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いぶきとあかりの異世界回想録♬  作者: おもち
第三篇 首都ローゼン
43/75

第41章 メイフィス•ユーグレア

 

 メイは目隠しをされ口を塞がれていた。

 手足は縛られ身動きができない。


 ここはどこであろう。湿っぽく、肌寒い。

 時々、水滴が肩に落ち、身体を伝いながら、わたしの体温を奪っていく。

 

 ジャスパー教授の研究室を出たあと、突然、後ろから羽交締めにされた。

 そのまま頭から袋のようなものを被され、気づくとここにいた。


 わたしの目の前には、おそらく2人の男がいる。 

 片方は言葉遣いが汚なく知性が感じられない男だったが、もう1人はリーダー格で、それなりの教育を受けているようだった。


 「隊長〜。侯爵令嬢なんてそうそう縁がないですぜ。どうせ帰すつもりはないんでしょ? その前に楽しみましょうよ」


 「組織の意に沿わないことはするな。彼女は大切な交渉材料だ。交渉するときには、生きていてもらわないと困る」


 「んじゃあ、そのあとは〜?」


 「帰すと面倒なことになるからな。要求が通れば、後はお前らの好きにしろ」


 男はすぐ目の前にいるらしく、獣のように熱を帯びた荒い鼻息が頬にあたる。

 フワッと生乾きの雑巾のような匂いが鼻をついた。


 「この髪、いい匂いだ。たまんね〜。もう我慢できねーわ。お前も運がないよな。侯爵家なんかに生まれたばっかりに、こんな目にあうんだもんな。かわいそ〜。まぁ、最後に楽しませてやるからよ。感謝しろよ? ヒヒヒッ」

 

 ああ。わたしはここで殺されるのか。

 こんなゴミカスみたいな男に弄ばれ、辱められて死ぬのだ。


 まぁ、自業自得なのかもしれない。

 『ハハッ……』

 ゴミカスのようなわたしには、お似合いの最期だ。


 アイラ……。

 なんで、あんなのことをしてしまったのだろう。

 幼い頃は、アイラの父親が屋敷にくると、よく2人で遊んだのに。


 ユーグレア侯爵家は、魔術の名家だ。

 偉大な数々の魔術師を輩出し、ルンデン王国の隆盛に貢献してきた。


 兄上は歴代でも傑出して優秀で、攻撃に特化した炎と氷の適性を持つ。

 両親とも期待を寄せている。


 それに比べわたしは……。


 ユーグレア侯爵家に生まれながら、魔法は風の適性しか持たず、魔力総量が少ない。

 剣技も中途半端だ。どちらも一流にはほど遠い。

 

 兄からは見下されるような目で見られ、両親からは家の面汚しだと言われてきた。

 あるとき、母上に言われた。

 

 「メイフィス。あなたは、あの仕立て屋の娘以下よ。仕立て屋が嬉しそうにアイラの自慢をするのよ。侯爵令嬢が平民の娘に劣るだなんて。わたくしに恥をかかせないで」


 そのとき、わたしの中で何かが壊れてしまった。


 生まれながらにして、貴重な光属性に高い適性をもつアイラ。

 平民出身で、ろくな教育を受けていないのに。


 生まれてから、ずっと一流の教育を受けてきたわたしより、遥かに魔術師としての資質が高い。

 この差は、これからどんどん開いていくのだろう。


 妬ましい。

 妬ましい。妬ましい……。


 あいつさえいなければ、わたしはこんなに屈辱的な思いをしなくていいのに。

 あいつさえいなければ、わたしは、もっと家族に愛してもらえたのに。


 親に愛され、誇りにされているアイラが羨ましくて、悲しくて。

 全部をアイラのせいにして、あんなに酷い事を沢山してしまった。


 本当はアイラのせいじゃないって分かってるのに。

 本当は、子供の頃のように楽しく遊びかったのに。



 『ごめんなさい』



 だから、ここで死ぬとしても自業自得なんだ。



 数時間が経った頃、獣のような男が1人で戻ってきた。

 さっきよりも鼻息を荒くし、下品な笑い声を響かせている。


 「ヒヒヒッ。隊長がいないうちによ。ちょっと楽しませてくれよ。ずっと女日照りで我慢できね〜んだよ」



 男の手が、わたしのブラウスの襟首をつかみ引きちぎろうとする。

 『ブチブチブチッ』

 ボタンがいくつか飛ぶ。

 

 すると、わたしの口は。

 塞がれ声にならない声で。

 さっきまでの投げやりな自分の心を裏切って。


 媚びるように「助けてください……」と発したのだった。


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