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いぶきとあかりの異世界回想録♬  作者: おもち
第三篇 首都ローゼン
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第37章 ユリウス剣魔大学


 「ノア様…」


 ノアは侍女の呼びかけで目を覚ます。


 起き上がると手早くローブを脱ぎ捨て、侍女が用意したハチミツを塗ったトーストとフルーツで簡単な朝食を済ませる。


 そして、居室に備え付けの洗面台で身なりを整えると、コートを羽織り首にタイを締め大学に急ぐのであった。

 

 王宮の廊下では、贅沢に金をあしらった柱の陰に何人かの貴族が出待ちをしており、王家に取り入ろうと世辞を言ってきたり会釈をしてくる。


 今日はいないが、中には自分の娘を連れてきて色目を使わせる者すらいる。



 『毎日のことだけれど、慣れないよな〜。これ』



 さっき整えたばかりの髪をグシャグシャしながら歩く。

 幸い、背格好や容姿はほぼ元の世界のままなので違和感はなかった。

 

 しかし、違和感だらけなのは、この生活だ。


 現実の俺は、父がイギリス人ということを除けば、ごく一般的な家庭で育った。

 普通の大学にいき、将来は自衛官になりたいと思っていた。


 ところがある日、今回の騒動に巻き込まれた。


 多くのテスターは普通に街や村から始まったが、中には僻地からスタートしたり、NPCと家族として始まった者もいる。俺もその中の1人だった。


 ただ少し違うのは、父親が王様ということだ。

 そのまま廊下を歩き、王宮の南口から建物の外にでる。


 ここノルン城は、かなり規模の大きなお城で、王宮の他に、大学や兵舎、牢獄に貴族の邸宅なども敷地に点在する複合施設だ。


 王宮を出て大学に向かう。

 

 「よっ、ノア。おはよ」

 途中、何人かの学友とすれ違うが、皆、気兼ねなく声をかけてきてくれる。

 

 春から通っているユリウス剣魔大学は、剣技コースと魔法コースに分かれており、さらにそれぞれが貴族クラスと平民クラスに分かれている。


 俺はその中の、剣技コース(貴族クラス)の1年生だ。


 演習はコースやクラスごとだが、共通科目については自由に履修を選択できる。

 いつもの席につくと、隣の席の友人が話しかけてくる。


 「なぁ。ノア。今日、研究生が2人入ってくるらしいぜ。女の子だってよ。かわいいのかなー」


 ため息をつき、思うのだった。

 『どーでもいいだろ。どーせNPCだろ?』


 すると、始業ベルがなり呪詛学のジャスパー教授が教室に入ってきた。続いて黒髪の少女が1人入ってくる。


 「えー、講義を始める前に連絡事項がある。今日から研究生2人が皆と合流する。こちらは、あかり君だ。もう1人は……。あれ? さっきまでいたんだがな。とりあえず君、自己紹介をして」


 「わたしは、あかりと言います。職種は仏士です。

 短い間ですが、皆さんとご一緒させていただきます。よろしくお願いします。もう1人いるんですが……。いぶきちゃーん」


 すると、パタパタともう1人入ってきた。どこかで転んだらしく、制服が乱れ額は赤くなっていた。


 「ハァハァハァ……。私は、いぶきです。よろしくお願いします」


 あまりにも簡潔すぎるので、促されて自己紹介を続ける。


 「ハァハァ…、職業は神官服です。ウルリュの」


 あの人、噛んだ。

 そこら中で笑いが漏れる。


 見かねた教授が、屈託のない笑顔で割って入る。

 「いぶき君は神官だ。服じゃないんで皆よろしくな。お前らくらいの歳で高位神官には、なかなかなれるもんじゃない。

 2人とも逸材だ。運がいいぞ〜。勉強させてもらえ。お前ら。じゃあ、今日の講義に入る」


 教授は、2人に空いている席につくように目配せすると板書を始める。


 「来たばかりの2人もいるので、軽く復習から始める。

 まず、呪詛とは? そこの寝てるお前。答えろ」


 寝ていた学生は、指されてもまだ寝ている。

 隣の席の女子に揺すられてようやく起きた。


 「あ? はい? すみません。聞いていませんでした……」


 教授は嫌味なく笑う。

 「聞いてなかったじゃない。起きていなかったの間違いだろう?」


 教室にドッと笑いが起きる。


 そう。ジャスパー教授は、生徒を無意味にいびるような非生産的なやり方はしない。

 寝ている生徒でさえ、掴みに利用する合理的な性格だ。

 だからこの講義は人気がある。


 「んじゃあ、親切に起こしてあげた君。呪詛とは?」


 生徒は、やや困惑気味に答える。


 「呪詛は呪いです。人を不幸にしたりとか」


 「ん〜。50点。他には? わかるやつはいないのか? まじか? こんな答えしか出てこないと先生泣くぞ? ……ここは期待の新人あかり君に頼ろうかな?」


 あかりはびっくりしている。

「あの〜。わたしですか? ……呪は、例えば般若心経にも呪という概念が出てくるんですが、三蔵法師は、敢えてこの呪文については、音を残し翻訳しませんでした。

 つまり、それは文字の響き自体に、神仏に通ずる効果があるということで……あれ?

 自分で何を言いたいか分からなくなっちゃいました」

 

 あかりは舌を出して照れ笑いをする。


 「仏教からのアプローチか。視点としては悪くない。たしかに、般若心経や法華経のダラニでも、呪という概念が出てくる。

 せっかくだから、そこから話をひろげようか。

 あかり君の話から見えてくることは、呪には本来、善悪の色がないといことだ。

 ほら、呪は『まじない』とも読むだろう? じゃあ、詛は?

 この字の右側の且は、象形文字で諸説あるが、台の上に供物が何重にも重なる形と言われている。それに言の組み合わせだな。

 かさねて何度も言うこと。そこから『誓い』という意に転じた。つまり、神に誓いをたて、その恩恵を得ることを『呪詛』と定義し、その実践と理論を研究する学問が、呪詛学だ」


 あかりは何か言いたげだ。きっとクラスに馴染んでいたら何か反論したのだろう。

 いぶきは、眠そうにしている。


 ノアはこの会話にはあまり興味がなかった。

 それよりも数席離れたクラスメイトの様子を見ている。


 ある女生徒が、数名でニヤニヤしながら前の席の女生徒を机の下で蹴っている。

 しかも、足跡がつくようなやり方でだ。蹴っているメイは貴族で、蹴られているアイラは平民の生徒だ。

 メイは銀髪に近い金髪で、少しキツめだが、整った品の良い顔立ちをしている。

 その品の良さが今の蛮行を、より下劣に感じさせた。


 『イジメだ』


 ノアは元々正義感が強く、こういうことがすごく嫌いだった。

 『やめさせるか。しかし、王族の俺が口を挟むと、あの子が余計にイジメられるのではないか』


 ノアの目が届く範囲ならなんとかできる。しかし、トイレや女子寮など、目が届かない範囲ではどうすることもできない。目を背けるべきか。

 ノアが迷っていると……。



 「パシン!!」



 突然、何かを叩く音が教室に響きわたった。

 ノアが振り向くと、さっきまでイジメていたメイが、上を見上げ頬を押さえている。


 その傍では、いぶきが立ち上がり、メイを見下ろしていた。

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