間話 あかりのポートタウン滞在記
サイさん達の連絡船に便乗してポートタウンきた。
いぶきはフレイちゃんと観光するようだが、わたしにはやらねばならぬことがある。
それは、この街の名産という貝殻の浮彫りのペンダントを入手することだ!
サイさんに「あかりさんもフレイ達と一緒に‥‥」とお誘いを受けたが、重要な目的のためだ。
泣く泣くお断りすることにした。
いぶきがこっちを見ているような気もしたが、先を急ぐので、いぶき達ともすぐに別れた。
まずは、お土産屋さんに行ってみよう。観光地の例に漏れず、港の周辺にあるはずだ。
‥‥港の近くをウロウロしてみたが、それっぽい商店がない。
港の周辺のお土産屋は、実は日本だけのローカルなカルチャーだったのかもしれない。
では、銀細工店に‥。
って、どこ?
途方に暮れていると。
絶妙なタイミングで腰の曲がったお婆さんが、おもちゃのような動きで独り言を呟きながらトコトコと通り過ぎた。
「三角州の赤い家にわねぇ〜。ペンダント作りの名人が住んどんのよ〜。浮彫り鮮やか。すご〜い。すご〜い」
このお婆さん怖っ!、と思った。
生活感がなさすぎるというか‥‥。子供の頃やったゲームに出てきた村人のようだった。
でも、重要なヒントを手に入れたぞ。
次に目指すべきは、河口近くの赤い家だ。
そんなこんなで、わたしは今、河口にきている。
三角州の周りには数軒の家があり、赤と言えなくもない‥‥、昔は赤かったんであろう家を見つけた。
ノックをしてみるが‥‥。誰も出てこない。
家の後ろ側に回ってみると裏口があり、その奥は思ったより広そうだった。
呼び鈴を押してみる。
中でガタガタッと音がして、少しすると作業用と思われるエプロンをつけた女性が出てきた。
女性は、わたしよりは年上そうだが、まだ若い。赤毛で利発そうな雰囲気だ。
女性は、わたしを訝しげに見ている。
「なにか用ですか?」
「実は、道すがらのお婆さんから、こちらで浮彫りのペンダントを作っていると聞きまして‥(うん、嘘はついていない)」
「はぁ‥、浮彫りとはカメオのことですか? あまり人にはお譲りしていないんですが、おしゃべりな人もいるもんですね」
わたしは相手の迷惑顔に臆することなく、言いたいことを伝えることにした。突拍子がなく強引でも、こういう時は言ったもん勝ちなのだ。
「はい。それで、そのカメオのペンダントを作ってもらえませんか?」
女性は考える仕草をする。
「わかりました。カメオは作りますが、ペンダントとロケットは作り置きのものでいいですか?」
わたしは全力で頷く。
——やった。何でも言ってみるものだ。琥珀お爺さんのアドバイス通りだ。
その時、わたしの脳裏には『面倒くさそうな顔されてものう。ダメもとでしつこく誘ってみることが肝心じゃ』としたり顔で話すおじいちゃんの顔がよぎった。
女性は困った顔をしている。
「ただ、カメオの材料がないんですよね。私も困っているんです。発色の良い浮彫りのためにはサルドニクス‥、カブトのようにツノがある巻貝が必要なんですが、採取地に魔物が出るので、なかなか手に入らないんですよ。
あなたは見たところ冒険者のようですし、採って来てもらえませんか? 余分に採取してもらえれば、私も助かりますし。ペンダント代はサルドニクスということで、無料でお作りします」
お金をあまりもってないので、願ってもない嬉しい申し出だ。わたしは2つ返事で引き受けた。
「では、現地までは弟のウィルに案内させます。雑用程度ならできると思いますので」
女性がそういうと、体格のいい男性が奥から顔を出した。筋肉質だが、わたしよりは年下だと思う、
ウィルは面倒くさそうに頭を掻くと、自分に着いてこいとでも言いたげにスタスタと歩き出した。
どれくらいだろう。湾の反対の岬に向かって20分は歩いていると思う。
「あとどれくらいで着くんですか〜?」
返事がない。
面倒なのか聞こえていないかは分からないが、さっきからずっとこんな調子だ。
「ちょっと〜。なんか答えてくれませんか〜。2人っきりなのに気まずいんですけれど〜?」
むー。これから共同作業があるのに、会話が無いのって独りきりより辛い。
そんなこんなで現地に着く。
巻貝の採取地は、岬のさらに奥側の磯浜にあるので、岩だらけで歩きにくい。
「あっ」
飛び出た岩に足をひっかけてしまった。
『転ぶ』
と思ったが、咄嗟にウィルが手を差し出し助けてくれる。
‥‥無愛想だけど、実は良いやつなのかな。
巻貝は、岩場から少し浅瀬になっている海中にある。
波は穏やかで浅瀬なので溺れる心配はないのだが、素人のわたしには、どれが正解の巻貝なのかよく分からない。
困っていると、ウィルが無言で海面を指しザブザブと海に入っていく。
膝下くらいの深さまで進むと、サバッと海水に腕を突っ込み、モゾモゾしたかと思うと、手にはツノの生えた巻貝を持っていた。
おおっ、あれがサルドニクスか‥‥。
わたしも真似をして巻貝を探す。
『あっ、あった!』
その時。
ザバッ!!
