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いぶきとあかりの異世界回想録♬  作者: おもち
第二篇 旅をする意味
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第13章 守刀の意味 2


 『いぶきが死んじゃう』


 あかりの心臓は激しく脈打ち、暑くもないのに汗が吹き出した。


 ……わたしのせいだ。


 守刀をしっかり持とうと、柄を握り直す。しかし、かじかんだように手が震えて力が入らない。今にも地面に落としてしまいそうだ。


 あかりは守刀を両手で持つ。

 

 なんとか剣先を盗賊に向けるが、その切先はブルブルと震えていた。


 ハッ、ハッ、ハッ…。


 息を吸い込んでも、空気が肺まで入ってこない。息を吸ってるのにチアノーゼになってしまいそうだ。


 

 絶望的な気持ちのあかりの脳裏に、幼い頃に聞いた父の言葉がよぎる。

 

 ……あかりは祖父が大好きだった。


 祖父が亡くなった時、祖父の胸の辺りには、短剣が置かれていた。あかりは不思議に思い、あれは何なのか、と父に尋ねる。


 すると、父は普段と違う優しい声で答えた。


 「あかり、あの守刀はね、亡くなった人を魔から護るお守りなんだよ。その人が仏様のもとまで無事に辿り着けるように、守刀を持たせてあげるんだ」


 その言葉を聞いたあかりは、祖父のもとまで駆け寄り、祖父の守刀に、そっと手を添えた……。




 あかりの中で、何かが繋がった。


 『だからわたしは、きっとこの世界で守刀を与えられた』


 ———大切なものを守るために。


 敵を殺すために刀を抜くのではない。

 大切な人の道を切り拓くために相手を倒す。


 それは生と死の流転のようだ。


 わたしは、覚悟を待って刀を抜かなければならない。


 あかり意は決する。

 すると、その決意に応じるように守刀が淡く光った。


 あかりは手慣れた手つきで守刀をいったん鞘に収めると、盗賊に駆け寄る。


 脇差は盗賊からは見えない。

 盗賊はあかりが素手だと思った。


 相手は女だという侮りもあったのだろう。

 男は、あかりの接近など意に介さず、いぶきにトドメを刺そうとする。

 

 あかりは盗賊との距離を詰めると、脇に挿していた短刀の鞘に手を添える。


 左手でくるりと鞘をまわす。


 そして、右の逆手で柄を持つと、ひらがなの『つ』の逆順で描くように、下から振り上げる軌道で守刀を振り切る。


 守刀は、男の視界の外から突然現れ、男の首に横線を引くように切り裂く。


 男は何の反応もできない。


 自分の首から血が吹き出していることにも気づくことなく、無言のまま絶命した。


  

 直後、いぶきが詠唱を完成させる。


 「……さぁ、運命の女神よ。旅人に幾許かの猶予を与え給え。永 劫(エーヴィヒ)回帰(ヴィーダーケーレン)!!」

 

 グラスの胸の傷に光の粒子が収束する。


 すると、吐き出した血はグラスの胸のあたりに戻っていき、イソギンチャクのような動きで胸の筋組織が修復されていく。


 何度見てもグロい光景だが、いぶきの加護は出血も元に戻すので、対象者の体力も回復する。


 これは他の回復魔法にはない性質だった。



 盗賊のリーダーはグラスを見下ろしている。


 回復したところで握力は戻らないだろうと、たかを括ったらしい。薄ら笑いを浮かべると、ナイフを突き出し、グラスにとどめを刺そうとする。


 しかし、血が戻り握力が回復したグラスはサーベルを力強く握りしめ、盗賊のリーダーの攻撃を防いだ。


 そして、そのままサーベルを回転させ、左から右上に振り上げる。すると、相手の喉仏のあたりに剣先がかすった。


 直後、盗賊のリーダーの首から、鮮血が飛び散る。


 彼は目を見開くと、口をパクパクさせながら、言葉を発することなく前に倒れ込んだ。


 全ての盗賊を倒した。


 いぶきとあかりは、顔を見合わせ、へたりとその場に座り込む。


 安堵したところで、いぶきは自分の脚のことを思い出した。


 太ももに深い裂創を受け、神官服は血まみれ。

 筋肉まで切れて、骨も見えている。


 それを見ると、急に激痛に襲われた。


 「いたたたたた。痛いよー。痛いー!!」


 いぶきは、太ももを抱えて地面に転がり、泣き叫ぶ。


 急いで自分に回復の加護を使うが、何故か効果がない。


 『もしかして、戦闘中の緊迫状態じゃないとダメ?』


 もしくは、自分には使えないとか……。


 どちらにせよ、相当『不便な』仕様だ。


 『私きっとハイネに着く前に出血で死んじゃう』


 いぶきがのたうち回っていると、グラスが応急処置をしてくれた。


 傷口に薬草と軟膏を擦り込み、足の付け根のあたりを布の切れ端できつく縛ってくれると、血が止まった。


 さすが、元傭兵団団長。


 おかげで、とりあえずは死なずに済みそうだ。

 痛いのはそのままだけれどね。

 

 荷馬車は騒がしい怪我人を乗せ、一路、ハイネを目指すのだった。


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