※この物語には実在の人物は出てきません。二刀流のファンタジーキャラです
「ほら。おっさん」
「おう。いつもすまんなぁ」
顔なじみのホームレスのおっさんに売り物の玉子を一個くれてやった。
ああ。野球がしたい。
でも貧乏だから道具も買えないし、家の手伝いもしないといけないし。
いい野球チームに入るのにもいいコーチを雇うのも金がいる。
くそっ!結局金かよ!この街で成り上がるには野球しかないのに!
「ボーッとしてんじゃねぇ!」
「あっ!」
売上と玉子が入ったカゴをイカツイ男に獲られた!足が速い。追いつけそうにない。
「……頑張ってるのにいいことねぇや。貧乏人は野球するなって神様が言ってるのかな?」
「なんだ?お前野球選手になりたいのか?」
ホームレスのおっさん。あんたに相談してもしょうがないけど。
「そうだよ。でもグローブもバットも買えない裸足の俺に野球をやる資格なんか……」
「野球するのに必要なのはハートさ。ハートがあれば野球は出来る。頑張ってればいいことあるさ。それに君は優しい。優しい子は天使様が幸せにしてくれる」
「うるせえっ!天使なんかいるか!綺麗事言うな!あんたに玉子をあげても良いことないじゃないか!いいことなんて……ないっ!」
「仕方ねぇなぁ」
おっさんは立ち上がるとボロボロの服を脱いだ。
服の下は赤と白のユニフォーム。
背番号は『17』。このカラーリングのユニフォームはもしかしてエンゼル……天使?
「貰った玉子。使わせてもらうぜ」
おっさんは綺麗なフォームで玉子を投げた。
すげぇ!167キロは出てるぞ!
「ぐわぁ!」
玉子ドロボーの頭に玉子が直撃した。
ざまぁみろ!
「……てめぇ」
「ヒィッ!やばいよおじさん!」
あいつ!ピストルを構えやがった!
逃げないと!
「にげるこったねぇよ」
おっさんはその辺に落ちていた鉄パイプを拾ってバッターの様に構えた。
何をするつもり!?
パキューーン!
カキーン!
「う……ぐわっ」
「……信じられねぇ」
おっさん。ピストルの弾を打ち返しやがった!ドロボーは肩を押さえてうずくまっている。
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玉子ドロボーか警察に連れて行かれるのを確認しておっさんは立ち去ろうとした。
「待ってくれよおっさん!俺の名前はヌート!俺に野球を教えてくれ!」
「……野球。懐かしい言葉だ。本気なのかい?ヌート」
「本気さ!……でもお金は無いんだ」
「授業料は毎朝俺に新鮮な玉子を届ける事でいい」
「もっもちろん!じゃあ教えてくれるんだね?」
「どうやら野球の神様はまだ俺を離しちゃくれないらしい。悪いが訳あって俺は名前は教えられない。好きに呼んでくれ」
「……んーと。じゃあねぇ」
決まってるさ!この人は認めないだろうけど。この名前しか考えられない!
10年前に姿を消した伝説のメジャーリーガー。世界の二刀流!
「ショーヘイ!」