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咲菜
病室に戻った私は現実に引き戻された感覚がした。分かっていたけれど、受け入れられない。中には眞人の父、母、妹の咲菜がいた。咲菜はバドミントン部の後輩だ。父と母は泣き崩れているのが分かったが、咲菜は涙をこらえて冷たくなった眞人を見つめていた。私は何も言えなくなった。
「倉沢先輩。」
咲菜がふと口にした。
「兄に何があったんですか?」
「…」
「黙ってないで答えてください!何も知らない訳ないですよね?学校で何かトラブルがあったから兄は」
「咲菜!」
その声は眞人の母だった。「それ以上言うのはやめなさい…。」
眞人の母は咲菜に叱りつつも同意していて、私は胸が締め付けられた。私たちのせいだと思ってるんだ。それくらい思いがけない突然のことだったのだろう。
「今すぐ帰ってください。倉沢先輩も、浅野先輩も…。あなた達に同情されたくありません。」
「とりあえず、帰ろう。千紘に話したいことがある。さっきの、」
その時一瞬咲菜の表情が変わった。やっぱりとでも言うように。でも、それ以上は何も言わなかった。そして私たちは病室をあとにした。