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いぶきとあかりの異世界回想録♬  作者: おもち
第三篇 首都ローゼン
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間話 あかりのお使い

 

 琥珀のお爺さんから手紙が届いた。

 さっそく手紙を読んでみる。


 「師匠から弟子へ。 最近、なんでもリモートが流行りじゃからの。ワシもリモート修行を考案した。この指令書に従って行動するだけで、いつのまにかレベルアップできるという寸法じゃ!」


 んー。

 リモートって何のこと言ってるんだか。

 お爺さんは暇らしい。


 まぁ、弟子としては、暇つぶしに付き合ってあげようと思う。


 なになに。最初の指令は……。

 『街外れのアンさんのところに行って、思い出の品を受け取ってくる事』


 なんだかデジャヴ的なイヤな予感がするが、師匠の指示は絶対だ。


 さっそく街外れに行ってみる。

 なんでも「良い女なので、見れば分かる」とのことだ。


 んー。街外れには、家が一軒しかない。

 木造白壁の小ぢんまりとした家だ。

 これが外れだったら、どこを探せばいいんだろう。

 

 トントン…

 ノックをして、しばし待ってみる。


 ガチャ

 出てきたのは、ちょっとふくよかなお婆さんだった。

 

 あれ?この家じゃなかったかな。

 「あの〜。琥珀お爺さんのお使いできた者なんですが。失礼ですが、娘さんかお孫さんをお願いできますか?」


 琥珀と聞くと、お婆さんの穏やかな表情が修羅のように豹変した。

 

 「わたしゃ、娘も孫もおらんよ。天涯孤独さ。って、あんた今、琥珀空って言ったかい? あのクソ野郎。まだ生きてんのか」


 「あのう、なんだか思い出の品を持ってきて欲しいって言われたのですが……」


 「思い出の品? ああ、ちょっと待っていておくれ!」


 あのお婆さんが指示書の女性だとすると、もう何十年も前の預かり物だろう。

 そもそも残ってるのかも怪しい。


 家の中からドタンバタン音がする。

 

 20分ほどしてお婆さんは戻ってきた。

 「あんた、あいつの孫かい?」


 「いえ、違いますけど……」


 「そうかい。まぁ、もう約束を果たせなくなっちゃいそうだから、アンタでもいいや」


 そういうとお婆さんは、わたしにズシッとした紙袋を渡してくれた。

 

 このまま追い払われると思ったが、お婆さんはわたしをジロジロ見ている。


 「アンタ、このあとヒマかい? 時間があるならお茶でも飲んでいきな」


 お言葉に甘えてお茶をご馳走になる事にした。

 わたしは、貰えるものはもらう主義だ。


 お婆さんの家の中は、広くはないがきちんも整理整頓されていて小綺麗だった。

 キッチンには小さなテーブルがあり、席につくとお茶を出してくれた。あつーい日本茶だ。懐かしい味がする。


 ズズッと飲みながら話を聞く。


 「その湯呑みもアイツの忘れ物でね。ほんと、フラッと身一つで出ていっちまって」


 聞いたところによると、お婆さんは、若い時に琥珀お爺さんと大陸をまたぐ冒険の旅をしたらしい。

 

 冒険がひと段落し、お爺さんもこの家にしばらく住んでいたが、ある日、使命がどうのとか言い出してどこかに行ってしまったらしい。


 まぁ、琥珀お爺さんらしいといえば、そうだが。

 『やはり女の敵だな』と思った。


 とはいえ、わたしは身内だからね。

 とばっちりが来ないように、極力お婆さんを刺激しないようにしなければ。


 文句を言いながらも、若い時の冒険譚を話すお婆さんは若々しく、嬉しそうな表情をしていた。

 きっと、なんだかんだ言っても、お爺さんは、大切な思い出の欠かせないピースなのだろう。


 さてと、話もひと段落したので紙袋を開けてみる。

 中身は白と黒の反物だった。数十年も経っているのに、染めたてのように鮮やかな色だ。

 

