第38章 魔法少女への道
いぶきには、いまだ諦められない夢があった。
それは、魔法少女になること。
ポートランドでの一件以来、その想いはますます強くなる一方だった。
定期船の旅もそろそろ終わる。
ローゼン到着までに綿密な計画を練らねば。
船に揺られながら、いぶきは物思いに耽っていた。
この船旅で、マロンという忠実なしもべを得た。
やや知力、体力には劣るが、財力だけはある。
こいつをうまく使えばなんとかなるのではないか……。
コンコン。
ドアをノックする音が聞こえた。
「マロンです。そろそろ、僕ちんの部屋を返してもらえませんでしょうか? それと、母上とのお食事会の日程の件で……」
『ああ。そうだった。こいつの母親と食事をせねばならぬのだ。面倒くさい。が、相手は王妃だ。無視はできない』
いぶきは面倒そうに答える。
「んで、いつになりそうですか?」
「母上は公務で多忙を極めていまして、最短で3ヶ月後になるとのことです。『楽しみにしているので、くれぐれも反故にしないように』と伝言です」
『楽しみにしてるなら、さっさと実施して欲しいんだが……。って、3ヶ月後?! 季節は変わるね。ふつーに』
いぶきはやや不機嫌そうに。
「分かりました。お母上によろしくお伝えください。それと、くれぐれも『フィアンセ』として紹介しないように。あくまで仲の良いお友達でお願いします」
「いや、既にフィアンセと……」
いぶきは目を閉じクラスシンボルのペンダントを握る。
「ああっ。ウルズ様の声が聞こえる。この愚か者に落雷を……」
「ひいいっ。わかりました〜」
さすが敬虔な信者。
マロンは、良いリアクションでバタバタと出ていった。
3ヶ月もローゼンに滞在しなければならないのか。
長すぎる。
またギルドのクエストでもこなして過ごすか。
それか、よさげな魔女を見つけて弟子入りするか。
とことん探せば、神聖力でも行使できる魔法があるかもしれない。
ってか、3ヶ月も宿に泊まるお金ないぞ。
マロンに頼めばなんとかなるかもしれないが、王宮はちょっと気が進まない。
身の危険も感じる。
うーん。サイさんに頼るか。
さっそく、サイの部屋に行ってみる。
船室に入ると、ちょうどサイがお茶を淹れていた。
「ちょうどよかった。いぶきさんもお茶でもどうですか?」
「ありがとうございます。ところで、ローゼンについてからのことなのですが……」
いぶきは、ローゼンで滞在中にサイの屋敷に泊めてもらえないか聞いた。サイは、笑顔で答える。
「無論、我が家に泊まってください。恩が返せると妻と娘もよろこぶと思います。それにしても、3ヶ月ですか。
それだけの期間があるなら、大学に通ってみるというのはどうですか?
