第42章 ノア•デル•ルンデン
ノアはどうやら、いぶきを待っていたらしい。
「よっ。さっきはカッコよかったぜ〜? パシーンって。もしかして、アンタ、マロンが言ってた神官さん? なるほど。これからアイラとカフェいくんだけど、アンタもどう?」
こいつ、マロンの兄貴か。
アイラの話を聞きたいので、いく事にした。
道すがらノアが話しかけてくる。
「イジメっていうの? ああいうの俺も嫌いなんだよね。 アンタもああいうのは苦手? まぁ、神官だし、そりゃあそうだよな」
『こいつに下手に気に入られたら、マロンの嫁にされかねないかも』
そんな不安を感じ、そっけない態度をする。
「別に……。ただ、ウルズがバカにされて腹が立っただけ」
「ふーん。ね。あんたテスター?」
意外な質問に、驚きが顔に出てしまった。
「あー、やっぱり、テスターなのね。そうだと思ったよ。まぁ、俺もなんだよね」
「え、だって。あなた王子でしょ? 王様と家族なんじゃないの?」
ちょっと話が飲み込めない。
『NPCと家族なのにテスター!?』
「まぁ、普通驚くよな。そうなんだよ。中にはNPCと家族としてはじまったテスターもいるんだぜ?」
理解が追いつかない。
NPCと家族としてはじまったとして、人間関係や認識の齟齬はどうするのだ。
「んー。まぁ、なんとかなるもんなんだよ。例えば、うちの父。王は俺がテスターだと知って、その上で、他のテスターとの関係構築に活用しようとしているぜ。感覚としては、他人になったというよりは、息子が真の使命に覚醒したのに近いみたいだな」
「他の人は知ってるの?」
「NPC、この呼び方は好きじゃないんで、言い方を変えるな。この世界の住人には、まだ話してない。知られない方が、色々と有利だという王の判断だ。と、そろそろカフェに着くな。っていうことで、口裏合わせよろしくな」
私は黙って頷いた。
カフェにつくと、アイラがいた。
他の生徒を呼んでいないのは、ノアなりの気遣いだろう。
アイラと向かいの席につく。
「さっきぶり」
「ウルズの神官様だ」
「いぶきでいいよ」
改めて自己紹介を済ませると、性急かとは思ったがメイとの件について尋ねる。
アイラはノアといると安心するのか、屈託のない表情で話し始めた。
「メイとは昔は仲良かったんだよ。わたしたち幼馴染でね。たまにお父さんの手伝いでメイのお屋敷に行った時は、一緒に遊んだりしてた。
それがね。ある日を境に、急に他人行儀な態度になって。最初はただ無視だったんだけれど、わたしに話しかけられるのも嫌だったみたいで、次第に今みたいな感じになっちゃった」
「態度が変わった頃に、何か変わったことはなかった?」
「ん。別になかったかな。確か12歳頃だったと思う。いつも通りだったよ」
ノアが割って入る。
「12歳っていうと、洗礼の儀を受けた頃だよな? いぶきは知らないかも知れないけれど、ルンデンでは12歳になると、豊穣の女神レイアの神殿にいき、洗礼を受けるんだ。すると、魔法の適正が分かるんだが……」
アイラが頷く。
「はい。そこでわたしは光の属性と分かりました」
魔法には火•水•雷•土といった基本の4属があるが、その他に光•闇といったレアな属性が存在する。
特に光は、聖なる属性とされ、高位の術者であれば、身分を超えて王族と結婚することも許される。
実際に王族の方も、光属性に良い印象を持っていることが多い。
ノアとアイラにしても例に漏れずであろう。
ノアとアイラで交互に頷きあっている。
『なんなんだ、こいつら。付き合ってるのか……?』
なんとなくメイが面白くない気持ちが分かった気がする。
「ノア王子には侯爵家からアプローチがあったり……」と、いぶきが言い終わる前に。
ガチャ。
ユリウス大学の制服をきた少女が店内に飛び込んできた。あれは……。
メイの取り巻きの1人だ。
少女は息を切らしてこちらに向かってくる。
かなりの距離を走ってきたのだろう。額には汗をかき、髪も乱れている。
「ハァハァ……。ノア王子。メイが見ず知らずの男達に連れていかれました。メイが来ないから様子を見に行ったら襲われてて。助けようとしたのに、怖くてできなかった。犯人は、ノア王子にこれを渡せと。メイに何かあったらどうしよう……」
少女は泣きながら封筒を差し出した。
ノアは封筒を透かして何かを確認すると、中の手紙を読む。
そして、一瞬の逡巡の後、真剣な眼差しでこちらを見た。