 お婆さんは感慨深げに語り始めた。


 「アイツがこれをわたしに預けた時、何十年後かに、若い美形の女の子がこれを取りにくるって言っててね。まさか、本当に来るとはねぇ。

 いつもの妄想かと思ってたんだが。アイツが元気だと言うことも分かって嬉しいよ。これくらいの年になるとね。同じ世代を生きた者らは、みんな家族みたいな感じなんだよ」


 お婆さんはニカッと笑って続ける。


 「……たとえ、それがわたしを捨てた男でもね」


 わたしはただただ頷いた。


 年配の人の話を聞くのが好きなのだ。

 たとえ、それが初対面のお婆さんでも、話しているとほんわか温かな気持ちになる。


 今回の話は、お使いとしても少し申し訳ない気持ちにはなるが。。


 『ほんと、お爺さん何やってるんだか』


 あかりは尋ねた。

 「アンさん、また琥珀さんに会いたいですか?」


 「アイツが、わたしをアンと言ったのかい? わたしの名前を覚えていてくれたんだねぇ。……そうだねぇ。会いたくはないね。

 わたしは、あいつの中では若い時のままで居たいんだよ。わたしは……ひとりだけれど、ひとりぼっちじゃないことが分かったから、これでいい」


 そうかぁ。そういうものなのか。

 

 わたしの年では、なかなかどうして。まだその心境は理解できない。

 だけれど、アンさんが喜んでくれたのは分かった。来てよかった。


 アンさんに見送られて街外れを後にする。


 さて。指令書の続きは……。

 『錬金の小路にいき、ギャル縫製屋のリンちゃんにその紙袋を渡す事』


 さっそく、錬金の小路に行ってみる。

 縫製屋さんはどこだろう〜。


 道行く人に聞いてみるか。


 あっ、あの人たち、いかにも倉庫風の建物に出入りしている。

 なんかロープとか布切れみたいなものを持っているぞ!


 きっとアパレル系だな。あの人達に聞いてみよう。


 「あのう。このへんにリンちゃんという縫製屋さんありませんか?」


 すると、男達はいきなり激昂した。

 「あぁ? ユリウス大学の制服。お前、ノア王子の仲間か?」


 仲間かは分からないが、クラスメイトではある。


 それにしても、わたしの顔を見ただけでノアの名が出るなんてすごい。

 もしかすると、ノア王子の知り合いかな。

 だったら、仲良いアピールしたら色々親切にしてくれるかも!!


 「あのう、わたしノア王子のクラスメイトで親友なんです……」


 「はぁ!? ノアの野郎、もうここを嗅ぎつけたのか。こいつを捕まえろ!」


 なんだか思わぬ展開だが、お使いの途中で捕まることはできない。

 たとえ相手が、わたしに嫉妬するノア王子のファンの男達だとしても手加減はしない。


 さすがに怪我をさせたら悪いか……。


 守り刀【藤隠れ】の柄を逆向きに持つ。

 そして、点を線で結ぶように……相手を避けた反動で打つ。


 ほらね。


 3人はもう目の前でのびている。


 制圧したのは良いが、この人達どうしよう。

 ノア王子に言いつけられるかもしれない。

 

 悩んでいると、ジャスパー教授が来た。 

 やばい。いきなり退学かも。


 「あかり君じゃないか。この男達は? 君がやったのか? よくやった。後のことは我々に任せて、君は先に戻っていたまえ」


 なんだか分からないが、男達は教授に連れて行かれた。


 これは、生徒の不祥事を隠す学校側の隠蔽か?

 よくニュースで見るやつだ。


 こわいこわい。

 

 わたしの不祥事も、無事に隠蔽されたらしい。


 とりあえず、錬金の小路を歩いてみる。

 すると、普通に『りんの縫製屋』というお店があった。


 カランカラン


 店内に入る。

 もしかして、リンさんもお婆ちゃんなのかな?