きっと、魔法の研鑽にもなると思いますし、ちょうど私の知り合いに教授がいましてね。もし興味があるなら、聞いてみますよ」
どうしようかな。いぶきは悩む。
『興味がないこともないが……。大学かぁ。大学院もあわせたら、既に7年も通ってたんだし。正直、もうお腹いっぱいなんだよな』
すると、さっきまでフレイと遊んでいたあかりが、いつの間にか横にいた。
「はい! わたし行きたいです! 大学行ってみたかったんです。本当に嬉しい。わーい」
『わーいって実際に言う人初めてみた』と、いぶきは思いながらその様子を眺めている。
きっと、本当に嬉しいんだろう。
そんな嬉しい人となら、また通ってみるのも悪くはないかもしれない。
「では、私とあかりの2人分でお願いしたいです。ありがとうございます」
2人は丁寧にお辞儀をした。
サイは微笑む。
「私も、実の娘が増えたみたいで嬉しいよ」
いぶきは思う。
『サイさんは、本当に良い人だ。出会えてよかった。それにしても、実の父とは最期まで分かり合えなかった自分が、今度は娘になって、他人に大学に通わせてもらう。皮肉なもんだな』
数日後、定期船はローゼンについた。
船を降りると、そのままサイの屋敷に向かった。
サイの屋敷は、想像の数倍の大きさで、小さな城みたいだった。
入口もいくつかありメイドも数名いるようだ。
王様とコネクションがあるというのも、まんざら嘘ではないらしい。
客間に通してもらい、あかりと、すこしゆっくりする。
あかりはニコニコしてベッドに転がっている。
「いぶきちゃん、このベッドすごいね。フカフカだよ〜。それと大学のこと。一緒に通ってくれてありがとう。わたし、事情があって大学に通ったことないんだ。こっちの世界の大学は少し違うのかもだけれど、行けることになってすごく嬉しい!!」
いぶきは、『その顔をみると、こっちの方が嬉しい気分になるよ』と思う。
夕方になると、メイドさんが呼びに来てくれて、サイさん一家と一緒に夕食をいただいた。
サイさんは、私達に対しても娘のように接してくれて、気さくに話しかけてくれる。
「大学の件なんだが、研究生として許可がおりましたよ。来週の月曜日からです。明日は、2人で制服を作りに行くといいね。学用品も含めて、費用は当家で負担しますので、その点はご心配なく」
次の日になり、あかりと制服を作りに行くことにした。
ついでに改めてローゼンを散策してみる。
ローゼンは、北側のノルン城を中心として城壁に囲まれた都市だ。
南北に流れるブルボン川が、街の東西を分断している。
川の中程にはカヌル橋がかかっており、街の東側は公的施設や商店、街の西側には平民の居住区がある。
城の周囲には貴族の邸宅があり、街の東側にある錬金の小路と言われる商店街は、城の敷地にある大学への通学路としても利用されていた。
錬金の小路にあるテーラーさんで採寸をしてもらい、制服を注文すると服飾店を出る。
なんとか入学日には間に合いそうだ。
あかりは、疲れたといって先に帰った。
船旅は疲れるもんね。無理はない。
しかし、私にはやるべきことがある。
魔法店を探すことだ。小道の中をウロウロしていると、五芒星の看板を掲げた、いかにもという店を見つけた。
ガラン…。
鈴のついた木のドアを開ける。
重い…。でも、魔法店はこうじゃないと。
店主の魔女に、私でも使えそうな魔法はないか聞いてみる。
すると、カウンターの水晶に手をかざすように言われた。言われるままに手をかざす。
魔女は驚いた様子で。
「おおおっ。これは……、魔力ゼロだね。ゼロは滅多にいないんだよ〜」
全然嬉しくない。
「あなたに使える魔法はないわね〜。どうしてもというなら、あそこの棚の商品はどう? 魔力がなくても魔法っぽく見せることが出来るわよ」
いぶきが棚を見てみると、簡素な手品もどきの道具が陳列されている。
それらは、どうみても子供用のようだった。
ウルズの神官に、子供だましの手品道具を売りつけるなんて、百万年早い。
手品に奇跡って名前つけてる宗派を舐めるな!、と憤りながら店を出る。
『ここでも魔法少女の夢は叶わないのか……』
一層、路線変更して、愛と友情のマジカルアイドルでいくか。
いぶきがブツブツ囁きながら歩いていると。
制服をきた少女が必死の形相で目の前を走り抜けた。
あれは……、いまさっき採寸してもらったユリウス大学の制服だ。
少女の後を追って、同じ制服を着た少女数人が走り抜ける。
うすら笑いを浮かべながら、弱った獲物をなぶる狩人のような眼。あの眼には見覚えがある。
『イジメだ』
いぶきは直感的に思った。
学外でもこうなのだから、きっと学内でもイジメられているのだ。
『自分が追いかけても何ができるか分からない。でも放ってはおけない』
いぶきは後を追うのだった。