何かが水から飛び出すような音がした。
顔を上げると、大ダコのような化け物が、こちらに数本の毒針のようなものを射った瞬間だった。
集中力が研ぎ澄まされ、自分の中の時間の流れがどんどん速くなっていく。
周りの風景はコマ送りのように見えるが、身体はいつも通りに遅いままだ。
だけれど、脳からの『避けろ』という指令に反応してくれない。
『避けられない』
歯を食いしばって被弾に備える。
あれ‥‥?
痛く‥‥ない?
片目を開けると。
ウィルが、両手を広げてわたしとタコの間に立ちはだかっていた。
毒針がウィルに突き刺さっている。
ウィルは呻きながらうずくまったが、大ダコはそんなことはお構いなしに2射目を放つ。
わたしは雷盾の簡略詠唱をした。
「「帝釈雷盾」」
ウィルの前に菱形の雷の盾が出現する。
雷の盾は雷鳴を轟かせ、盾に触れるや否や毒針を炭にした。
わたしはそのまま守刀を逆手に構え、大ダコに飛びかかった。
大ダコの頭のような部分を縦に突き刺すと、柄に全体重をかけ、そのまま下方向に切り裂く。
大ダコは一番右側の短い足で、わたしを横殴りにしようとしたが、身体を屈め、紙一重でその一撃をかわすことができた。
今度は、守刀の刃先を上にして構え、飛び上がる力を利用して上に突き上げる。
大ダコは絶命したのか、奇声を発しながら水の中に沈んでいった。
わたしは、すぐにウィルに駆け寄ったが、ウィルの肩はタコの猛毒に侵され紫色になっていた。
ウィルは自分がそんな状態になっているのに、わたしを気遣うような目をしている。
「あかり、大丈夫か?」
「大丈夫。だから今は無理して話さないで」
「ハハッ。あの大ダコの猛毒は大人でも数分でショック死する強さだ。俺はもうダメだが、あかりだけでも無事でよかった」
わたしはウィルに答えることなく梵字を空書する。
そして、鬼子母神の力を借りるために解毒の詠唱を始めた。
「「願い奉る 三帰五戒を科されし夜叉神の娘よ 我が法力を喰らいて、祓いの炎となれ 夜叉祓障」」
ウィルの周りに柘榴の花びらのような光が舞いながら降り注ぎ、毒を癒していく。
光が消えると、ウィルの肩は毒は燃え尽き、血色の良い肌色に戻った。
ウィルが、はにかむような笑顔で「ありがとう」と言うと、わたしはニヤニヤしながら「やっとマトモに話してくれたね〜」と返した。
依頼の巻貝をもって女性の所に帰ると、ちょうど来客があった後らしい。
女性はまだ玄関口にいて、わたしたちを笑顔で迎えてくれた。
「今、ちょうどお客さんが来てたんだけれど、すれ違いませんでしたか? なんでもハイネからの定期船に乗って来たとかで。あっ、そういえば名乗ってませんでしたね。私はマインといいます。弟が助けてもらったそうで、お世話になりました」
「あ、いえいえー。わたしも助けられましたし」
「この子、無愛想でしょ? お爺ちゃんは相当な女好きだったらしいのに、ほんと誰に似たんだか。でも、無愛想なのは気に入っている証なんですよ? 気を悪くしないでくださいね」
ウィルが顔を赤くして割って入る。
「余計なこと言うなよ! 姉貴!」
ほほぅ〜。無愛想は親愛の証か。
気に入ったなら沢山話したくなるものじゃないの?
前の世界でもそうだったが、高校生くらいの男子の生態はよく分からない。
『まぁ、でもぶっきらぼうだけれど優しかったし、これは将来に期待かな?』
マインさんも少し呆れた顔をしている。
「ところで、カメオにはどんな柄を入れて欲しいんですか?」
肝心なことを忘れてた!
「カメオって、2人の姿を入れることもできますか?」
「あまり細かい彫り込みはできなくなってしまいますが、それでもよければ‥」
「是非、お願いします。こうこう、こんな感じの2人で。目はこうで、鼻はああで。黒髪で‥」
わたしは、記憶にある限りの両親の特徴を伝えた。
両親の顔、もう何年見てないだろう。
きっと、2人ともシワが増えているだろうな。
お父さんはハゲていたりして!!
この世界で、これからどれだけ長く過ごすのかも分からない。
なので、大切な人の顔を忘れないように何かに残しておきたかった。
するとマインさんが。
「お2人はご両親ですか? ロケットを開ける度に、お2人に再会できるように、気合いを入れてつくりますね!!」
わたしは「ありがとうございます! よろしくおねがいします!」と言い残し、その場を去った。
カメオの彫り込みには数週間かかるらしい。
完成したら送ってくれるということなので、ローゼンについたら2人に手紙を書こう。
『もうすぐ帰りの連絡船の時間かな?』
わたしは、わたしの帰るべき場所を目指して、早足で桟橋に向かうのだった。




