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いぶきとあかりの異世界回想録♬  作者: おもち
第二篇 旅をする意味
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第11章 月明かりの夜に 3


 

 いぶきは、音をたてないように忍び足で外に出た。


 宿にいる間に月明かりは雲に隠れてしまったらしい。辺りは真っ暗だった。そのせいか、さっきよりも風が肌寒く感じる。


 宿の裏に手頃な空き地を見つけ、そこで色々と試してみることにした。


 いぶきは、こめかみを強く押さえて朧気おぼろげな記憶を引っ張り出すと、手探りで検証を始める。


 まずは、『ロケーション』。

 目を閉じロケーションと叫んでみた。


 ……何も起きない。


 理由は、コマンドに座標がないからだとすぐに気づいた。


 ロケーションは座標を指定して移動するコマンドだ。同様に自分以外の対象を、指定座標に送り込むこともできる。


 ただし、正確な座標を把握していないと、移動先で壁にめり込み即死なんてことにもなりかねない。


 また、ロケーションは、目視した地点をクリックすることで移動する機能もある。


 今度は、少し離れた地点を注視しながら、ささやくように「ロケーション」と言ってみる。すると、一瞬で目の前の風景が変わり、お目当ての場所に移動した。

 

 どうやら、ビルダーコマンドは小声でも発動するらしい。あのグロい回復呪文と違って、長々と詠唱しなくてもいいようだ。

 

 次に、クリエイトウェポンを試してみる。


 クリエイトウェポンは『ウェポン』とはついているが、アイテムのIDが分かれば、どんなアイテムでも作り出せる。


 まさしく、創世術というに相応しいコマンドだ。しかし、これにも落とし穴があり、アイテムのIDが分からないと使えない。


 適当にIDを入れるという荒技もあるが、モンスターにもIDが割り振られているため、運が悪いとドラゴンなどの凶悪なモンスターが召喚されかねない。


 いぶきが覚えている唯一のID。それはID No.1『バナナ』だった。

 

 いぶきは囁く。


 「クリエイトウェポン ID No.01」

 

 すると、金色の文字がどこからともなく現れ、スルスルと収束していく。


 ……神々しい雰囲気で『バナナ』が生成された。


 いぶきは、むなしい成功の味を知った。


 いぶきにはあと一つ、試してみたいコマンドがあった。


 それは『ハイド』だ。

 これは対象を透明化するコマンドで、ハイド/オン状態なら、物理攻撃も透過する。


 うまくいけば、戦闘に非常に有用だ。これは、是非とも成功させたい。


 いぶきは囁く。

 「「 ハイド/オン 」」

 

 すると、周囲の風景が瞬時に色味を失い、グニャリとネガのように色調反転していく。あの世からこの世を覗いているような、奇奇怪怪で吐き気をもよおす世界。


 すると、その世界の中を、死をまとった何かが、猛烈な速度でこちらに向かってくる。


 いぶきは危険を感じ、すぐにハイドを解除した。反転していた風景は、スッと元通りに戻ったが、いぶきの鼓動は激しく脈打ったままだった。


 このスキルはすごく危険な気がする。


 きっと、物体の姿だけを強引に消し去るこのコマンドは、この世界にとって歪すぎるのだ。

 次に使えば、アビスに見つかるかも知れない。


 『不用意に使うのはやめよう』

 いぶきは心に誓った。


 この検証で一つ分かったことがある。


 座標等の明確な数値が必要なコマンドは、数字指定をしない場合には、目視できる距離でなければ使えない。

 

 そこで一つの推論が成り立つ。


 隔離部屋にあると思われる、ワールドコマンドを使うためのアイテム。その詳細は不明だが、おそらく、先ほどのロケーションのように対象物の目視を必要とするハズだ。


 だとすれば、いぶきがアビスの目の前まで辿り着けたとしても、ワールドコマンドが発動するための時間を誰かに稼いでもらわねばならない。


 いぶきは回復職ヒーラーだ。


 到底、ひとりでアビスの元まで辿り着くことはできない。仲間の力が必要だが、自分の詳しい事情は話せない。


 万が一、他のテスターに、いぶきが運営の一員だと知られれば、どんな嫉妬や疑念をもたれるか分からなかった。


 ここは、誰もが明日の我が身をも知らぬ極限の世界だ。大袈裟じゃなく、猜疑心さいぎしんによりいぶき自身が殺されかねない。


 アビスはどうだろう。


 『この世界から逃がれたくば、私を倒し……』と言っていたのだから、禁則事項の《《クリアによるユーザーの解放》》は維持されていると思われる。


 しかし、同時にアヴェルラークを《《無限の回廊》》と表現しており、また、禁則事項に違反しない範囲で、自身を無敵化している可能性は高い。


 だとしたら、きっと他のテスター達の攻撃は通じない。


 攻撃やスキルが通じないアビス相手に、文字通り身をていして、いぶきの盾になってもらわなければならないのだ。


 『きっと、仲間達は、私を守り死ぬだろう』


 ————そんな旅に、こんな嘘つきの私の為に巻き込むことはできない。


 ここでの死は本当の死を意味する。


 死でしまうくらいなら、この無限の回廊の安寧あんねいの方が幸せなのかもしれないのだ。


 私のクラスが神官なのも、何かの『運命』なのだろう。少しでも犠牲を防ぐために、私自身が強くならないと、と思った。

 

 思い詰めた顔をしていたらしく、あかりが声をかけてきた。いぶきが居ないことを心配して探しにきてくれたらしい。

 

 あかりはいぶきの顔を覗き込む。

 そして、パァッとひまわりのような笑顔で。


 「いぶき、心配しないで。事情は知らないけれど、何かすごく困ってるのはわかる。大丈夫、わたしは一緒だからね」


 と言った。


 そして、いぶきの手を引くと宿に向かって歩き出す。手を引かれながら、いぶきは思う。

 

 『なんでもお見通しだな、この子は』

        

 ありがとうね。あかり。

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