間話 名探偵あかり
明日はハイネを発つ日。
昨日のお爺さんが『あかりに別れ話』といって、色々教えてくれたんだけれど、一つ頼まれごとをした。
それは、猫探し。お爺さんのお友達の猫がいなくなってしまったらしい。
旅立つ前の恩返しだ!
なんとか解決したい。
わたしが元々いた世界だったら、猫に首輪つけてたり、登録してたり。色々探す方法はありそうだけれど、この世界にはそういうのはないらしい。
お爺さん、お礼でお小遣いもくれるっていうし、頑張らねば!!
元の世界にいた時にも、飼ってた白猫がいなくなって見つけたことがあるから、この名探偵あかり、にお任せあれ。
え?
その時はどうやって猫を見つけたかって?
ふふん。最近の猫はね。首のあたりにチップを入れるんですよ。
その最新のテクノロジーをもってすれば、なるはやで自動的に市役所から連絡がありまして。
お迎えに行って、事件はめでたく解決しました。
まぁ、今回は、市役所っていう有能な助手さんもいないことですし、そこまではうまくいかないかもしれませんが、きっと大丈夫!名探偵の勘がそういっている。
こういう時には、正確な情報を集めて、しっかり検討することが肝要。習うより慣れろ、もとい、慣れるより習えです。すぐに闇雲に探そうとするアナタ。まだまだですね。
まず、お爺さんのお友達のところに事情を聞きに行きます。お爺さんのお友達はメアリーさんというらしい。
ふむふむ。どうやらギルド会館のすぐ近くに住んでいると?
これは匂います。いきなり真犯人の本命に辿り着いてしまったかも。
メアリーさんの家につくと、玄関ドアの前に『御用の方は呼び鈴を。ジジイは帰れ。ジジイっていってもしつこく来るな。お前だよ、琥珀空』と書いてある。
おじーさん、何したの!!
ちょっと、お爺さんの依頼っていうのは隠してヒアリングした方がいいかも。
呼び鈴を鳴らす。
ガチャ‥と音がすると、何かに警戒している様子でメアリーさんが扉を開けてくれた。
「メアリーさんですか? わたし探偵のあかり、といいます。お宅の猫ちゃんが居なくなったと聞いたんですが‥‥」
「ええ、たしかにうちのネコがいなくなって探しています。あなたが探してくれるんですか? タダって言って変な要求したり、法外な謝礼とか要求しませんか?」
むむむ。メアリーさんはかなりの人間不信らしい。愛ネコいなくなったら仕方ないよね‥‥。
「そんなことしないですよ。わたしはネコちゃんのために立ち上がったボランティアの探偵です。なにかそういうことされたことあるんですか?」
「ええ。うちに頻繁にくるお爺さんがいましてね。ネコのこと話してもいないのに何故か知ってて。見たこともない違うネコを連れてきては、見つけたから謝礼しろとしつこいんです。法外な謝礼を要求して、ついでに、鼻の下伸ばして変な要求もされるんです。ああ、あの顔思い出しただけで吐き気がする」
んー。ちょっとこれはまずい。
ヒアリングの基本は、冷静に相手の話を聞くこと。
こんなに興奮した相手では、有益なヒントは得られません。
話題を変えねば‥‥。
「ところで、メアリーさん。普段はどんなお仕事されているんですか?」
「うちの裏のギルド会館で受付のお仕事をしていました。だけれど、毎日毎日くるお爺さんがいまして。しつこく誘ってくるので、ハッキリ断ったんです。そうしたら、その目は『俺のこと好きな目だ』なんていって、さっぱり会話が通じなくて。そのうち出勤するのもイヤになっちゃって、休職してるんです」
んー。ますます地雷を踏んだ気がする。
泣き出す前に、色々聞いてしまおう。
「猫ちゃんよ名前と柄は? 好きなものは?」
「柄は茶色の縞模様で、小魚が好きです。名前はミーアといいます。それでですね、そのお爺さん、今度は家まで‥‥」
まだ話したいことが沢山ありそうだったが、メアリーさんの家を後にした。名探偵は忙しいのだ。
小魚か‥‥。
港にいけば何かわかるかな。
次は港にいってみた。市場は休みだったので、桟橋の係員さんに聞いてみる。
「猫? 見てないねぇ。あ、でも、へんなじーさんに追いかけられてる茶色猫みたかも。『ニャー』と絶叫しながら逃げていったよ。ほんと、明日は貴賓が来るのに、変質者とか、ほんと困るんだよね」
「貴賓? 誰かくるんですか? わたしもその船に乗る予定なんです」
「ん〜。口止めされてるんだけれどなぁ。まぁ、王族のやんごとなき方だよ。王様じゃないし、名前も言ってないからセーフだよな?」
「アウトだと思いますけれど、わたし口かたいので! んじゃあ、急ぐので行きますね!」
「あ、お嬢ちゃん。これ持っていきな。だから、さっきの話は。な?」
なんか袋に入った魚の日干しをもらった。港で余ったやつなのかな。何でも貰えるものは貰う主義だが、これはニオイが厳しい。
お礼を言うと、港をでた。
んー。名探偵らしからぬ難航っぷりだ。
港。猫。じーさん。
あれ。猫追いかけてるじーさんって、琥珀のお爺さんのことかな?
むむむ。
そういえば、お爺さん。
こんな話をしてたっけ。
———‥‥。
「夜中にへんな声が聞こえて怖いんじゃ! 何かのう」
「おじーさん、それお化けじゃないの〜?」
「ばかもんが。毎晩お経が聞こえるこんな家に好き好んで住む幽霊なんているわけなかろうが」
「おじーさん、破戒僧だから読経のご利益ないのかも?」
「やめろ! それ以上言ったら泣くぞ!!」
‥‥‥‥。
やはり、おじいさんの家が怪しい。
もしかしたら、屋根裏とかに隠れているのかも知れない。
餌の干物を準備してっと。
そろそろ物語もクライマックスの予感。
お爺さんの家に行ってみよう。
お爺さんの家につき、呼び鈴を鳴らしてみる。
ガチャ。お爺さんが、茶色の猫を抱いて普通に出てきた。
「あれ〜。お爺ちゃん猫持ってる!」
「いやぁ、あれからヒョコッと出てきての〜。あかりに教えたかったんだが、どこにいるか分からなかったんじゃ」
突然な結末で名探偵もビックリだが、こうして今回の猫騒動は終わった。
「礼じゃ。夕食を食べていきなさい」
お爺さんは手の込んだ和食を出してくれた。
中には仕込みに時間がかかるものも多く、きっとわたしが戻ってくるのを見越していたんじゃないかと思う。
そのあとは、お爺さんは色々と話してくれて、わたしも久しぶりの和食を満喫した。特に、つるまめと蓮根、竹の子が沢山入った治部煮が美味しかった。やはり故郷の懐かしい味は気持ちが落ち着く。
最後に熱い日本茶を出してくれた。
お爺さんは正面に座ると、こちらをじっと見て一言。
「気をつけて行ってきなさい」
お爺さんにお礼のお金をもらった。
まだ道具屋さんはやってるかな。
いぶきに何かプレゼントを買って帰ろう。




