第21章 破戒僧 琥珀空
しばらくすると、あかりが暗室から出て来た。
いぶきがあかりに結果を聞くと、ランクはEで未開放スキルは【有】になっていたとのことだった。
ただ、未開放スキルの右に【(未覚醒)】と書いてあったらしい。
モヒカンに聞いても、結果表示は多岐に渡りすぎていて、よく分からないとのことだった。
いぶきは『システム的には解放されているんだけど、使い方が分からないから使えないって意味かな? なら、1週間あれば間に合うかもしれない』と、前向きに考えることにした。
少なくとも【未開放スキル:無】よりは遥かに良い。
ランクもEとは。スキルが使えるようになれば、Eよりも上なんじゃないかと、思う。
モヒカン当てにならないな、といぶきは思った。
登録が終わったところで、自己申告【ランク:F】の2人は、クラス特性やスキルの覚え方について、モヒカンに聞いてみた。
モヒカンがいうには、2人ともかなりのレアクラスらしい。
いぶきは、Aliceマネージャー山﨑の言葉を思い出す。
…………………。
…………。
———「Aliceで与えられるクラス(ジョブ)は、プレイヤーの個性や経験、意識と密接に関連している。とはいえ、見聞きした事もないようなクラスは、プレイヤー本人が高精度に認識できず拠り所とすることができない。そのため、大体の場合は、ある程度は類型化された【戦士】、【魔法使い】、【僧侶】といったクラスとして顕出することが多い」
だが、特殊な経験や強い信念を持つ場合には、特殊なクラスとして現れることがある、とも山﨑は言っていた。
モヒカンが言うには、【仏士】は、かなりレアなクラスらしい。
いぶきのウルズ神官も珍しいらしいが、それは絶滅危惧種というだけのようであった。
そして、レアクラスというと聞こえはいいが、必ずしも【レア=強い】という訳ではなく、同じクラスの冒険者と情報交換ができないため、かなり不利ということだった。
いぶきは、ダメ元で、モヒカンに誰かあかりの教官ができる人を紹介してくれないと聞いてみた。
すると、モヒカンは「いるにはいるんだけどね〜」と言いながら、いぶきとあかりを一瞥すると「やっぱ、ダメね」と一言。
『こっちは時間がないんだ』と、いぶきが食い下がろうとすると……。
いぶきは背後から「どうしたんじゃ?」と声をかけられた。
突然のことに、飛び上がりそうになるいぶきとあかり。
振り返ると、散切り頭に無精髭の(編笠をかぶり小袖に黒袈裟といった服装の)虚無僧のような老人が立っていた。
老人といっても、2人よりも遥かに肩幅があり背も高い。
念珠を掛けた首元も筋肉質で、帯刀しているせいもあって、僧侶というよりも侍のように思えた。
老人は、いぶきとあかりを足元から頭まで舐め回すように見ると、ニヤりと笑う。
「なんじゃ! お化けでも見るような顔をしくさって。ワシはほれ、ピンピン生きとるぞ。おまえさんにも触れるからのー」と言い、いぶきの尻を鷲掴みにした。
いぶきは、女性としては超初心者なので、この手のトラブル対策が全くできていない。
恥ずかしいし、悔しのだ。
不覚にも座り込んで泣いてしまった。
モヒカンが、老人に汚物を見るような目をして怒鳴る。
「向こう行ってちょうだい。エロジジイ。シッシッ」
ジジイは逆ギレして「なんじゃい、かわい子ちゃんがいるっていうから少し覗きに来ただけじゃろうが」と口を尖らせて言った。
そして、いぶきは。
子供のように涙を流して「えーん、えーん」と本気泣きのままだった。
モヒカンは、いぶきに優しく「さっき話した教官候補、この爺さんなのよ。ほんと無理でしょ?」と話しかける。
いぶきはようやく泣き止むと、親の仇を見るような目で老人を睨みつけ、あかりに聞いた。
「あかり、この人がそうみたいなんだけれど、どうする? 聞くまでもないよね。嫌だよね?」
ところが、あかりの反応は意外なものだった。
「え、うちのおじーちゃんもこんな感じだったから全然大丈夫だよ?」と、あかりは、あっけらかんとした表情で答える。
というか、気づくと、「ヤダもー」なんて爺さんの肩を叩きながら、すでに歓談している。
あかりを別の意味で尊敬した、いぶきだった。
モヒカンが言うには、あの爺さんの名前は『琥珀空』といい、元は高名な僧侶であったらしい。
仏教全般についての造詣が深く、人格という点を除けば、あかりの先生としては適任ということだった。
いぶきは「元ってことは、破戒僧ってことだよな。まぁ、何やらかしたかは、聞かなくても分かるが」などとブツブツいいながら悩んでいると。
あかりと爺さんは楽しそうに話している。
「ワシは三障四魔が……」
「それでわたしは三毒というものは循環すると捉えてて、特に瞋が起点だと……」
「いや、おぬしわかっとるな。そもそも、キリスト教においても罪の重さは……」
「おじいさん、偉そうなこと言っても、魔に負けたから虚無僧みたいになってるんでしょ?」
側から見てると、本当に楽しそうだった。
爺さんも、あかりに対しては性的な視線を向けることは全くなく、孫と話すような優しい目をしている。
あかりも楽しそうにニコニコしている。
いぶきはその光景を見て、あかりが亡くなった祖父のことが大好きだったと話していたのを思い出した。
いぶきは、良かったと思うけれど、少しだけ寂しかった。
だけれど……。
「ちっ、仕方ないか」と言うと、いぶきは、あかりに、お爺さんに色々教えてもらうように声をかけた。
そして、通りざまに爺さんの足を思いっきり踏むと、キッと睨んで、ギルド会館を後にしたのだった。




