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いぶきとあかりの異世界回想録♬  作者: おもち
第三篇 首都ローゼン
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第43章 メイフィス誘拐事件


 俺はミラから封筒を受け取ると、光に透かしてみる。

 すると、やはり中に術式が仕込んである。したたかな連中だ。

 

 『アイラといぶきか。逆探知などはできそうにないな。メイフィスがいれば……』


 魔術的な仕掛けがある場合、術者と仕掛けには何らかのバイパスが通っていることが多い。

 そのため、術式構築に明るい者がいれば、魔力の追尾が可能になるのだ。


 しかし、それには優れた魔力感覚に加え、長年の高度な修練が必要になる。

 戦士クラスの俺にはできるハズかなく、おそらく、うちのクラスで可能なのは魔力操作が優秀なメイフィスくらいだろう。

 

 見たところ、マインドリーディング(読心術)のトラップがあるようだった。

 『この程度の術式であれば、無効化できる』

 トラップの逆利用は諦め、封筒の端に術式破壊文字列を書き加えると、封筒を開けた。


 中の手紙を読む。

 中身は、概ね予想通りの内容だった。


 要は、メイフィスを返して欲しければ、テスターとの融和政策を止めろということだった。

 また、これは手始めで、要求が飲まれない場合には次々に不幸が起きるともある。

 テスターとの窓口であり王子という地位にもある俺に狙いをつけたのであろう。

 

 

 ……父であるルンデン王は、俺がテスターだと知っている。


 そして、この世界、少なくともルンデン王国においては、理は豊穣の女神レイアでなければならない。

 異世界の神ともいえるアビスの登場は、この国の価値観を根底からひっくり返しかねない脅威であった。


 危機感を感じたルンデン王は、テスターと協力関係を構築することで、その力を利用できないかと考えた。

 テスターでもある俺に白羽の矢がたった訳だ。


 テスターとの融和策には、保守派の貴族から根強い反対があった。

 現王のリベラルな政策とは、前々から相性が悪く、くすぶった不満が爆発したのだろう。


 差出人は、【憂国騎士団】とある。

 騎士団とはあるが、融和反対派の貴族連合なのは明らかだ。



 刻限までまだ時間はある。

 さて、どうするか。

 

 当然だが要求は飲めない。

 これは、王に掛け合うまでもない。王族にあるものとして否なのだ。


 いくら侯爵令嬢であっても、国益とは比べるまでもない。

 

 刻限までは、とりあえずの命の保証があるというだけであり、何をされるか分からない。

 要求が飲めない以上、早急に救出しなければならない。


 メイフィスはどこに監禁されているのか。

 貴族が表立ったリスクを負うとは考えにくい。

 侯爵令嬢を、まさか自らの屋敷には監禁しないであろう。


 では、貧民街や地下通路か。

 捜索範囲が広すぎて、数時間では見つけられないだろう。

 

 神の奇跡に頼るか……?

 いぶきの方をみると、いぶきが控えめに手をあげている。


 「もしかして、ウルズの奇跡で探せるのか?」


 「奇跡じゃないんだけど、前にメイを探していた時に、錬金の小路の近くで、やたら身なりの良い男が出入りしている建物があって。当たってみるだけの価値はあるかと……」


 たしかに読みとしては良い。

 錬金の小路の周りには、商店が在庫を管理するための倉庫なども点在しており、十分にあり得る。

 それに、貧民街よりも、貴族がうろつくには都合がいいだろう。


 しかし、読みが外れると痛い。

 まずは、ジャスパー教授に報告し、学校にも動いてもらうべきであろう。

 ローゼンの成り立ちにも造詣が深い教授の意見も聞きたい。


 ノアは片付けもそこそこに席を立つ。

 研究室に行くと、ノックの返事を待たずに部屋に入る。


 ジャスパー教授は、意外な組み合わせに少し驚いたようだったが、真剣に話を聞いてくれた。


 「……お茶も出さずにすまないね。大体の事情は飲み込めた。たしかに、貴族が侯爵令嬢を監禁する場所として、錬金の小路のエリアは、うってつけだと思う。

 通常は、貴族が倉庫の管理などを直接指図することはない。あいつらは浪費には興味があっても、生産には無関心だからな。

 ……王子の前で話すことでもなかったな。私は、このまま学長室に行き学校側としての対策を検討する。事が事だ。君らは早急に現地に行きなさい。くれぐれも無理はしないように。神官が同行するなら傷薬よりもこちらだな。このままだと音がするからな。ちょっと待て」


