第23章 双剣の少女 2
敵っ!?
いぶきは咄嗟に錫杖を構える。
肉弾戦は最弱のいぶきだが、無抵抗で切り刻まれるつもりはない。
銀髪の少女は右手の剣を振り上げると、左下に向かって袈裟斬りのような軌跡で斬りつけてきた。
いぶきは錫杖で受け流す。金属音が鳴り響き火花が飛び散る。
いぶきは左手を前に出し防御魔法を……。
『あっ、私、防御魔法ない』と気づく、いぶき。
とりあえず、直感のままに後ろに飛び退くことにした。
その刹那、少女の返す刀の斬撃が空を切る。
すると、どこからか
「そこまでっ!!」
という声がした。
あかりの声だ。あかりは、いぶきと少女の間に割って入る。
銀髪の少女は、あかりを見るなり舌打ちすると、
「明日のクエストに行くのはやめろ」と言った。
そして、山岳部を駆ける野生のヤギのように、軽快な身のこなしで走り去って行った。
いぶきはあかりに「ね? 見た? わたし戦えたよ。1人でも避けたりできたよー!!」と嬉しそうに言ったが、あかりは真剣な眼差しで周囲を警戒している。
そして、いつになく真面目な表情で言った。
「いぶきちゃん、気づかなかった? かなり手加減されてたよ。あの子が本気だったら、一撃目で、いぶきちゃんの首はなくなってたと思う」
いぶきは、絶句する。
少しは成長したと思ったのに、手加減されてたことにすら気づかないなんて、ちょっとショックだった。
そして思った。『さっきの子、クエストに行くな、とか言ってたけど、なんで私がクエストに行くの知ってたんだろ。
あの食堂で会った2人ののライバルとか? それか私のファン? だとしたら、ちょっと愛が重すぎるぜっ』と。
あかりは、いぶきが呑気にそんなことを考えていると気づいたのか、すこし強い口調で「わたしたち魔法職は、詠唱が必要な分、近接戦闘は圧倒的に不利なの! 次からはすぐに逃げること! わかった?」と言った。
いぶきは、心の中で『あなたは近接でも普通に強いでしょうが』と思ったが、言い返すと言葉の暴力で泣かされそうだったので、「わかりました! 姉様!」と返事をした。
そう。いぶきは、最近はあかりのことを『姉様』と呼ぶことがある。
普段から色々とお世話をしてくれるのだ。
朝起きて顔を洗うと髪を結ってくれるし、食後、口の周りにソースがついていた時も拭いてくれる。
その他にも色々。
そのため、いぶきは、随分年下と思われるこの少女を、姉のように感じる時が多々あった。
あかりの方も思うところがあるらしく、いぶきを『いぶきちゃん』と呼ぶことが多くなった。
2人は顔を見合わせて笑うと、一緒に宿に帰ることにした。
宿に戻ると、2人は早々に食事を済ませてベッドに潜り込む。
明日は、食堂で会った彼らと約束した日なので、身体をゆっくり休ませる必要があった。
眠るまでの僅かな時間、いぶきは、あかりに爺さんとの修行の成果を聞くことにした。
まず、セクハラはされなかったということで一安心した。
スキルについては、どうやら無事にコツを掴めたようだ。
あかりが言うには、仏士がスキルを使うには、普段から【法力】を貯めておく必要があるらしい。
そして、法力は、寝たら回復するという類のものではなく、普段から仏道修行(読経)することで数珠にチャージされるとのことだった。
一緒に行動をはじめてから、あかりがお経を読んでいた気配はなく、そのため法力不足でスキルが使えなかったらしい。
法力については、爺さんと沢山お経を読んだから、今は満充電ということだった。
そして、これは私にも関係あることなのだが、魔法スキルの使用には、簡略詠唱と完全詠唱の2つの方法があるらしい。
簡略詠唱では、一言か二言でスキルが発動するかわりに効果が限定され、完全詠唱では、その魔法が本来もつ効果が発揮されるが、時間がかかるとのことだ。
そして前提として、簡略詠唱には詠唱全文を暗唱できる必要があるので、初めての時はできないとのことだった。
あかりは、まだ色々と話したそうだったが、いぶきは抗えない眠気に襲われて、そのまま目を閉じたのだった。
次の朝のまだ薄暗い頃、いぶきとあかりが少し遅れて待ち合わせ場所にいくと、ケインとアリアはすでに待っていた。
ケインはチャラい割には時間には性格らしい。
合流すると、ケインは早速本題に入った。
「前も話したけれど、俺はケイン、そいつはアリア。戦士と格闘家だ。2人はギルド登録はしてきた?」
「なら、カード見せて。ふむふむ、2人とも【Fランク】か。意外だな。まぁ、今回のクエストは初心者向けだから大丈夫」
「俺とアリアは【Eランク】だし。目的地まで少し距離があるから、詳しいことは歩きながら話すよ」
そこまで話すとケインは歩き出す。
あまりに情報が少ないので、いぶきが「どんな内容のクエストですか?」と聞くと、ケインは足を止めることもなく言った。
「ん? ゴブリンの討伐だよ。だから、今はゴブリンの巣穴を目指してる。この前、様子を見てきたんだけれどさ。人間なら1人通るのが精一杯のしょぼい穴だったよ」
「入口小さいし、どうせ中も狭いでしょ。俺らダンジョンの経験ないけどさ。きっと洞穴みたいなもんだし。高位神官様もいるし、余裕だろ?」
いぶきは思った。
——こいつ、私らのスキル詳細も回数も聞かずに、余裕とかマジで言ってるのか。神官でも回復魔法使えなかったらどうするんだよ。
——それに、【ゴブリン】、【巣穴】、【ダンジョン未経験】、【即席パーティー】だって? 死亡フラグ立ちすぎ……。
いぶきは激しい不安感に襲われ、心の中で誓うのだった。
『最悪の場合でも、あかりだけは絶対に死なせない』




