第41章 メイフィス•ユーグレア
メイは目隠しをされ口を塞がれていた。
手足は縛られ身動きができない。
ここはどこであろう。湿っぽく、肌寒い。
時々、水滴が肩に落ち、身体を伝いながら、わたしの体温を奪っていく。
ジャスパー教授の研究室を出たあと、突然、後ろから羽交締めにされた。
そのまま頭から袋のようなものを被され、気づくとここにいた。
わたしの目の前には、おそらく2人の男がいる。
片方は言葉遣いが汚なく知性が感じられない男だったが、もう1人はリーダー格で、それなりの教育を受けているようだった。
「隊長〜。侯爵令嬢なんてそうそう縁がないですぜ。どうせ帰すつもりはないんでしょ? その前に楽しみましょうよ」
「組織の意に沿わないことはするな。彼女は大切な交渉材料だ。交渉するときには、生きていてもらわないと困る」
「んじゃあ、そのあとは〜?」
「帰すと面倒なことになるからな。要求が通れば、後はお前らの好きにしろ」
男はすぐ目の前にいるらしく、獣のように熱を帯びた荒い鼻息が頬にあたる。
フワッと生乾きの雑巾のような匂いが鼻をついた。
「この髪、いい匂いだ。たまんね〜。もう我慢できねーわ。お前も運がないよな。侯爵家なんかに生まれたばっかりに、こんな目にあうんだもんな。かわいそ〜。まぁ、最後に楽しませてやるからよ。感謝しろよ? ヒヒヒッ」
ああ。わたしはここで殺されるのか。
こんなゴミカスみたいな男に弄ばれ、辱められて死ぬのだ。
まぁ、自業自得なのかもしれない。
『ハハッ……』
ゴミカスのようなわたしには、お似合いの最期だ。
アイラ……。
なんで、あんなのことをしてしまったのだろう。
幼い頃は、アイラの父親が屋敷にくると、よく2人で遊んだのに。
ユーグレア侯爵家は、魔術の名家だ。
偉大な数々の魔術師を輩出し、ルンデン王国の隆盛に貢献してきた。
兄上は歴代でも傑出して優秀で、攻撃に特化した炎と氷の適性を持つ。
両親とも期待を寄せている。
それに比べわたしは……。
ユーグレア侯爵家に生まれながら、魔法は風の適性しか持たず、魔力総量が少ない。
剣技も中途半端だ。どちらも一流にはほど遠い。
兄からは見下されるような目で見られ、両親からは家の面汚しだと言われてきた。
あるとき、母上に言われた。
「メイフィス。あなたは、あの仕立て屋の娘以下よ。仕立て屋が嬉しそうにアイラの自慢をするのよ。侯爵令嬢が平民の娘に劣るだなんて。わたくしに恥をかかせないで」
そのとき、わたしの中で何かが壊れてしまった。
生まれながらにして、貴重な光属性に高い適性をもつアイラ。
平民出身で、ろくな教育を受けていないのに。
生まれてから、ずっと一流の教育を受けてきたわたしより、遥かに魔術師としての資質が高い。
この差は、これからどんどん開いていくのだろう。
妬ましい。
妬ましい。妬ましい……。
あいつさえいなければ、わたしはこんなに屈辱的な思いをしなくていいのに。
あいつさえいなければ、わたしは、もっと家族に愛してもらえたのに。
親に愛され、誇りにされているアイラが羨ましくて、悲しくて。
全部をアイラのせいにして、あんなに酷い事を沢山してしまった。
本当はアイラのせいじゃないって分かってるのに。
本当は、子供の頃のように楽しく遊びかったのに。
『ごめんなさい』
だから、ここで死ぬとしても自業自得なんだ。
数時間が経った頃、獣のような男が1人で戻ってきた。
さっきよりも鼻息を荒くし、下品な笑い声を響かせている。
「ヒヒヒッ。隊長がいないうちによ。ちょっと楽しませてくれよ。ずっと女日照りで我慢できね〜んだよ」
男の手が、わたしのブラウスの襟首をつかみ引きちぎろうとする。
『ブチブチブチッ』
ボタンがいくつか飛ぶ。
すると、わたしの口は。
塞がれ声にならない声で。
さっきまでの投げやりな自分の心を裏切って。
媚びるように「助けてください……」と発したのだった。