 

 カウンターに小柄な女性がいる。

 金髪でギャル風……。


 「あのう。もしかしてリンさんですか?」

 

 「そうだよ! アンタなんでアタシの名前を知ってるの?」


 「ええっ。ビックリです。お爺さんに聞いた雰囲気のままなので。失礼ですが、もっとお婆ちゃんなのかと思ってました。あっ、わたしはあかりと申します。琥珀のお爺さんのお使いで来ました」


 琥珀という言葉を聞くと、リンさんの顔が不機嫌そうになる。


 「あのジジイ、まだ生きてんのか。んで、アンタは何の用?」


 リンさんの若さの秘訣は気になるが、いまはそんなことを聞ける雰囲気ではない。

 余計なことは言わずに、最低限の要件を伝えよう。


 「えっと。実は。この紙袋の反物を、リンさんに渡すように頼まれまして……」


 リンは紙袋の中身を面倒そうに確認すると、チッと舌打ちした。

 

 「とっくにどっかでおっちんでるのかと思ったけれど、しぶといジジイだこと。まあ、約束は約束だからな。今日は店じまいだ。大至急仕立てるから、アンタはしばらくこの店で待ってな」


 わたしは頷いた。リンさん怖い……。


 「ほんとは1週間は時間もらうんだけれどねー。アタシもあのジジイと1秒でも早く縁を切りたいから。今日中に仕立てるよ」


 そういうとリンさんは、メジャーを持ってわたしに近づいてきて、テキパキと全身の採寸をする。


 わたしは訳が分からない。

 「あのう。これはどういう……? 反物を届けるように言われただけなのに、なんでサイズ必要なんですか?」


 「え? アンタ何も聞いてないの? ほんとあのジジイは。何十年も前の話しだけどね。ジジイに頼まれたんだよ。何十年かしたら、アタシを訪ねて若い綺麗な女の子が来るから、そしたら持ち込みの反物で服を仕立ててやってくれってね。

 女の子の名前は聞かなかったけど、何十何も経ってるし、きっとアンタだろ。お代は先払いで受け取っちまってるからね。これでやっと清々できるよ」


 お爺さん。本当に色んな女の子に嫌われてる……。


 リンさんが無言になった。作業に集中したそうなので、外で待とう。


 小路を散歩していると、すぐ近くに水路を見つけた。水路沿いの石垣に腰をかけて足をブラブラする。


 何て名前の川だったかな。いぶきに教えてもらった気がするけれど、思い出せない。。

 

 川の幅は10メートルくらいだが、川底が石畳になっていて水は透き通っている。

 沢山の船が往来していて見ていて飽きない。

 果物を積んだ船。船頭さんが歌ってる船。中には花嫁さんが乗った船もあった。みんな川の恩恵をうけて生活している。


 2時間くらいは待っただろうか。日が傾き始めたので、そろそろ戻ろうかな。

 そう思ってふと向こう岸に目をやると。


 ローブを着た骸骨さんがトボトボ歩いている……。


 この街では、これは自然な光景なのだろうか。


 よし、決めた!

 

 この川の名前は『三途の川』にしよう。

 寮にもどったら、この奇々怪界な川の存在をいぶきにも教えてあげようと思う。


 それにしても、あの骸骨さん。

 ローブもボロボロだし、なんだか元気もない。

 

