第26章 ゴブリン討伐 3
いぶきは、信じられい光景を目の当たりにする。
空洞の中に鎖に繋がれたドラゴンがいたのだ。
ドラゴンは体長は10メートル程で、赤い鱗に包まれている。
目は黄色く、瞳孔は猫のように鋭かった。
両肩からは翼が生えており、一見して人間がどうにかできる相手ではないと分かった。
どういう経緯でコイツがここにいるのかは分からない。
しかし、何らかの理由でゴブリンに捕まっていたのだろう。
こんなものがいたらマトモなモンスターは寄ってこない。
いぶきは、この巣穴の無警戒さに合点がいった気がした。
ドラゴンはゆっくり眼球を動かすと、ギロリといぶき達を睨みつける。
いぶきは「逃げろ!!」と叫んだ。
戦略や戦術でどうにかなる相手ではないのだ。生き物としての格が違う。
しかし、逃げ道はなかった。
ゴブリンが鎖を引くと、退路も絶たれる仕掛けらしかった。物理的に逃げ道が閉されている。
当のゴブリンリーダーは、いぶき達の様子に大はしゃぎだったが、ドラゴンに何かを指示して鎖を外した瞬間にドラゴンに踏み潰された。
きっと、ドラゴンは虎視眈々と鎖が外れる瞬間を待っていたのだ。
ドラゴンは大きく息を吸って胸を張る。
辺りに緊張が立ち込める。
いぶきはブレスが来ると思った。
多くのファンタジー作品で赤いドラゴンは火属性、火炎のブレスを吐くというのがお決まりなのだ。
Aliceでは、AIと参加者の意識が融合した世界観になっている。
だとすれば、ドラゴンが火炎のブレスを吐く可能性は非常に高い。
ドラゴンブレスなど吐かれれば確実に全滅だ。
『どうしよう……』
いぶきが茫然自失していると。
あかりが動く。
この状況で躊躇なく身体が動くあかりは、はっきり言って異常だ。
猫だって犬だって、本当に危険な時には身体がすくむ。それが生命の自然な反応なのだ。
ゴブリンリーダーの時にも思ったが、あかりは度胸がありすぎる。
この状況で身体が動くということは、ドラゴンと同等、或いはそれ以上の恐怖の経験があるということに他ならない。
あかりは、最大の防御手段を講じる。
後先の事など考えてはいられない。
その後の奇跡に一縷の望みを託し、いまこの瞬間を生き抜くことだけを考えるのだ。
あかりは「みんな、わたしの後ろに!」と言った。
左手で空書をし両足を肩幅に広げる。
右手で守刀の柄を横に持ち、刃先は左手の掌で支えた。
そして、全ての法力を込めて雷盾の完全詠唱を始める。
「願い奉る 我が法味を捧げし帝釈天よ 悪心にて鬼に報いず、威厳をもって醜鬼を退け賜え 帝釈雷盾!!」
あかりの前に、雷鳴を轟かせ5枚の雷の盾が重なるように出現する。
いぶきも被弾に備えて、加護の詠唱を開始した、
「彼方より来たりて、此方へ過ぎ去りし旅人の運命よ……」
ドラゴンが口を開くと、その奥底に火の力が集約していく。
カインは「くるぞ!!」と叫んだ。
その直後、4人を猛烈な勢いのドラゴンブレスが襲った。並の冒険者なら塵一つ残らない威力だ。
『ゴウッ、ゴウッ、ゴゴゴッ』
雷鳴が轟く度に、雷の盾が砕け散り、炎に飲み込まれていく。
5枚……4枚……3枚……2枚……。
まだブレスは途切れない。
『ゴウッ』
最後の1枚が砕け散る。
「……さぁ、運命の女神よ。旅人に幾許かの猶予を与え給え。永 劫回帰!!」
同時にいぶきの回復の加護が完成した。
雷盾が受け止めきれなかったダメージを、同時並行で回復の加護が癒していく。
ブレスが途切れる。
辛うじて4人とも無事だった。
だが、死力を尽くしてもドラゴンブレスを一回防ぐのが限界だった。
『次は防げない』
パーティーの誰もがそう思った。
しかし、ドラゴンに容赦はない。
また大きく息を吸い始めている。
——その時。
いぶきとドラゴンの間に何者かが立ちはだかる。
ハイネ村で出会った【銀髪双剣の少女】だった。




