第31章 定期船「ル•マロン」3
——いぶきの船室
潜入するとして、メイド服はどうしよう。
うーん。
うーーん。
………………。
あっ。貴族の人ならメイド服もってそう。
そこで借りるか、貰うか、強奪するか…。
貴族が居そうなところは…。
いぶきは、タッセルのついたロープを思い浮かべる。
やはり4階か……。
4階の方に行ってみよう。
神官服を着ているし、いきなり殴られるとかないと思う(たぶん)。
4階へ続く踊り場にいくと、いかにもお金持ちそうなご婦人がウロウロしていた。
いぶきは、さも神官じみた表情を作る。
「お困りですか?」
「娘が体調を崩し船医さんに診てもらったのですが、これは病気ではないと言われてしまいました。呪いなら手に負えないと。それで神官さんを探していたんです」
いぶきは心の中で大喜びだった。
『わたしのターンきたぁーー!!』
いぶきは、これみよがしに神官服をヒラヒラさせる。
この場に偶然に高位神官がいるとか、願ったり叶ったりのはず。
『あ、あれ? 気づかないな…。アピールが足りないかな』
「……ウルズの神官さんですよね? 私が通ってる教会の牧師さんが『ウルズの神官は聖職者にあらず。ウルズ神官は詐欺集団』といってましたので、他の神官さんに変更お願いできませんか?」
いぶきは口を尖らせた。
『チェンジもきたぁ……』
「いや、私れっきとした聖職者ですし、詐欺集団じゃないです。そもそも、ウルズ神官は少なすぎて集団作れないです」
「うーん。じゃあ、なにか奇跡の証拠みせてもらえませんか?」
——いつもいつも、なんなのもう。
と思いつつも…
「これで信用できますか?」
いぶきはこんなこともあろうかと、とっておきの手品を覚えておいたのだ。
ご婦人にトランプのカードを引いてもらって、後ろを向きながら当てるという古典的な手品を披露した。
この世界には手品というものが普及していないらしく、皆よくひっかかる。この世界の人はチョロい。
「うーん、どうしようかな…」
露骨に迷うご婦人(それはそれでかなり失礼だが)。
『あと一押し…!』
いぶきはなりふり構わず円環陣を出す。
ご婦人は、視覚効果だけは抜群の幾何学的な光のラインに見入っているご様子。
「じゃあ、お願い……しようかな? それで、代金はお幾らですか? 邸宅をよこせとか、娘をよこせとか、無理なのですが」
「タダですし! 不動産詐欺みたいなことしませんし。娘って……、もはや犯罪集団扱いですね……」
なんだか色々と腑に落ちない部分はあるが、部屋に連れて行ってもらえることになった。
いぶきが階段を上がると4階フロアは、左右に別れていた。
ご婦人の船室は向かって左側らしい。
『この人の部屋じゃないとすると、あかりがいるのは右側の部屋か』
ガチャ…。
ご婦人の船室は、高級そうな絵画や壺などが飾ってあり、これが船の中とは思えない豪華な作りだった。
最初に通されたのは応接室で、奥が寝室のとのことだ。
ご婦人が奥から手招きする。
「申し遅れましたが、私はフローラ。娘はフレイといいます。今回は主人の仕事の付き添いで来ています。ご覧の通り、ここしばらくは体調が優れずに床に臥せています。どうにかなりそうですか?」
いぶきが部屋に入ると、娘さんがベッドに寝ていた。
確かに顔色が悪く呼吸も浅い。
『医者じゃないから正直、病気かは分からない。けれど、船医が病気じゃないというなら、きっと呪いとか毒なんだろう。なら私の加護を試す価値はある。これが初の人体での実施になるが……まぁ、何か起きたら、バレる前に回復させる方針で……』
いぶきは、フレイの腕にそっと手を添えた。
そして、両膝をつき掌を組み合わせて、それっぽく祈り始める。
そして囁くように詠唱を始める。
「呪いに伏しても尚、歩み止めぬ旅人よ。汝の望みは、魂の坩堝にあっても再び立ちあがることであろう。世界樹には叡智を。叡智には失望を。失望には九つの世界を。神の泉を見守りし織姫よ。かの者に再び立ち上がる力を与え賜え。神 泉 回 帰」
すると、フレイの苦しそうな表情が和らぎ、穏やかな寝顔になった。
呪いは病気とは違い、解除されるとすぐに楽になる。
やはり呪いだったようだ。
『実践(人体実験?)は初めてだったけれど、無事に解呪できてよかった』と、いぶきは胸を撫で下ろした。
フローラさんは本当に嬉しそうだ。
これは頼み事をするチャンス!!
いぶきは早速、メイド服を貸して欲しいことと、出来れば隣の部屋の船客に紹介する等、顔出しのキッカケを作って欲しいとお願いする。
フローラさんはメイド服は快諾してくれた。しかし、顔出しについての話をすると表情が曇った。
「隣のお部屋は王家の人が借りてるの。うちはお金があるだけの商人風情だから、相手をしてくれるかしら。ましてやメイドを紹介なんて……」
どうやらフローラさんは景気がいい商人の奥様らしい。
今回は行商の付き添いと言っていたので、ご主人の仕事に障ることを気にしているんであろう。気持ちはわかるので無理強いはできない。
「ごめんね、神官さま。命の恩人なのに…」
そう言いかけた矢先。
ガチャ。またドアが開き男性が入ってきた。
いぶきと男性は声を揃えて
「あーーっ!!お久しぶりです」
男性は、ハイネまでの旅路を共にした商人のサイだった。