 そういうと、教授は、棚から青い小瓶を選んでいぶきに渡した。そして耳元で囁いた。


 「他の人ヤツは色々言ってるけどな。私はウルズの神官を評価しているんだ。これは魔力回復薬だ。しっかりな」

 

 いぶきは警戒する顔をしたが、ノアとアイラは少し驚いた顔をする。

 どうやらこの小瓶は、かなり高価な物らしい。

 

 錬金の小路につくと、いぶきは記憶を頼りに倉庫を探す。

 『確かこの辺りだったかな』


 そこから50メートルほど捜索すると、記憶と合致する建物を見つけた。

 建物は白壁木造の二階建てで、周囲の家より一回り大きい。窓は所々割れているが、目張りされていて中の様子は分からなかった。


 3人は物陰に隠れて、様子を窺う。

 男達が頻繁に出入りしている。中には身なりが良い者も混ざっており、生活感のない建物とはバランスが悪いように感じた。


 ノアは身なりの良い者を凝視している。

 「あの顔には王宮で見覚えがある。ここで当たりのようだな。出入りしているのは5名程度か。

  中に何人いるか分からないが、一旦出ると、しばらく戻ってこないようだ。できるだけ多くの人数が外に出ているタイミングを見計らって突入するぞ」


 そう言うと、じっと息を潜める。

 5分ほどすると、4人が外に出てている状況になった。

 「あと1人……」

 

 ガチャ。


 ドアが開き、5人目がでてくる。

 男はこちらに背を向けると、腰に下げた道具袋に手を突っ込み、鍵を探しているようだ。


 『いまだ』

 

 ノアは2人に目配せで合図をした。

 差し足で男の背後に立つと、左手で口を塞ぎ、右の手刀で男を気絶させる。

 

 男が転倒しないようにそっと左手で支えると、レディーをエスコートするような場違いな所作で静かに地面に横たわらせた。


 まだ開いたままのドアから、3人は忍足で侵入する。


 建物の中は薄暗く、ひどく静かだった。

 古い木造の建物の中で歩けば、きしみ音の1つでもするはずだ。

 

 ノアは額の汗を拭う。

 「静かすぎる。おそらく地下だ。地下室を探すぞ」


 いぶきは、やみくもに先を急ごうとするノアを静止した。

 「下の間取りも分からずに突入してどうするの? それに入口が隠蔽されている可能性もある。闇雲に入っても相手の思うつぼだよ」


 「だって、下に降りないとどうなってるか分からないだろう」


 「いい? こういう建物では自重は流れるように地面に伝わらなければならないの。大きな柱や壁の位置は各階共通なんだ。地下を知りたいなら、まずは一階の間取りを把握しろってこと」


 「ウルズの智慧か?」


 「ウルズというよりは生活の知恵だね」


 一階は、玄関ドアから見て右奥に大広間がある。

 そこから左奥に通路がつづいて、左手前に折れている。

 玄関から荷物を搬入して近い場所。地下への入口があるとすれば、左奥の小部屋だろう。


 左奥の小部屋に入ってみるが、何もない。

 やはり隠蔽されているようだ。

 

 アイラが両手を広げ前に出す。

 「隠蔽も罠みたいなもんだよね? ならわたしが見つけられるかも」

 

 そのまま両手をあげると目を閉じる。


 「「サーチ•ギミック」」


 すると、どこからともなく光が集まり、地下室への入口を照らし出した。

 

 ノアは音もなく口笛を吹く。

 「便利な魔法だねぇ〜」


 3人が地下室に入ると、目の前に見張りの男がいた。

 ノアの左手は流れるような動きで相手の後頭部を押さえると、右肘の先端で相手の左こめかみを狙って振り抜く。

 男は叫ぶ間もなく倒れる。ノアの動きは電光石火のように速かった。

 

 一階の間取りを参考に大広間を目指す。

 建物の壁沿いに5メートルほど進み通路が右に折れた瞬間。

 死角からノアの左肩に斧のようなものが振り下ろされる。


 バキボキッという鈍い音がした。

 切創は鎖骨を貫き、左肺にも届いているようだった。

 ノアから呻き声にもならない声が漏れる。

 

 いぶきが廊下の先を見ると、2メートルを優に超える大男が斧を構えていた。

 

 騒ぎに気づかれたかも知れない。

 メイに何かされる可能性がある。

 ここからは時間との勝負だ。

 

 いぶきは、叫んだ。


 「アイラ、先に行って!!」

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