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いぶきとあかりの異世界回想録♬  作者: おもち
第二篇 旅をする意味
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第34章 定期船「ル•マロン」6

 いぶきは、サイとグラスのところにいき護衛の生死を確認する。

 2人ともまだ死亡していなかった。

 (どちらとも、死にかけではあったが)


 いぶきは回復後にまた反撃されることがないよう、血液の戻りを加減して回復の加護を使う。

 いぶきが祈り始めると、光の円環陣がいつもの3倍、三重に出現する。


 「……旅人に幾許かの猶予を与え給え。永 劫(エーヴィヒ)回帰(ヴィーダーケーレン)


 その様子を見たサイとグラスは『お見事!』とでもいいたげにヒューっと口笛を吹く。


 ——おそらくサイは、この展開も想定して護衛が数分は生きながらえるように調節していた。そうだとすると、今回の件で本当の意味で生死をコントロールしたのは、ウルズでも私でもなく、サイということになる。怖い人だ。

 

 そんなことを考えながら、いぶきはマロンのもとに行く。


 さて、どうしたものか。

 生かしたものの、正直、海で行方不明になってもらった方が、いぶきとしても楽なのだ。


 恐怖で支配するか、それともやはり……。

 ここはウルズのカリスマ性でしのぐかな?


 いぶきは、あかりとマロンだけを残して、他の人には船室から出てもらった。

 いぶきは神官服に着替えると、マロンの前で膝をつき祈るような姿勢になる。


 「さぁ、迷える子羊よ。貴方の罪を『女神ウルズ』に告白しなさい」

 

 思うに、神前での『罪の告白』は、その神を信じているからこそ意味がある。

 自分が信仰していない神に赦されたところで何の意味もないし、それこそカウンセリングにでも行った方がいいだろう。


 つまりだ。

 

 マロンに懺悔させることができれば、マロンをウルズ教に取り込んだも同然。

 欲を言えば、もうちょっとまともな信者がいいのだが。

 地位だけは高いらしいし、この際、贅沢は言っていられまい。

 

 ルンデン王国は国教として、豊穣の神レイアを信仰しているらしいが、そんなことは関係ない。

 ここは早い者勝ちだ。平和ボケの女神には、目にもの見せてしまおう。フフフ。


 さっき加護を見た時のマッシュルームの驚愕の表情。

 あれならいける。もし足りなければ『奇跡という名の手品シリーズ』新技を披露するまでだ。


 いぶきはそんなことを考えながら、心の中でニヤニヤしていた。


 しばらくして、マロンがポツリポツリと話し始める。


 「実は僕ちんは…兄達にずっとコンプレックスを抱いていて。勉強も武道も魔法も全く及ばない。姉様のような賢さや美貌もない。王族の誰からも疎んじられている。

 だから、せめて結婚くらいは一番乗りになりたかった……。でも、父上に頼んでも誰もお見合い相手を紹介してもらえない。

 それで、ハイネのレストランで見かけた貴女に一目惚れして、神官様なら身分も問題ないし、無理にでもローゼンに連れて帰ろうかと。手違いで人違いして、こんなことをしてしまいました……ごめんなさい」


 聞きながら、いぶきはイライラする。

 『悩みというくらいだから、もうちょっとマトモな内容かと思った。正直、ここまで薄っぺらい理由だとは。……いまから方針転換して殺してやろうかな。ってか、王子の地位で結婚相手いないって聞いたことないぞ。普通、王子って取り合いなんじゃないの?』


 あかりが小声でいう。

 「ダメ。短気起こしちゃ。殴られたわたしが許すっていってるんだから、いぶきちゃんはわたしの意思を尊重すること!」


 『まぁ、やんごとなき身分に生まれた者にしか分からない悩みってあるのかね。でも、こいつ第三王子だし、お気楽な立場な気がするけど』


 いぶきは、努めて厳かな雰囲気で答える。

 

 「女神ウルズは全ての罪を赦します…。では、ご納得いただけたらここにサインを」


 いぶきは、すかさず一枚の紙を出す。

 紙には読めないくらい小さな字でビッシリと注意書きが書いてある。


 特に重要部分を抜粋すると……


 【ウルズ教 信者登録届】

 •本書に署名すると、破門されない限り抜けることはてきません。

 

 マロンは中身を読まずに署名する。

 さすが、サイお墨付きの『ザ•無能な男』だ。


 そして、まろんは安堵した表情で続けた。

 「それで、つい母上に婚約者候補を紹介すると言ってしまいました。それも赦してもらえるとは」


 『は?』

 全てを赦しますとは言ったけれど、そこまではちょっと……。

 いやしかし、今更、前言撤回はできない。

 いぶきは、不本意な形でルンデン王国に太パイプを持つことになるのだった。


 


 ぐぅ〜……。


 安心したらお腹が空いたらしい。

 いぶきとあかりは顔を見合わせて笑った。

 

 食堂で簡単な食事を済ませて、2人は右舷デッキにでる。

 すると、一面の星空。

 果てしなく続く夜の大海原には、細波が煌めき、漆に蒔いた銀粉のようだった。


 あかりは髪をかき上げていぶきを見つめる。


 「助けてくれてありがとう。これ…、この前バイトして買ったんだ。いつもお世話になってる、いぶきちゃんにプレゼント。今夜は月は出てないけれど……困った時に、月の光があなたを照らしてくれますように」


 いぶきは袋を開ける。


 すると、三日月ヘッドのブレスレットだった。

 さっそく手首に掛けると、いぶきは嬉しそうな顔をした。

 『真月の星空に三日月。最高の組み合わせだよ?』


 そして、いぶきは思う。

 

 『船の右舷はスターボードというらしい。きっと、最高の星空が見えるからなんだろう』

 

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