ける。
「……そのため、回復と召喚をどれだけ有効活用するかが鍵となる。いぶき君。属性魔法は使えるか?」
「使えません。属性以前に魔法自体使えません」
「ほう。リッチの時に武器に聖属性付与をしていたと聞いたがな。そのときのを見せてくれ」
「ここでですか? わかりました」
いぶきは目を閉じて集中する。
「「…黒 蘭 焔 剣…」」
そして、右手に現れた黒い焔をノアの剣に纏わせる。
ジャスパー教授は感心した様子で、のたうつ黒焔に顔を近づける。
「これはえげつない……。これは浄化じゃなく、断罪の焔だな。その分、対象がひろく強力ではあるんだが。ウルズが神官に与えたのは贖罪の機会ではなく断罪の焔か。なるほど興味深い」
教授は頷き、そして続けた。
「いぶき君。これは立派な付与だよ。属性というより特性付与だがな。同じように次は属性付与の可能性も考えてみなさい」
「だから、わたしは魔法はつかえ……」
「それは先入観だよ。属性を持っているのは、魔法だけなのかい?」
意味が分からないが、教授は続けた。
「まぁ、いい。特定の生徒にあまり肩入れするのは良くないからな。私のヒントはここまでだ」
ヒント……。
『ヒントなら、もうちょっと分かりやすいのがいいんですけれど』
ノアといぶきは研究室を後にすると、手を振って別れた。
そういえば、メイが攫われたのもこのへんだったな。
最初は3ヶ月を長いと感じたが、大学に来てからは毎日がアッという間に過ぎていく。
きっと、3ヶ月が終わってみれば一瞬のように感じるのだろう。




