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いぶきとあかりの異世界回想録♬  作者: おもち
第三篇 首都ローゼン
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第40章 ユリウス剣魔大学2


 「パシンッ!」


 メイが頬を抑えた。

 教室がザワめく。


 いぶきは、立ち上がってメイを睨みつけている。

 「謝りなさいっ!!」


 メイも立ち上がった。

 「ハァ?! アンタ誰よ。口挟まないでくれる?」


 「謝れっ!! ウルズは詐欺集団じゃない!!」

 いぶきの瞳は潤んでいる。


 「あの時の神官? ウザっ」

 

 ジャスパー教授が場を収める。

 「あー、やめやめ!! お前ら、全員減点! 特に今睨み合ってる2人はあとで研究室まで来なさい」



 2人はしぶしぶ席についた。

 いぶきはアイラに耳打ちする。


 「大丈夫? 痛くなかった?」

 「うん。大丈夫。ありがとう。あの時のウルズの神官様」

 「いぶきでいいよ」

 「わたしはアイラで。てっきりわたしのことで怒ってくれたのかと思ったら、ウルズ教のことで怒ってるんだもん。おかしくなっちゃった」

 「いやぁ、だって。この前、逃げられちゃったから。あの顔見てたら、また腹がたってきちゃって……」

 「そっかぁ、でもありがとう」


 ———さっき、メイにイジメのことを謝らせてたら、先生が私を庇った時と同じになってしまう。公然の秘密が周知の事実になり、きっとイジメはより明け透けになるだろう。


 講義後、研究室にいく。

 すると、既にメイが部屋の中にいた。私が入ると、メイの話は終わったらしく、足早に部屋を出ていく。プイッとして、私と目を合わせもしない。


 ジャスパー教授の溜息が聞こえる。

 部屋に入ると、教授は私の顔を見た。


 「さて、入学早々の問題児ちゃんの言い分はどうかな?」


 「……メイさんがウルズのことを馬鹿にするからです……」


 「とはいえ、ウルズの神官が各地で変な物を売りつけてきたことは、歴史的にも有名だからな」


 「先生までそんなことを……」


 「まぁ、そういうな。これを見てみろ」


 ジャスパー教授は、一冊の古い本を開く。

 すると、一枚のイラストが目に入った。

 それは、蝋燭を持ったローブの女性が斬首台の傍らに立つ絵だった。

  

 「女神ウルズ……」


 いぶきにはその女性が女神ウルズだとすぐに解った。


 教授はやや驚いた顔をする。


 「やはり、神官にはそう見えるのか。実は私も同じ意見でね。一般的な理解では、これは、ウルズの信者が斬首台にまできてローソクを売っている浅ましさを描いた絵とされている」


 教授は続ける。

 「しかし、構図としての不自然さという点もあるが、私にはこれが、女神ウルズの性格を象徴する絵だと思えてならない。直観的にすぎるという自覚はあるのだが……」


 教授の意図が分かった気がした。

 いぶきの脳裏には、女神ウルズと巡った無限の過去の経験がよぎる。


 「はい。女神ウルズは運命を見守っています。主体的に変化を与えるのではなく、その者が自ら立ち上がる定めにあることを信じ、ただ見守っているのです。この死刑囚はここで命が尽きるのかもしれません。しかし、この過去は、この死刑囚にとって限りなく存在する等価な過去未来の一場面に過ぎないのです」

  

 教授は興味深いという顔をする。

 「ほほぅ」


 「これは矛盾なのかもしれません。しかし、運命の女神は、運命に抗おうとする力を誰よりも信じているのです」


 「なるほど。私もそう思うよ。ウルズ神官は色々言われるところが多いが、まぁ、君が得意とする手品とかね。ああ、奇跡というんだっけか。それはさておき、女神ウルズの神格は決して低くはない。むしろ、条件によっては、最高神オーディンすら退けるだろう」

 

 教授の表情は穏やかだ。私の目を真っ直ぐ見ている。


 「それで、ウルズの神官はその教えに従い、アイラ君を見守りたいと?」


 「はい。私は、露骨な保護は、露骨な排除と本質的には変わらないと思います。できれば、彼女自身で問題を解決してほしい……」


 教授はいぶきが言い終わる前に被せてきた。


 「なるほど。さすが高位神官だな。その精神性も主神に依っているのか。わかった。私もアイラ君が問題を解決できるように手を貸そう。できることがあったら、遠慮なく言ってきなさい」


 いぶきは、お礼をすると研究室を後にする。


 歩きながら、自分の経験を思い出す。

 

 私は差し出された助けの手を掴んだ。そして、淡く色付き始めた世界の中で、自分なりに必死にもがいた。

 普通くらいだった勉強は、いつの間にか、国内で二桁に入るようになっていた。仕返しした訳でも、隔離された訳でもない。

 だけれどある日、イジメはどこかに消え去り、周りの自分を見る目が変わった。自分の中の彩りが外まで溢れ出た気がした。

 

 逃げるな、なんて言うつもりはない。

 だけれど、私は…。


 研究室からの帰り道。

 1人の男子生徒が待っていた。

 あれは確か、ノア王子。

 こちらに気づくと話しかけてきた。


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