 よし、ここは。とっておきで元気付けてあげようと思う。


 まず、お数珠を構えて……

 「妙法蓮華経……。方便品……」

 骸骨さんのために、お経を頑張る。


 そうしたら、骸骨さん。

 血走った目で、すごい勢いでこっちに来たよ。


 元気が出たみたい。


 骸骨さん、お礼を言いたいみたいで追いかけてきてるけど、人助けはさりげなくしないとね。

 気にせずにリンさんのとこに戻ろう。


 リンさんのお店に戻ると、作業は佳境を迎えていた。

 紋を入れる前に、試着でサイズを合わせてもらう。


 巫女服のような、袈裟のような。


 でも、わたしのサイズでいいのかな。


 リンさんは、作業に余裕が出てきたのか、ぽつりぽつりと話を始めた。

 「琥珀と知り合ったのはね。昔、この街の外で九尾のキツネが出た時なんだ。アタシは防具の材料を探しに外に出ていてね。大きな影に気づいて見上げると、九尾のキツネがいた。

 もうダメかと思ったら、どこからか琥珀が現れて助けてくれたんだ。それがキッカケて、そういう関係になったんだけれど」


 リンさんは、手を止めて、少しの間、目を閉じる。そして続けた。


 「あの時は、不覚にも、あんなのがカッコよく見えちゃってね〜。アイツ、しばらくこの店に足繁く通ってたんだけれど、ある時、他のオンナとの初デートの場所を、アタシと行ったと勘違いしたんだよ? 酷いと思わない?」


 わたしは「ハイ……」と頷くことしかできなかった。


 「こっちはアイツとしか付き合ったことないんだから間違える訳ないっつーの。怪しいと思って、問い詰めたら、街外れに住むアンとも付き合ってたことが分かってね。

 アンの家に押しかけてやるって言ったら、この店には寄り付かなくなっちゃった。まぁ、アイツにとっては、そんな程度だったんだろうね」


 お爺さん。それで、この街に居れなくなったのか……。

 わたしがそんなことを考えていると、リンさんは、少しだけ口元を緩めてこちらを見た。


 「……ある時、アイツが珍しく落ち込んでいる時があってね。理由を聞いたら、家族が怪我をしてしまったと。狐の借りを作ったままもイヤだったんで、何かして欲しいことがないかと聞いたんだよ」


 『お爺さん、昔、家族がいたのかな……』

 リンさんは続ける。


 「……てっきり、鼻の下のばしたしょうもないお願いが来るかと思ったらさ。何十年か後に反物を持った綺麗な子が訪ねてくるから、巫女服を仕立ててやってくれって。

 ドワーフと混血のアタシはアイツより寿命が長いからね。十年単位はそこまで先の話とは思えなくてね。アイツに他の女かって聞いたら、力無くそんなんじゃないって。

 まぁ、意外だったんで、良く覚えてたんだよ。……と、紋も入れ終わったし、完成っと! これでアイツとの腐れ縁も終わりだね」


 さっそく着せてもらう。黒と白の巫女服。


 可愛い。


 後ろ襟の少し下には、白抜きで九枚笹の紋が入っている。

 

 あれっ、わたしの家の家紋だ。なんでリンさん知ってるんだろう。

 きっと、前にいぶきちゃんが言ってた思念共有なんとかってやつの機能かな。


 リンさんは、手を振って見送ってくれた。

 「アイツにもよろしく伝えてな。あっ、これ。この手紙も渡してくれって頼まれたんだ」


 リンさんは元気だけれど、少しだけ寂しげな顔をしている。

 

 今回は聞かなかったが、きっと、リンさんも、お爺さんに会いたいとは言わないだろうな。


 帰り道に水路の縁に座って、お爺さんの手紙を読む。


 「この手紙を読んでるってことは、ちゃんと服も仕立ててもらえたんじゃな? その紋カッコいいじゃろう。 だが、その装束はまだ未完成じゃ。今度、会った時に魂入れしてやるからの。それとこれはお小遣いじゃ」


 封筒の中には、お金が入っていた。きっとバイト代かな。

 あっ、でも、巫女服はわたしにくれたみたいだし。


 なんだったんだろう。

 レベルアップの気配もないし。


 まぁ。いいか。新しい服も貰えたし。

 帰ったらいぶきに自慢しようっと。


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